人類最強のおさなづま一日目(2/4)
人類最強と褒め称えられるリヴァイ兵士長と結婚することとなった。
私の家は古くから王家に仕える貴族の家だが、王の口からその名を口にされるのは久しくなってしまった。王のお呼びが無ければ金も、その存在も薄くなってしまう。かつての繁栄を思えば、今はなんとかウォール・シーナに屋敷を構えているようなものだ。長男である弟はまだ幼く、王の元へ登城するのはまだ先であろう。そこで、弟が育つまでと駆り出されたのが私だ。
最初は調査兵団団長、エルヴィン・スミスとの縁談だったらしい。しかしエルヴィン・スミスがまだ身を固める気はないと言い、その下で右腕、またを人類最強と呼ばれる兵士長リヴァイへと話はくだった。
我が家とすれば本命だったスミス氏との縁談に指をくわえているところだろうが、知名度と地位を足してしまえばさほど大差はないと父は思ったのか話はすんなりと決まった。
そして話は今にあたる。
「俺は兵舎に戻る。夕飯前には戻ってくるつもりだ、飯の準備をしてくれると助かる。」
「もちろんです…っ」
兵士長殿の毎日は忙しいようだ。
二人で済むには十分な広さの家を用意してくれたはいいものの、あまり家に帰れそうもないと言う。それは結婚する前から言われていて、あのリヴァイ兵長と夫婦関係になるなんて想像していなかった私はそれを飲み込める程冷静じゃなかった。しかし改めて籍を入れて二人この家に居ると、それはそれで少し寂しい気もしてきた。
(でもリヴァイ兵長だもの。人類最強なんだもの。忙しいのは当然だわ。)
互いの利益が一致した結婚でも、育む愛もある。例えこの人が私のことを何とも思っていなくとも、私はきちんとこの人を愛そう。目にかかる影で悪い目つきが更に人相を悪くしているし、態度は時々尊大そうだし、人類最強というオーラがびしびしと当たって正直一言言わせてもらえばとても怖いけれども、彼が私の旦那様になった以上、私は彼に尽くさねば。
「あの、」
紅茶と茶菓子を食すだけの僅かな時間を過ごすと、彼はすぐに席をたってドアへと向かった。
もしかして、すぐに戻らなければならないところを、私が実家から越すからわざわざ来てくれたのだろうか…。
「どうした。」
「えっと、…その、」
振り返ってわざわざ私の前に来てくれる、私の旦那様。
忙しい中、ありがとうとも、ごめんなさい、とも言いあぐねている私の言葉を、あなたは急かす事もなく待ってくれた。
駄目じゃない、なまえ。これから私は人類最強のリヴァイ兵長の妻となるのだから。そう心を奮い立たせ、胸を張り、ぐっと顎を引いて、できる限りの笑みを浮かべた。
「いってらっしゃい。あなた。」
うまく、笑えただろうか。
何も返ってこない沈黙の間に、奮い立たせた心がふにゃりと曲がりそうになった時。
「ああ。」
それを支えるように、彼の大きな手が私の頬に触れた。
「いってくる。」
擽るような指先に、思わず首をすくめてしまった。すぐに離れた指先は私の顎を持ち上げるように撫でて離れ、その指の隙間から、少し目元を柔らかくさせたあなたの顔が見えた気がした。