人類最強のおさなづま一日目(1/4)

今までの人生真面目に生きてきた。生きてきたつもりだ。厳しい父と母の言いつけを守り、大人しく一日を過ごし、言われた事に口応えもせず、父と母のすすめる結婚相手を名前も顔も知らずに了承した。私の一体何が悪かったのか。何のツケがきたというのだ。
真面目に生きてきて、地味としか取り柄と言いようのない私が、あの、人類最強と謳われるリヴァイ兵士長と結婚するなんて。


「ある程度家具は揃えたつもりだが、欲しいものがあったら言え。用意する。」

「は、はい…、あ、ありがとう、ござい、ます…。」


青々と広がる本日の青空は、結婚生活一日目としたら最高の日だった。しかし生憎私の心は鈍色の曇天。何処からか雷の音も聞こえてきそうなくらいだ。


「前にも言っているが、なるべくここに帰るようにするが、俺はだいたい兵舎で過ごすことが多い。何かあったら俺の名前を言って兵舎に来ても構わない。」

「は、はぁ…。」


別に帰ってこなくても私は大丈夫です。とは死んでも言えない。人類最強のリヴァイ兵士長殿に対してそんなことを言うなんて、親に逆らう事以上にありえないだろう。
ゴツゴツとブーツを鳴らして、真新しい椅子に腰掛けたリヴァイ様に慌ててお茶の準備をする。ええっと、紅茶にしようかコーヒーにしようか…。いや、せっかくだから紅茶にしよう。今日この日のために新しい茶葉を買ってきたじゃないか。せっかくの結婚。新婚生活。相手が巨人殺しの達人中の達人だからと言って、妻としての役目を放棄するつもりはない。むしろ人類最強の妻となってしまったのだ、彼の健康管理は私の役目。妻としての仕事はたくさんある。例えお互いに望まぬ結婚だとしても、そこに燃えるような恋はなくとも、道に咲く一輪の花のような小さな愛を育んでいきたい。
しゅんしゅんと鳴くヤカンを持ち上げ、茶葉をいれたポットに静かにそぞく。蓋をしめ、蒸らしている時間にカップと手作りの焼き菓子を用意する。あとは入れるだけのお茶の蓋をそっと持ち上げるとふわりといい香りが鼻を擽り、その液体をゆっくりとカップにそぞく。リヴァイ様が用意してくださった白磁のティーセットに綺麗な飴色が揺れる。


「リヴァイ様、どうぞ。」

「…ん?ああ…。」


人類最強を目の前にして震えずお茶を用意できたのは厳しい母の教育の賜物だ。心の中で感謝した。こくりと彼の喉仏が上下し、リヴァイ様の口から特にマズイ等の言葉が出てこなかったことに安堵する。


「なまえよ。」

「は、はい…っ」

「今日からお前は俺の妻だ。」

「はい…そうです、ね…。私は、今日からあなた様の、妻です。」


なんだか妻という言葉が出辛かった。
妻という発音はこんなに難しいものだっただろうかと思うくらい。


「だから、その『様』というのはおかしいとは思わないか。」

「はぁ……」


リヴァイ様の傍で直立していた私を、リヴァイ様が椅子を引いて座るよう促す。私はそれに小さくすみませんと告げて腰掛けた。一人で一個旅団並みの実力を持つと言われる方を前に、つい俯いてしまいそうになるも、なんとか耐えてちろりと見上げる。


「では、リ、リヴァイ、さん…。」

「それもよそよそしい。」


じゃぁ何と呼べばいいのだ!
調査兵団兵士長であるリヴァイ兵長をなんとお呼びすれば!?兵長!?リヴァイ!?畏れ多いです!


「で、では………あ、…あなた…と、呼ばせて頂いてもよろしいでしょうか…。」


いきなりリヴァイ兵長と結婚の話があると言われ、あれよあれよと婚約し、婚約期間も無いに等しく結婚という今に辿り着く。今のあなた様を呼び捨てにするには、この距離はまだ遠い。それでもあなた様が近寄れと言うのなら、ボーダーはここだろう。そう、夫となった人を見詰め返した。


「そうだな…。悪くない。」


そう言ったあなたは、その言葉の通り、満更でもなさそうに紅茶を啜った。

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