私、豊村梨花が彼に出会ったのはほんの偶然でした。ええもう本当に!
その時私は陸上部に所属する友達(男子)の練習をポケーッと眺めていました。ええ勿論暇でしたよ。暇でしたよ。だってその友達(男子)、陸上部の中でダントツで速いんですもの!
だって貴方、自分の友達(男子)が陸上部の中で一番速いってどんな気分か想像してご覧なさいよ!友達(男子)が何のアクシデントも無く、ライバルも全然いなくてダントツで一位取るのをただ羨望の眼差しで見るのと、友達(男子)が部内でダントツで遅くて皆に付いて行こうと精一杯走って、途中で自分と同じくらい遅い人とぶつかって転んで更に皆より遅れるのを爆笑しながら見るの、どっちが楽しい!?後者でしょ、絶対後者だってば!!そして笑いどころが無い私の友達(男子)の走り。畜生まだ四時じゃねーか。練習終わるまで二時間もあるよ!!
とまあ、色々考えたりもしたんですけど、あまりに暇だったもので、ちょっと他の方向に目を凝らしたら…彼が、いたのです!!
真っ直ぐに前を見つめる瞳、風になびいて空を舞うように揺れる蒼い髪、風を纏うよったような物凄いスピードで走り抜けるその姿…

「ちょっとー?」
「ああああい何でしょう!?」

初めて私がその彼をお目にかかった時、休憩を取ろうとしたのか何なのかよく分からないけどその友達(男子)が私の所に来て戸惑う位には私は彼をガン見していた。

「ボーッとすんなっての。オレの練習見に来てんだからよぉ」
「ああうん、ごめん」

私が謝ったのに友達(男子)はハァ?とか呟いた。駄目だよ男の子がそんな汚い言葉発しちゃ。あ、違うやこれは女の子に向けて言うべき言葉だったよ間違えちゃった。

「全然心が込もってねーよ!!さっきから上の空だし。謝る時くらいしっかりしりよ!!」

謝る時に心が込もって無いとかあんたに言われたく無いんですけど!こっちが真面目に怒ってるのに「あ、悪ィ(笑)」で済ませちゃうようなアンタに言われたく無いっつーの!!まあそんな事言ったってどうせアンタはまた「あ、悪ィ(笑)」で済ませちゃうんでしょうけどね!!だから私何も言わないお口にチャック。

「ま、今回は許してやるよ(笑)」

(笑)!!(笑)!!(笑)ですって今の聞きましたか奥様!!許してやるですって何様のつもりなんでしょうね彼!!ああ、何様オレ様マッハ様ですか。畜生良い御身分でしょうねえマッハ様め!!
もういいやマッハ様には何言ったって聞かないもの。そんな事より彼を見る事に集中しないと!
やだぁ、まだ走ってますわ彼!真面目ですね途中で休憩に私の所へ来たマッハ様とは違うんですね!!豊村梨花14歳、本気で感激感動ワンダホーゥ!!です!!
あの、是非名前とか…あっやだ恥ずかしいってば私ったらもう!神の領域に達しちゃった彼に名前を聞くなんてなんて末恐ろしい…
おーっと!走っていた彼に金髪の少年が寄って来た!凄い金髪だ素晴らしい!!染めたの?染めたのかな?あっでも少年、金髪以外似合わなさそうだからきっと地毛だね!えっ正解?わーい梨花ちゃん嬉しーい!

「風丸さん!」
「どうした宮坂」

カゼマル?カゼマル?あっあなたのお名前ですかカゼマル君!
というかこんなに離れてても聞こえちゃうのはきっと恋する乙女のパワーだよね!声もイケメンですねカゼマル君!
とにかく私の名前は豊村梨花です!よろしくお願いしますねカゼマル君!あれっ聞こえてないや!!まあこれが私のメールアドレスです!!今から書いたメモ投げるので受け取って下さいカゼマル君!!あっ届かなかった。
今回収しに行きますカゼマル君!貴方が走るこのフィールドを汚したくは無いので!!
勿論回収してから手渡しなんてそんな大それた事しませんよ、カゼマル君から受け取りに来てくれるなら話は別ですけどね!
あっでもカゼマル君また走り出しちゃったよ。金髪の少年…確か名前ミヤサカだっけ?いいなあミヤサカ君カゼマル君の隣走れて!私と場所代わってよ!!カゼマル君に付いて行けるって事はミヤサカ君も結構速いのかな、って思ったけど違ったね!!カゼマル君軽ーく走ってたよ!まあそれでも格好良いよカゼマル君!梨花はいつでもカゼマル君を見てます!付いて行きます!たとえ火の中水の中草の中森の中、土の中雲の中カゼマル君のタンクトップのユニフォームの中までも!!付いて行きます!!あっ無視ですかスルーですかですか。大事な事なので二回言いましたー。あっねえやだ、ホント皆スルーしないで。

「よしじゃあ皆、今日の練習はここまでだ」

友達(男子)の声で、走ったりハードル練習してたりした皆がちょっとずつペースを落として止まり、こっちへ向かって来る。えっていうかもう六時!?さっきまで四時だったのに!!
って、ああ!!カゼマル君もこっちに来るよぎゃああ!!私今日寝癖とか酷いし唇カサカサだしどうしよう!!誰か、誰か私に鏡とクシブラシとリップクリームを!!あああ、ってもうすぐ近くまで来てるよぎゃああ!!にっ逃げろ!!逃げるんだ梨花!!たまには逃げる事も大切よ!
ってああ!正座してたせいで足痺れたぁ!立てない!立てない!誰か助けてHelp me!
あっカゼマル君の荷物置いてあったのちょっと向こう側だ!あんまり近くまで来てないや良かったあああ。あっでも何かすっごい不思議そうな目でみてるよ私のこと!何で遠くにいるカゼマル君の表情が見えるかって?そりゃあ勿論恋する乙女の女子力ならぬ女視力ってヤツですよあんた!!ちなみにミヤサカ君の名前を覚えていたのもさっきカゼマル君の声を聞いた途端、私の脳がカゼマル君の言葉を一言も間違い無く頭にインプットされる仕組みになっちゃったからですよ!!これぞ正に、『恋する乙女の力ってスゲーッ』ってヤツですね!


(130401)


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