お医者様の黒猫(1/3)




「このベッドに何人の男が寝たんだよ。」


ここが病室にも関わらず、神田は白いベッドにナマエを投げて両手首を掴んで縫い付けた。彼女はベッドに投げられた時だけ痛そうに顔を歪めたが、すぐに神田が上に乗っかった時には嫌味な程上品な唇で微笑んでいた。


「それは…、」


真っ赤なルージュが言葉を繋ぐだけで唇は厭らしく艶かしく光り、彼女の雰囲気を淫靡なものにした。彼女を押し倒すことで形勢はあきらかに神田にあるというのに彼女の大人の微笑みはまるで子猫とじゃれているように感じられた。


「患者の数も含めるの?それとも、肉体的なコトをした人の数だけかしら。」

「どっちも同じだろう。」

「そんなことないわ。これでも医者だから患者には手を出さないもの。」


豊満な胸を押し込んで締められた白衣が彼女の呼吸と一緒に上下する。少し視線を下げれば白衣下の黒いスカートから美しい脚線美が見えて神田は誘われるようにそこに手を滑らした。ナマエは「ぁん、」と気持ち良さそうに声を漏らして毒すような瞳で神田をうっとりと見つめた。よく手入れされた白い指先が神田の顔のラインをなぞり、ぞくりとするその手付きに神田は撫でられた猫のように、名残惜しげに離れていく指先を追った。


「引く手数多の神田様が私ごときにヤキモチ?神田様だって、私の知らないところでよろしくやっているのでしょう…?」


室長の妹さんと…、紡いだ言葉を喰い尽くすようなキスで封じた。完熟した林檎にかぶり付くようにすれば林檎からは麻薬のような果汁が溢れ出てくる。その果汁を一滴も残さないように飲み干せば神田の頭は麻薬を吸ったかのようにふわふわと浮いた感覚に陥り、目の前のナマエしか見えなくなった。


「その名前で呼ぶな、と言った。」


濡れた唇をシャツの袖で拭けば思った通り、林檎の色がシャツに映った。毒のような、色。


「あら、どう呼んで欲しいのかしら?」


ナマエは黒猫の顔を両手で包んだ。黒い子猫はナマエの手付きに切ない表情で歪み、爪先で顎を撫でられた時には溜まらず声が漏れてしまった。


「…っ、」

「どう呼んで欲しいの?言えたらご褒美をアゲル。」


ご褒美という言葉をこれ程までに厭らしく言えるのはきっと彼女だけだろう。神田はそんな彼女に自分の匂いを付けるように首筋に顔を埋めてスカート下に手を入れようとしたが、それは彼女の手によって止められた。


「駄目よ。ちゃんと言わなきゃあげない。」


くすくすと笑う彼女の声に耳が刺激される。馬鹿にされている、と思う反面、彼女は自分をこういう風に扱っている時が一番活き活きしている。そして、一番、自分が好きな顔をしている。


「ユウ、だ…。そう呼べ。」


よく耳をすまさなければ聞こえない声で神田は言った。命令文になったのは少しでも主導権を握っていたいからである。いや、もう遅い話かもしれないが。(自分は既に、彼女に主導権を握られている。)それを聞いたナマエは楽しそうに微笑んで自ら服のボタンを外し始めた。はち切れんばかりのシャツから解放された胸はこれから二人を誘う快楽の行為に喜ぶように、踊るように揺れた。下着の上からでもわかる形のいい胸にごくりと生唾を飲み込めば神田は頭を抱えられナマエのその胸へと優しく顔を埋める形になった。それから囁くように彼女の言葉を貰えれば神田の下半身は熱を持って固くなる。


「いい子ね。ご褒美をあげるわ、ユウ。」











お医者様の黒猫



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