へいちょとようじょ(1/15)
それは、何処からともなく突然現れた。
今までリヴァイしかそこに居なかった部屋に、突然それが現れたのだ。侵入してきた気配もなく、形跡もなく、リヴァイが手元の資料を一段落させ、顔をあげた時にはもうそこにいたのだ。
―真っ白な服に身を包んだ、小さな少女が。
誰だコイツ、と、何処から入ってきやがったを一緒に考えるが、どちらもぱっと答えは出てくれない。席から立ち上がり、静かに少女の前に立つ。
白い装束の少女はまるで寝ているかのように床に転がっていた。おかしい。先程までこの床には塵一つも落ちていない状態だったのだが、まさか少女が落ちているなんて。
「おい。」
声を上から掛けるも反応はなし。
足で突いてやろうかと思ったが、相手は一応子供で女の子だ。上げかけた足の代わりに腰を下ろし、丸い肩を揺すった。
「おい、起きろガキ。」
「ん…」
小さな唇の奥から幼い声が出る。柔らかそうな睫毛がふるふると震え、その奥の瞳がゆるゆると姿を現した。一つの曇りもない、幼子特有の綺麗な瞳。
「あ…、あなたは…」
そして少し舌足らずな声。
「そりゃこっちの台詞だ。ガキ、てめぇ何処から入った。」
「え……?」
きょとりとリヴァイを見詰め返す瞳に怯えはない。自慢ではないが、リヴァイはあまり第一印象が良くない。子供はまだしも、新兵でさえも震えあがってしまう程目つきが悪い。まぁ、リヴァイに言わせればこの子供も新兵もさして大差のないガキなのだが。
「どこから、といわれても…。わたし、としょしつでおひるねしていたのですが、あの、ここはどこですか?」
質問を質問で返された。
しかもリヴァイが聞いた答えは返ってこない。
「ここは俺の部屋だ。図書室で昼寝してたわりには、随分寝相がいいんだな。」
リヴァイの部屋から図書室兼資料室は距離がある。昼寝して寝ぼけてここまで来るにはなかなか苦しいものがあるが。
「あなたのへや…?ここは教会じゃ、ないのですか?」
「あ?お前、ウォール教のガキか?」
「ウォール、きょう…?」
「………………。」
寝転がっていた少女が上体を起こし、曇りのない瞳でリヴァイを見上げる。
歳はいくつだろうか、多分、一人で『お使い』ができるくらいの歳だろう。
「ガキ、名前は。」
「なまえです。あ、だめ、ちがいますユリアです。」
「なんで自分の名前間違えんだよ。」
「ユリアです…っ、ユリア。」
「…そういうことにしてやろう。」
葉っぱのような小さな手で自分の口を押さえる少女の名前は、ユリア、というらしい。…確実に偽名を使われたような気がするが、少女がユリアと呼んでくれと言っているようなので、そう呼ぶとする。
「あなたのおなまえは?」
歳のわりには、随分ませた口調の子供だ。
「リヴァイだ。」
「リバイさん!」
「違ぇ、リ、ヴァ、だ。」
「バ!」
「ヴァ。」
「ば…ば…、ばあ!」
「…バでいい。」