鬼の憂鬱(1/2)

さらさらと流れる川の音を聞きながら、男は湿った匂いに鼻を鳴らした。
(雨が降りそうだな……)
宵を迎えた空には分厚い雲がかかっており、雨の訪れを告げていた。
静か過ぎる街中には、男が騎乗する馬の蹄と、傍らを流れる川のせせらぎしか聞こえなかった。
そこに雨音が加わる前に戻らねば、と男が手綱を引こうとした時だ。
男は、川に架かる橋の元で一人の美しい女が立っているのに気付いた。
女は紅梅の着物を着た、雪のように白い肌をした若い女だった。
川沿いに並ぶ柳の木の葉と共に、ぬるい風に髪を靡かせながら、どこか寂しげに、誰かを待ち焦がれるかのような、切なげな表情を浮かべている。
近頃は人を襲う恐ろしい鬼がいると噂されているのに女人一人とは無用心な、と訝しみもしたが、どちらにしろ、こんな夜分に女人一人で歩くのは危険だ。
噂を知らずか、それとも特別な事情があるのかは知らないが、男はその女の寂しげな面差しに誘われるようにして声を掛けた。

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