笑顔を。 | ナノ



少年と笑顔。




「今日は一段と寒いなぁ、冬獅郎。」

白い息を吐きながら、火黒は呟く。
冬獅郎はそれを横目でちらりと見た。

「…ここのことはわからない。」

そう、今さっき自分が死んで
霊界という場所に来たというのに
今日は一段と寒いなど、知る筈もない。

俯く冬獅郎を火黒は優しい笑顔で見つめる。
自分の今の顔を鏡で見ると、見た事がないほどの
笑顔なんだろうなと思うくらいに。

「…そうか、冬獅郎はさっきこの世界に来たばかりなんだな。」

「…。」

「生前の記憶とか、残ってるのか?」

びくり、冬獅郎が反応した。

火黒に反応したことを気づかれていないと思ったのだろう、
冬獅郎は俯いていた顔をもっと火黒から見えないように隠す。

しかし、火黒はそんなことを冬獅郎がしても既に気づいていたので
ふ、と苦笑いをした。

(この話は禁句か…?)

それなら、早く話題を変えようと火黒は慌てる。

「ほ、ほら、冬獅郎!あの家が俺たちの家だ。」

タイミングよく見えてきた我が家に
火黒は指差す。

しかし、冬獅郎は少しだけ目を家に向けて、
また俯く。

火黒はこの空気をどうにかしたかったが
それは無理だと感じ、なんとか笑顔を保とうとした。

「…え、と。
と、冬獅郎の部屋も確保しないといけないな!」

にこ、

火黒なりに、精一杯の笑顔を冬獅郎に見せる。

しかし返って来たのは最悪な一言だった。

「…嘘笑い。」

(こ…この、餓鬼!!!)

軽蔑するような目で言い放った冬獅郎に
火黒は口角をひくり、とさせた。

内心穏やかではない火黒に気づいているのかいないのか、
冬獅郎はまた顔を見えないようにする。

火黒は冬獅郎のその行動にも、イラっとして
早く家に入るように言った。



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