▼  運命の手招き



(1179年/飛竜の節)





「学校、ですか」

父であるルーバートから齎された話に、レイネは朝食のパンをちぎったままの姿勢で疑問を返した。かつて拙さに歯噛みした手足はしなやかに伸び、既に幼さの面影はない。
ルーバートは大いに頷く。

「先日ガルグ=マクで行われた儀礼祭で大修道院の方にお前のことを話したら、たいそう興味を持たれてね。お前を士官学校に推薦してくださるそうだよ」  

町にもある教会は小さくはあるが祈りを捧げる町民が絶えない。
フォドラ大陸は一神教であり、各地に配置されるセイロス聖教会の総本山こそがガルグ=マク大修道院だ。そこに併設された士官学校では方々から貴族が集う。

「お前は頭が良いし器量も気立ても良い、どこへ出しても恥ずかしくない自慢の娘だよ。主のお膝元ならばきっと素晴らしい縁と巡り会えるだろう」

「学校……」

“以前”の生活にもあった、馴染みのある響き。
このままこの屋敷で、閉じられた人生を歩むよりよほど拓かれていて有意義だ。知りたい事は多くある。――なぜ自分が異端な形でこの世に生を受けたのか。
手掛かりが得られる可能性を思うと自然と笑みが形作られていた。

「ありがとうございます、楽しみです」

「良いんだよ。レイネはせっかく頭が良いんだし、この町だけで終わらせてしまうのは惜しいからね。
一年の別れは寂しいけれど……一年か……そうだな、一年は些か長すぎるな……」

ルーバートは具体的に口にしてみて一年の長さに気づいたのか、指を組んで悶々と悩み始める。このままでは入学を取りやめるのではないかという落ち込みようだ。

「て、手紙を沢山書きますね。休暇があれば帰ってくるようにしますから」

「ああ……俺はここを離れる訳にはいかないからね。そうしてくれ、ぜひ」

ルーバートが気を取り直したのを見、レイネはほっと胸を撫で下ろす。

「さて、お前の了承も得られたし返事をしなくてはね。制服の採寸もしなければならないし……」

本格的に入学へ向けて話が動き出し、レイネの心は久方ぶりに弾む。いったいどんな場所なのだろうと夢想に耽ろうとしたところで、ああそうそう、とルーバートは言い添えた。

「お前の入学を是非にと推薦してくださったのは、修道院に身を置くアルファルドという方だ。多忙な方だが、お会い出来たときはしっかり挨拶するんだよ」