桃ぱふぇ(1/2)

それは、恋する乙女のように。
「はぁ……」
先日手に入れた夏の景趣を背景に、高欄に凭れるようにして髭切が溜息をついた。心地良い漣の音と、時折入る潮風に吹かれ、憂いが込められたそれは審神者の耳に届いた。シャツの釦を緩め、肘まで腕捲くりをしたその姿は随分と暑苦しそうだったが、多少だらしない格好をしててもそれさえ絵になるのだから羨ましい。せっかく夏の連隊戦を頑張って手に入れた海が見える景趣だというのに、爽やかな雰囲気を無視した深い溜息に審神者は苦笑を浮かべた。
「どうしたの、髭切」
外では海水浴を楽しんでいる刀剣達もいるというのに、何やら浮かない顔をする髭切の元へ歩み寄れば、すぐに長い腕が審神者へ広げられた。スカートの裾を潮風に取られながらも、強請られるまま髭切の元へと腰を下ろせば、包み込むようにして抱き寄せられた。
「はぁ……」
先程のものと比べると、ややゆったりとした、満足げなものに聞こえた。やっと落ち着いたとばかりに、でも再び溜息を零した髭切に審神者は首を傾げた。
「連隊戦、疲れちゃった?」
労りを込めて肩口に埋められた頭を撫でてやると、髭切はその腕に顔を押し付け、口を開いてはかぷかぷと甘噛みを繰り返してきた。柔い二の腕に白い牙が少しだけ食い込んだが、突き破るようなことはなく、ただ歯を立てたいだけの甘えた噛みつきに審神者は困惑する。
「あ、あの……?」
何か不満があるような表情で噛み付かれると、理由を聞かず無下に払うのも可哀想な気がする。様子を探る限り深刻さはないように見えるのだが、小さな不満を訴えるようなそれに取りあえず思い付いたことを聞いてみる。
「お腹、すいた……?」
すると髭切は腕から顔を離し、今度は物足りないような表情を見せて唸った。
「うーん…………」
空腹、というわけではないらしいが、空腹じゃない、わけでもないようだ。審神者を抱き締める力を強めて、すりすりと頬を擦り合わせられるとますます意図がわからず戸惑ってしまう。
「髭切? どうしたの?」
「……むやみやたらに食べたい、ってわけじゃないんだけど…………」
「うん……?」
どうやら審神者の読みは当たらずといえども遠からずといったところか。しかし髭切自身も抱いた感情に整理がついていないようだった。ぽつりと零した言葉を聞き返して、ゆっくりと続きを待てば、髭切は審神者を抱いたままぽつりぽつりと話し出した。
「この間……」
「うん」
「弟とね、パフェを食べんだ。桃パフェ……」
「へえ、いいじゃない。旬だもんね。美味しかった?」
「うん……」
「羨ましいな。私も食べたい。今度私も連れてってくれる?」
「……うん。君と食べたらとても美味しいと思う……うん、すごく……」
美味しかったと口にするわりには、どこか歯切れが悪い。しかしとんでもない味だったわけではないようで、何があったのだと苦笑を浮かべながら審神者は聞き出した。
「髭切をそんな顔にさせるほどの桃パフェって気になるなぁ。どんなパフェだったの?」
「…………」
聞けば、口を噤んでは何か言いたげな瞳を向けられた。言いにくいことなのだろうか。じっとりと向けられた目は物欲しそうにも見えて、審神者は再度首を傾げて続きを待つ。
「……?」
すると、髭切はその時食べた桃パフェを思い出すように視線を下げ、「あのね……」と一言置いて語りだした。
「――見た目がね、すごく綺麗だったんだ。頭に乗ってる桃は皮がついたままで、可愛いピンク色でね、一個ずつ丁寧に剥いて食べたんだよ。とても柔らかくて、一口噛んだら果汁が口から溢れるほど出てね、甘くて、香りが良くて、瑞々しくて。もったいなくて少しずつ食べることにしたんだ。飾りのチョコレートも少し力を入れたらぱきっと折れてしまうくらい繊細で綺麗だったんだよ。すぐに食べきってしまったんだけど……。あとね、中にはアイスクリームがあって、溶けたアイスと一緒に桃を食べたらすっごく幸せな気分になって、ちょっとずつ食べようと思ってたのにぱくぱく食べちゃって……。でもね、お好みでお酒のソースを渡されていたことを思い出して、食べきる前にそれを全部かけて食べたんだ。そしたらさっきまで美味しいな、可愛いなって思ってた桃パフェの香りが一気に濃くなって、お酒のソースってこともあってくらっとしたんだけど、またそれが美味しくて、急に大人っぽい味になってドキドキしたんだ……」
「……は、はあ…………」
先までの歯切れの悪さはどこへやら。一気に捲し立てられた勢いに審神者は押されてしまう。
しかしそんな審神者の反応など気にした様子もなく、その食べ尽くした桃パフェが目の前にあるがごとく、髭切は残念そうに肩を落とした。
「気付いたら全部食べてしまってて、もっと味わって食べたかったなって……」
感動するような桃パフェに出会えて良かったのだろうが、いかんせん反応に困る。たかが桃パフェ、されど桃パフェ。見た目からは想像できないほど健啖家である髭切は、なんでも美味しそうに食べるのでやや舌味覚音痴なのかと思いがちではあるが、なんだかんだ正解の味がわかるくらいには肥えている。その髭切を唸らせる逸品から見たこともない表情を見せられ、審神者の胸にちくりと棘が刺さったのは秘密にしておきたい。
しかしそんな審神者の棘を優しく抜き取るように、俯いたままの髭切がそっと顔を上げた。
「だって、まるで……」
「……まるで?」
「――……君を食べてるみたいだったから」
「っ……!」
自身の唇を小さく噛んだ髭切に飛び跳ね、審神者はその場から後退った。
「な、な、も、桃パフェでしょ……!?」
空腹を我慢するように噛んだ唇に何を思い出しているのやら。尻をついたままずりずりと距離を取れば、髭切が手をついて追い掛けてくる。
「君なんて桃みたいなものじゃないか。柔らかくて、甘くて、いい匂いがして。あの桃パフェが君に似てると思ったら、食べている間ずっと君のことを考えてしまったんだよ」
「なんで……!」
「そうやって甘い香りを漂わせて、邪気を払うつもりが呼び寄せてしまっていることに気付いていないのかい?」
「な……、何の話っ?」
背中に高欄が触れ、端に追い詰められたことを知る。そのまま後ろへ行けば白い砂浜に真っ逆さまだ。じりじりと距離を詰める髭切が審神者の腕を取り、抱き寄せる。先と同じように包み込まれたが、耳に触れる唇の距離がやけに近いし、腰を抱く腕が脇腹を擽るように撫でてくる。
「桃はね、昔から鬼を払う食べ物なんだよ。鬼を退治する昔話があっただろう。あれはそこからきてるんだから」
「いや、あの、髭切……っ」
「桃を食べたら、君を食べたい気持ちが少しは紛れるかと思ったけど、食べたらもっと君が恋しくなっちゃった」
「っ!!」
抱き寄せた女の体を傷付けぬよう、優しく撫で付ける手付きは桃を扱うかのようだった。首筋に鼻を寄せ、すうと嗅いだのは桃の香りか。うっとりと出された吐息に産毛が逆立ち、まるで桃にでもされている気分だった。
「夜は暑いし、連隊戦もあったからしばらく無理させちゃいけないって我慢してたけど、でも、もういいよね」
「も、桃パフェの、話……だよね……?」
「うん? ああ、そうだね、桃の話だよ。ほら、もっとこっちにおいで。日に当たると傷んでしまうよ」
海が一望できる場所から日影へと引きずり込まれ、審神者の視界に髭切だけが広がる。
「あまり海に出てもいけないよ。塩水につけすぎると甘みが損なわれてしまうらしいから」
強引に引き寄せたと思えば、額にかかる髪をよける指先は驚くほど優しくて戸惑いに目が泳いでしまう。
「……わ、私、桃じゃない……」
苦し紛れに視線を外せば、そっと顎を取られて上向かせられる。待っていたのは蕩けるような柔らかい微笑みで、滴るような美しさと甘い声が審神者の耳を擽った。
「そうなのかい? こんなに甘い匂いをさせてるのに?」
「し、知らない……。勘違いじゃない……っ?」
「そうかなぁ。でも、舐めてみたらわかるかも」
「……っ」
ぺろりと、一瞬の隙をついて頬を舐められた。
慌てて舐められた頬を手で抑えたが、赤い舌を覗かせた髭切の艶っぽさは尋常ではない。釦を一つ二つと外した胸元から覗く喉仏がごくりと上下すれば、それを目の前で見届けた審神者はすっかり男の色気にあてられてしまった。
「……うん、甘い。他のところも甘いのかなぁ」
「ひ、髭切……っ」
ごそごそと体を弄る手が審神者の細腰に触れる。夏だからといって薄手のシャツとロングスカートだけの格好は、難なく男の手の侵入を許してしまった。
「待って、こんなところで……、……っ!」
外では海水浴を楽しんでいる刀剣達がいたはずだ。日影に誘われはしたが、あちら側から見えてしまう可能性がないわけではないと気を取られていると、髭切の顔がすぐそこに迫り、あっという間に唇を奪われていた。
「……っ」
「大丈夫、ちょっとだけ。ちょっとだけ触って、舐めるだけだから」
ちょっとだけを強調するように、ちゅ、ちゅ、と唇を押し付ける髭切に大丈夫そうな気配は無い。唇を甘く吸われ、時折舌先で擽られる感覚に、味わわれているようで恥ずかしくなる。かあ、と頬が熱くなるのを感じると、嬉しそうに目を細めた髭切が顔を寄せ、宥めるようにして赤くなった頬や耳に口付けた。
「……どんどん甘くなるね」
吸い上げる唇から可愛らしい音をたてられ、体がぴくぴくと反応してしまう。それを指摘された気がしてますます恥ずかしさが募った。
「う、そ……」
「嘘じゃないよ。ほら」
「……ん……っ」
腰の線を撫でていた手がシャツの中に潜り込み、優しくこねるようにして柔らかな膨らみを揉みしだく。シャツの中で骨張った男の手がやわやわと動き、襟から髭切の指が見えた。刀を扱うに相応しい大きな手に胸が覆われているのを見たとき、なんとも言えない羞恥が審神者を襲って息が上がる。
「は、ぁ……」
「香りも濃くなってきた。そんなに僕を誘ってどうしたいの?」
灰がかった淡い真珠色の髪が視界を横切り、甘い声が耳朶を震わせる。その艶めいた甘い声に、誘っているのは髭切の方だと審神者は唇を噛む。桃パフェの話をしていたと思ったら、誰に見付かってもおかしくない場所でこんなことをされるとは。外から聞こえてくる他の刀剣達の声を探りつつ、でも胸を優しく捏ねられるとどんどん理性が鈍っていく気がする。今にも突き出てしまいそうな声をなんとか堪えていると、意地悪な指先が尖った胸の先を弾いた。
「あッ……!」
「可愛い。美味しそうに色付いてきた」
「あ、やぁっ……」
下着をくぐり、指先が頂きを捉える。きゅっと摘まれると体に鋭い痺れが走り、切なさに似た感情が滲む。そのまま転がすように指先を擦り合わせられると全身の力が抜けていき、逃げているのか倒れてかけているのかわからない体に髭切が覆い被さってくる。
「髭、切……っ」
「ん?」
震える手でなんとか態勢を保っているというのに、髭切は構わず前屈みに顔を埋め甘く肌を吸い続けている。その前傾姿勢から髭切の下腹部が膝に触れ、審神者は触れたものの硬さに驚き狼狽えてしまった。
「……あ、…………あたって、る……」
膝に当たった昂りを弱々しく指摘すれば、これみよがしに髭切が腰を揺すって擦り、ふふと小さく笑った。
「――当ててるって言ったら?」
「……っ!」
知ってて当てていたのか……!
自覚があってそんなことをするのかと目を剥くと、髭切はまた笑って審神者から体を引いた。覆い被さるようにされて困っていたというのに、ふとその体が退くと寂しさが込み上げ、引き止めるような目で髭切を見てしまった。
「大丈夫。触るだけって言ったからね」
不安そうにした審神者に告げた大丈夫は、一体どの意味だったのだろうか。まだ離さないの大丈夫なのか、これ以上は触れない大丈夫なのか。どちらの意味かはかりかねていると、髭切がスカートの中へと手を入れ、指先を滑らせるようにして太腿を撫でた。
「下着、脱がしていい?」
「で、でも……」
「スカートは脱がさないよ。はい、腰上げて」
こんな場所で脱がされるのは抵抗があったが、流れるような髭切の手際の良さに下着はするりと取り払われてしまう。途端、無防備になったそこに、剥きたての果実になった気分の審神者は足を擦り合わせた。白い足を交差させ、大事な場所を隠そうとすれば、ほう、と静かな吐息を聞いた。どこかうっとりとしつつ、熱っぽい吐息に吹かれた体が小さく震える。
「触るね」
恥じらう足をそっと押し開き、髭切の指先が果肉に触れた。
「んっ……」
「本当に、桃みたい。甘そう……」
髭切が手を動かすと、小さな水音が聞こえてきた。
「やだ、恥ずかしい……っ」
「うん、恥ずかしいね。でも僕しか見てないよ」
「あ、あぁ……っ」
ぴちゃ、と濡れた音と共に果肉の筋を割られ、指の動きが滑らかになっていく。ぬるぬると蠢く指に媚肉を掻き分けられると、せき止められていたものがそこからゆっくりと溢れ出た気がして、一層羞恥が煽られた。
「んっ……あっ……」
とろりとしたものが肌を伝った感覚にひくんっと震えると、それまで笑みを浮かべていた髭切がごくりと喉を鳴らした。それから審神者の足を大きく開いては、吸い付くようにしてそこに顔を埋めた。
「……ごめん、我慢できない……」
「えっ……」
開いた足の間に、淡い髪色が収まっていた。続いて熱い息をそこで感じた瞬間、審神者から溢れる果汁を啜るような音を聞いた。
「ひっ、やっ……んんぅっ」
「はぁ……、甘い……。ずっとこれがしたかったんだ……」
「髭切……っ」
「瑞々しくて、すごく甘いよ……、くらくらする……」
伝う果汁を零すまいと舐め上げられ、ぷくりと顔を出した小さな粒に吸い付かれる。ちゅ、と音を聞いたあとには可愛がるように舌先で撫でられ、審神者はびくびくと浮き上がる腰と共に声にならない声を上げ達した。
「んっ……、ぁっ……、ん、んーっ……!」
まるで、搾った果汁に漬けられたような気分だった。強く張り詰めた体を弛緩させると、ふわふわと揺蕩うような心地になり、全身の力が抜けていく。
「可愛い。蕩けた顔……」
ふにゃふにゃとした顔で浅く息を繰り返していると、それを嬉しそうに眺める髭切がいた。その微笑み一つで甘美な心地を与えられ、審神者はまた震えだしそうになった。咄嗟に視線を落とせば、髭切の足の間が強く膨れ上がっていることに気付き、審神者は小さく息を詰めた。
「あ……、あの……」
「ん? 心配してくれてるのかい?」
スラックスを押し上げるようにして主張するそれに、審神者はつい、痛くないのかと髭切を見上げてしまう。髭切は笑みを浮かべたまま、ベルトの金具へと手を伸ばした。
「なら、少しだけ入れていい?」
カチャ、と金具が緩められる音を聞いて、達したばかりのそこがひくついた。欲しい、と確かに返事をした体を抱きながら、審神者はそっと髭切を見詰めた。
外の声はもう、だいぶ前から聞こえなくなっていた。いや、気にならなくなってしまったのか、そうさせられたのか。
「少し、だけ、なら……」
もじもじと向けられた目に髭切は苦笑し、前を寛げた。
「我慢できるかなぁ」
そう言って、穏やかな面差しからは到底想像できない、赤黒く反り立ったものを取り出し、審神者の腰を引き寄せて軽く持ち上げた。髭切の先が審神者にあてがわれ、くちゅ、と音と一緒に突き立てられた。
「髭切、あっ、駄目……そこっ……」
しかし硬く張った先は中には入ろうとせず、果肉を掻き分け、粒をいたぶりだした。むき出しの先端は熱く硬く、中の果汁を掻き出すようにして動かされる。時折、中に入る素振りを見せては引き戻され、また頭を埋めたと思えばすぐに抜かれるそれに切なさが募った。
「や、ぁ……っ、やだ、髭切……っ」
また中程まで入れられた圧迫感に息を詰めたが、すぐに引き抜かれて、体がふにゃりと崩れ落ちそうになる。自身に手を添え、熟したそこを好き放題に荒らす髭切に審神者は縋った。
「髭切……っ」
「我慢して。触って舐めるだけって言ったよね」
「んっ……、いい、から……っ」
「いいの? ほんとう?」
くぷ、と先だけ埋められるもどかしさが勝る。早く欲しいと体から責め立てられるようにして、審神者はこくこくと頷いた。
「んっ、ん……!」
「欲しいなら、ちゃんと言って。君から僕を欲しがって」
「あっ……」
焦らす声がもどかしい。
これ以上はおかしくなりそうだ。
そこから動く気配がない髭切へと、強請るように審神者は腕を伸ばした。
「ひげきり……っ」
「でも、なんだかもったいないね。もっと時間をかけて君を味わいたかったんだけど」
髭切の硬く張った先が中で引っ掛けられる。すぐにでも抜かれてしまいそうなそれに、もったいないも何もない審神者は腰を浮かせて髭切を強請った。
「やだぁ……っ、もう、髭切が、欲し、いの……っ、いれて……っ」
「ふふ、えっちだなぁ。でも、君から言われたら、仕方ないよね」
ぐずるような声を上げると、髭切はたっぷりと笑みを浮かべ、審神者の腰を引き寄せ、熱を突き刺した。
「……あっ……! う……、あぁ……っ」
突き入れられた剛直に、全身を貫くような衝撃が走る。ものすごい質量のものがめりめりと押し入る感覚に息が詰まった。
「……少し、痩せたね。君は暑い日が続くとすぐ食欲が落ちるから心配だよ」
時間をかけ、髭切のものがそろそろ収まりかけたかと思えば、ぐっと腰を引き寄せられ、体を抱き起こされた。
「あっ、待っ……!」
視界に髭切が迫ると、貫いていたものが中を擦りながら最奥へと届いた。ずくりと奥まで届いた感覚に、審神者の目の前が白く飛びかけた。
「ひっ……! ……あ……あっ……」
「だから気を紛らわそうと出掛けたのに、逆に我慢できなくなっちゃった」
収まりかけたなど、どうして思えたのかわからない。まだまだ先のあった剛直に深く貫かれ、しばらく審神者の息が止まった。突然貫かれた中が驚いたように収縮し、ありありと髭切を捉える。
「っ……あ、ぁ……」
「駄目、だよねぇ。我慢しなくちゃとは、思ってるんだけど……、はぁ……、ね、聞いてる?」
口元に弧を浮かべた髭切が、ぬるぬると体を揺り動かそうとするのを審神者は慌てて止めた。
「待っ、だめっ、……う、動かないで、おねがいっ……」
「うん? このままイきそう?」
髭切にきつく抱き着きながら、審神者は震える呼吸の合間に頷く。すると髭切の手が審神者の腰を撫で上げ、高みへと導いた。
「いいよ、いってごらん」
「……はっ、……あ……っ!」
つ、と細い腰の線をなぞられ、その指先で跳ね上げられるようにして審神者は達した。収めた髭切の形がはっきりとわかるくらいに中がきつくなり、跨いだ体を強く挟み込む。耳元で髭切の詰めた息を微かに聞いた後、審神者は抱きついた体に凭れかかった。
「はぁ……は……」
「可愛い。入れただけでいくなんて」
「う、ううーっ……、……ひ、ぁっ」
向き合った態勢から見上げられる。その意地悪な表情に審神者が小さく唸ってみせたが、少し身動いだだけでごりっと擦れる中に声を奪われた。そして、これはどう動かれてもまずいと身構えた審神者の体に、しっとりとした甘い吐息が触れた。はぁ……、と今日何度目かわからない溜息の出どころを見れば、少しだけ申し訳無さそうに、でも我慢が難しいとばかりに眉を下げた髭切が審神者を見上げていた。
「中が、柔らかくてとても気持ちいいんだ……。少しだけ、動いていいかい?」
弱々しく、甘えるような表情に胸がときめく。
その声と表情を前にすれば、何でも言うことを聞いてあげたくなる衝動にかられ、審神者は高鳴った胸と一緒に髭切に口付けた。触れると、吸い付くようにして髭切が応える。同時に中でひくひくと反応する熱に愛しさがこみ上げてきた。
「ん……動いて……、髭切も、気持ちよく、なって欲しい……」
唇を離し、そう告げると、髭切の腹部が小さく震えだした。
「あ、はは……すごい殺し文句……」
「ん……だめ、笑っちゃ……」
せっかく髭切の懇願するような表情を見れたというのに、笑った振動でさえぞくぞくするような快感に襲われてしまう。少しでも審神者が優位に立てたような気がしたが、それもほんの一瞬の出来事のようだった。
「笑いたくなるよ。だって、もう、ずっと気持ちいいのに」
濃く長い睫毛に囲まれた目が細くなり、溶け合うようにして唇が重なる。柔らかい舌で唇を撫でられ、おずおずと舌先を出すとすぐに絡め取られ、愛撫のような口付けを味わった。
「……甘い。桃より君の方がずっと甘いや」
「き、気のせいだよ、それ、ぜったい……」
「そうかなぁ。こんなに甘いのに」
わざとらしく小首を傾げた髭切が、下から審神者を突き上げた。広がったスカートの中で、鋭い剛直に突き刺され、白い喉がのけぞる。
「あ、あぁっ……」
「中までよく熟してるし、柔らかくて、とろとろしてて、ずっといい匂いをさせてるよ」
「ん、あっ……」
「よく見せて。僕に感じてる顔」
首筋に舌を這わせ、甘く瑞々しい肌に髭切の牙が突き刺さる。柔肌に赤い噛み跡がつけられ、最早鋭い痛みさえ快感として拾ってしまう体は、髭切の言うようによく熟されていた。
「ふふ、あまくて、美味しい……。わかってたけど、やっぱり君がいちばんおいしいや」
肌に浮かんだ汗さえ美味しそうに舐め取る髭切に、本当の桃のようにさせられた審神者は、その体に濃厚な熱を注がれるまで甘く泣き続ける。いつの間にか誰もいなくなっていた海から聞こえる漣が、その後も時間をかけてたっぷり食べ尽くされた審神者の声を静かに掻き消してくれたのであった。

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