なぜ、今、彼が私の前で笑っているのだろうか。

困惑していると向こうから話しかけてきた。



「なあ、お前、名字さんだろ?」

「え、あ。はい…」



思わず視線を逸らしてしまったけど、許してほしい。まさかあなたと面と向かって名前を呼ばれるとは思ってなかったのだから。











四天宝寺中学校を卒業して、私は大阪を離れ神奈川の立海大付属高校に進学した。

テニス部の全国大会の応援に行った時に観た、対戦校の1つだとすぐわかった。



…つまり、テニス部は大変人気であるということ。



中学生の頃、光と距離が少し遠くなった理由の1つに、光がテニス部に入ってから2人でいるだけで女の子からの視線と圧力がすごかったというのもある。



入学してみるとやっぱりテニス部は大人気、しかも全国優勝校ということもあってファンの数も勢いも、四天宝寺とは比べものにならなかった。


同い年にももちろんいたし、部長になった子と3年生の時に同じクラスにはなったけれど、あまり関わらないように過ごしてきたので軽い連絡事項と挨拶くらいで話すことはほとんどなかった。











そして冒頭に戻るわけである…つまり今目の前で笑っている彼が、その立海テニス部元部長である「切原赤也」くん。その人なのだ。



「ああ!今目逸らしただろ!」

「ご、ごめん。切原くん、だよね?」

「そうそう!知ってたんだな良かった!」



もちろん有名人ですから…という言葉は心の中に留めておいて、なんの要件か尋ねると、



「今日のさー講義あんまよくわかんなくて、教授に聞きに行こうと思ってんだけどどの部屋いるかわかる?」

「んーと、たしか隣の棟の3階とかだったはずだよ。…でも、なんで私に?」

「つるんでる奴ら誰も覚えてなくてよ。そしたら名字いるのに気づいてお前ならならわかるかなって思って!ビンゴだったぜ!」



そうすると切原くんは「助かったぜ、サンキューな!」と言って走り去ってしまった。



この後隣にいた友達たちに「名前ちゃん、切原くんと知り合いなの!?」と問い詰められたのは言うまでもない…



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