▼  波の音、潮の風



厨房に顔を出せば、幸いなことに輸入物の焼き菓子が手に入った。
ティーセットと合わせて自室に持ち込めば、部屋が甘い香りで満たされる。
家政婦がいない今、細かい作法を気にする必要はない。味見を兼ねてつまみ食い。輸入物らしく異国の香辛料の味がした。
テーブルにクロスを敷き、ティースタンドと取皿に焼き菓子たちを盛る。ティーカップを温めるために湯を注ぎ、その湯を瓶に捨て、茶葉を手に取り……。

「あまり食べると夕飯に響くから程々に」

したほうが良いよ。そう続けようと顔を上げると、彼はすでに両頬いっぱいに焼き菓子を頬張っていた。
やはり貼り付けたような無表情で、ところが頬はもさもさと咀嚼している。

「っ……ふ」

そのアンバランスさが可笑しいのと、純粋な食欲で飛び付くさまがいかにも子供らしかったことに対する安堵。思わず笑ってしまう。

「お腹、空いてたんだね。おいしい?」

頷きはひとつ。なによりも簡潔な肯定だった。