財前と名字と別れてから、すぐにスマホのトークアプリを開く。
日吉と海堂、それから桃城と4人でのグループを作り今日のことを報告しなくてはと文章を打った。
『財前の幼馴染と大学同じだった。』
中学、高校と話にしか出てこなかった財前の幼馴染。ついに身元確定。話だけひたすら聞かされていた俺たちは興味がないと言えば嘘になる。それがなんと俺の高校のクラスメイトで、大学も学部も同じであったと知ったらあいつらは食いつくネタだろう。
◇
初めて財前の幼馴染の話を聞いたのは中学2年のとき。
U-17合宿で同室だった俺たちは部屋に桃城も呼んだりして結構仲良くなっていた。
いつだったか、先輩達に幼馴染多いよなって話になり、その時に「俺にも幼馴染おるで」と言った。それが最初。でも財前からはあまり話を聞くことはなかった。
代わりにというか、謙也さんをはじめとする四天宝寺の先輩たちがこぞって名字と財前について話してくるようになった。
「あれはなあ、絶対好きやと思うねん」
「せやねえ。あれは完全に無意識のうちに好きなやつよぉ」
「そうなんすか?」
「おん。だってな…」
先輩たちによると、財前目当ての女子が幼馴染である名字に対して嫌がらせとか、そういう類のことを企んでるところを偶然見つけた財前が圧力をかけて止めてるとか。通りかかったらずっと目で追ってるとか。テニス部で寄り道したり出かけたりすると結構な頻度で幼馴染が好きそうなものとかを買ってるとか。
そんな話を聞いてもちろん、直接財前に問い詰めた俺たちだったが「そんなことあらへん」「あいつはただの幼馴染や」の一点張り。いつしか俺らも幼馴染についての話を聞くことはなくなっていった。
◇
「俺、大学は都内に進学しようと思ってん」
高校の部活も引退間近。最後の合同夏合宿の時。財前はそんなことを口にした。
「てっきりお前は大阪の大学に進学するものだと思っていたが…」
日吉の言葉に全員で頷いた。年取ってもこれだから東京のもんは〜とか言いそうだもんな。
「まあ、いろいろあんねん」
「もしかして、好きな子が都内進学だからとか?」
「……好きっちゅーか。ほっとけないねん」
俺的には割と揶揄ったつもりで言ったのだがなんとほぼ正解だったらしい。目線はスマホの画面を向いたままの財前の返答に皆が目を丸くして目を合わせる。次に口を開いたのは桃城だった。
「へえ〜彼女ではないのか?」
「ちゃう。幼馴染や」
高校生になって財前の口から幼馴染の話をしたのはこの時が初めてだった。また皆で目を丸くする。海堂なんて目見開きすぎて目力やべえよ…
それから他の奴らとは「都内まで追いかけるなんてやっぱり財前は幼馴染のことが無自覚で好きなんだろう」と勝手に結論づけた。
◇
そして今に至る。大学に入る頃には財前と幼馴染のことなんてすっかり忘れていた。きっとあいつらも同じだろう。今頃驚いて俺からの連絡を見ているはずだ。
というか結局あいつまだ付き合ってないのかよ…。財前あんなに足蹴ってきたし、自覚はしてんのか?名字はそもそも好きって気持ちがわからないとか言ってたじゃんか。てか財前わざと名字が立海なの隠してただろ。とかなんとか考えてたら通知がきた。くっそ、あいつらに愚痴ってやろう。
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