鬼の憂鬱(2/2)



「――主」
呼べば、小川に架かる橋の元で審神者が振り返った。
そこは審神者の私室から離れた場所にある庭園だった。庭、といっても敷地は広く、鬱蒼と茂る竹林もあれば川も通っているここは、庭園というよりも小さな森のようである。
審神者はその庭の奥まった場所にある朱塗りの太鼓橋の元で、ぼんやりと景色を眺めていた。どこか虚ろな目をする審神者がそのまま景色へ溶けてしまいそうで、近侍である髭切が呼び止めるようにして声を掛けたのだ。
「……髭切」
「こんなところにいたんだね」
探したよ、と髭切が歩み寄れば、審神者はゆっくりと瞬きを繰り返しては辺りを見渡した。
「あれ……私、いつの間にこんなところまで……」
まるで急に知らない場所へ放り出されたような顔をして、審神者は周りの景色を眺めていた。
まだ夢の中にいるような審神者がそう呟き、髭切はその夢から連れ戻すかのように、手袋をはめた手で審神者の手を取った。
「お散歩もいいけど、せっかくなら次からは僕も誘ってよ。部屋にいないから随分探したよ」
撫でるように手を取った髭切が、審神者の細い指に自分の指を絡める。
編み込むように絡んでいく指と指に審神者の意識が徐々に戻ってくるのを髭切は見た。絡めた指で薄い肌の上を擽るように撫でてやれば、審神者が仄かに頬を染めるのだ。
「そろそろ雨が降り出しそうだよ。今日はもう戻ろうか」
「う、うん……」
反応が可愛いな、と肌を擽り続けると、審神者の顔がますます赤くなっていく。熟していく果実のようだ、と目を細めていると、甘い果汁を湛えたような目が髭切をちらりと見上げた。
「ほ、ほんとう……、雨が降りそう…………」
「………………?」
灰色の空を見上げるわけでもなく、こちらを見てそう言った審神者に髭切は首を傾げる。
「……なぁに?」
何を見て降りそうだと答えたのか。
髭切を見詰める審神者へと不思議そうにすれば、緩んだ指から審神者の手が離れる。そしてその手は少しだけ戸惑った様子を見せては髭切へと向けられた。
白く細い指先が髭切の顔を包む象牙色の髪へと差し入り、癖のある柔らかな毛先を優しく撫でる。
「髭切の髪、雨が近くなるとふわふわしだすの。だから、降りそうだなって……」
言葉尻を窄めた審神者の指が髭切の髪に絡んだ。審神者の細い指が、言葉通りふわふわと自分の髪に絡むのを感じながら、髭切は嬉しそうに微笑んだ。
「へえ、知らなかった」
雨が近くなると、髭切の髪は湿気により広がるらしい。
弟の膝丸に比べ、癖のある髪だとは自覚していたが、特に不便を感じるわけでもないので気に留めたこともなかった。しかしそれを他の誰でもない審神者に言われるとなんだか嬉しくなる。そんな事に気付くほど自分を気にしてくれていたのかと。
「ねぇ、もっと撫でて」
「もう……。雨が降りそうだから戻るんでしょう?」
「少しくらいいいよ」
「じ、自分で言っておいて……」
小さな唇をむっと尖らせて審神者が髭切を睨む。髭切は離れようとする審神者の手を自分の頭へと押し付けては、「ね?」と続きを強請った。
髭切の髪をすく審神者の指が心地いいのだ。まるで髪一本一本に神経が通っているかのように、細い指の感触を追ってしまう。
審神者の指が髭切の髪に馴染みやすいのか、それとも審神者が触れてくれるから気持ちがいいのか。どっちもかな、と髭切は審神者の細腰を抱いては自分へと引き寄せた。
「ねえ、じゃあこっちは?」
審神者が今しがたそうしたように、髭切も少しだけ口先を尖らせた。
言われた審神者はこっちとは……? と首を傾げたが、寄せられる顔と少しだけ尖った髭切の唇に察したのか、怪訝そうな目を髭切に向けた。
「……そこは雨と関係ないでしょ……」
「関係あるよ。雨が近くなると、僕のここはしっとりしだすんだ。確認するかい? はい、ここも一緒に撫でて」
「な、撫でてって……」
唇を撫でて欲しい。つまり、口付けて欲しい、口付けたいと話す髭切の突き出した唇に審神者は僅かに背を反らしたが、既に腰を抱いている髭切に抜かりはない。
「……んっ」
もうすぐ降る雨のように、髭切の唇が審神者の唇へ降りては重なった。しっとりとした審神者の唇は髭切の唇に染み入るようで、唇も心も濡れていく。
本当のことを言えば自分の唇が雨でしっとりしだすかなどわからないが、審神者の唇は雨が降っても降らなくともいつも濡れて髭切を誘っている。つまり、先程のは審神者へ口付けたいがためのこじ付けだ。
「ふ、ぅ……っ」
上がっていく息と共に腰を撫でると、審神者はぞくりと身を震わせる。そして、髭切によってふやかされた唇から、懸命に堪えていた声を零してしまう。
「あっ……」
びくっと審神者が反応したのと同時に唇を離してやれば、顔を真っ赤にした審神者が悔しそうに顔を歪めては髭切の肩口へと頭を押し付けた。
「うう〜……っ、な、何するのよぉ……っ」
「ふふ、耳真っ赤」
「誰のせいよ……!」
この一連の流れが本当に、堪らなく、可愛いのだ。
唸る審神者の頭頂部に口付け、髭切は審神者を抱き締める。
(可愛い。可愛い、僕の主)
――ぽつり。
恥ずかしさに顔を埋める審神者を、髭切が愛おしげに抱き締めていた時だ。
ぽつり、ぽつり。鼻先に滴が落ちる。
とうとう雨が降ってきたようだ。
「主、降ってきちゃった。戻ろう」
雨に降られて審神者の体を冷やすわけにはいかない。髭切は審神者の手を握り直した。
「あ、足を止めさせたのは誰……!」
先まで口付けを強請ったのは誰だと審神者はわなわなと肩を震わせており、そんな審神者へ髭切は微笑し、象牙色の髪をさらりと揺らした。
「さあ、誰だったかな。……ああ、主?」
「ひげきりっ!」
「ほらほら、はやく。濡れちゃうよ」
髭切は自身の上着の紐を解き、それを審神者の頭へと被せる。
雨避けくらいにはなるだろうとそれを被せると、すぐに審神者が遠慮しようとするが、髭切は被せた上着ごと審神者の頭を引き寄せ、自身もその上着の中へと顔を入れた。
――上着の中で、降りだした雨よりも小さな音が鳴る。
「さ、走って」
そこから顔を離すと、染まっていた頬を更に赤くさせ、もう言い返す言葉もないとばかりに審神者が髭切を睨んでいた。
可愛いなあ、と髭切は目尻を柔らかくさせ、審神者の手を引いては走り出した。


――どれくらい進んだだろうか。
さらさらと降り出した雨は次第に雨脚を強くさせ、戻ろうとする髭切と審神者の足を引き留めようとした。
戻るまでにはまだ距離がある。しかし本降りとなった雨の中でこれ以上審神者を走らせるのは可哀想だ。髭切は仕方ないとばかりに行き先を変え、庭園の中にある小さな東屋へと行き先を変えた。審神者も同じ事を考えていたのか、走る方向を変えた髭切の後に続き、二人は庭園の東屋へと辿り着いた。
「ここで雨宿りをしよう」
庭園の中にある東屋は、休憩場所として造られた屋根と柱だけの簡素な建物だ。しかし、この雨を凌ぐには十分な広さがあるし、腰壁が周りを囲むようにあれば、
休むための長椅子も設置されている。
二人は東屋の屋根の下に駆け込んでは互いに一息ついた。
「ごめんなさい。私が上着を借りてしまったから、髭切をびしょ濡れにさせちゃったわ」
審神者は借りた上着を髭切が普段しているように肩に掛けては、懐から紅梅色のハンカチを取り出し、髭切の濡れた髪や肩を拭う。
「いいよ。僕がしたことだから、気にしないで」
審神者から拭われる手を、髭切は目を閉じては気持ち良さそうに受け入れた。
「主は? 濡れて寒くない?」
「髭切の上着のおかげで大丈夫。たいして濡れてもないし、寒くもないわ」
「うん。ならいいよ」
見れば、髭切の上着は雨で濡れているものの、裏地の方までは染みていないようだった。審神者が濡れて体を冷やしてなければそれでいい。髭切は審神者が拭ってくれる手を止めさせ、あとは自分を拭きなさいとやんわりと押し戻す。
「雨、長引きそうだね」
濡れた髪を掻き上げ、ふうと小さく息をついた。
雨が降る前に戻るつもりだったが、こんなに降られてしまっては、しばらく戻れそうにない。まあ、急ぎの任務も無ければ、出ていく際に弟の膝丸に審神者を探してくる旨を伝えての雨ゆえ、賢い弟は雨宿りをしているのを察してくれるだろう。
どしゃ降りの雨、というほどではないが、息苦しくなるような重たい雨が絶え間なく降り頻る。
(嫌な雨だなあ…………)
森の中が暗いせいか、降り続ける雨が長く垂らした髪の毛に見えてきた。
真っ直ぐとした、黒い髪だ。触れようなら体の隅々に絡み付いては、鬱陶しく纏わり付いてきそうだ。
「主、寒くない? 寒くなったら我慢しないで言うんだよ」
止みそうにない雨を静かに睨むようにして、髭切は審神者へと目を移した。
「………………」
そして、先程から審神者がやけに静かなことに気付く。
「……主?」
見下ろした審神者は、拭ったハンカチを両手に握り締めては、どこか遠くを眺めていた。
太鼓橋の元で見掛けた時のような、何かを見ているようで、何も映していない目。
勢いのある雨に髭切の声が届かなかったのだろうかとも思った。しかし、少しだけ審神者へと身を屈めた時、髭切は審神者の唇から掠れた声を聞いた。
「――……な……」
雨の音に混じり、審神者の声が微かに聞こえる。
「……さわる……な……」
審神者の目がだんだんと虚ろなものへと変わり、乾いては色を濁していく。
髭切がもう一度審神者へ呼び掛けようとすると、次は先よりもはっきりと審神者の口が動いた。
「…………あた、くし……」
聞こえた声は審神者のものだっただろうか。
審神者のハンカチを握る手が震え出す。ぶるぶると震える手は何かを抗っているかのようにも見えたが、手と手が離れた瞬間に勢いよく審神者の肩へとぶつかった。
「あたくしの……、かえ、せ……返せ……」
震える審神者の手が自分の肩を掴むようにして爪を立てたのを見て、髭切はその手を取る。引き剥がした手は審神者の力とは言い難いほど強かったが、髭切が引き剥がせない程ではない。
「――駄目だよ、これは僕の」
傷をつけていいのは僕だけ。
そう低く言って髭切は審神者を見下ろす。髭切に腕を取られた審神者はまだ正面を見詰めたまま「返せ、返せ」と呻くように繰り返していた。
(やっぱり……)
最初からおかしいとは感じていた。審神者が何も言わず一人この庭園まで出ていたのも、橋の前でぼんやりとしていたのも、全て『これ』のせいか、と髭切は凝視した。
「う……、さわ、るな……、あの、あの方……、あたくしの……」
焦点の定まらない目と掠れた声、審神者らしからぬ言葉に、審神者の中に何かが潜んでいるのは確かであった。
髭切が側にいたせいか、それとも審神者が入り込んでしまったものを無意識に抑え込んでいたせいか、この手を離すまで気付くのが遅くなってしまった。
というよりも、中のものも髭切や審神者を前に迂闊に出てこられなかったのだろ
う。この重たい雨を借りてこっそり頭を出してきた、というところだろうか。
(審神者だから仕方ないとは思うけど、本当に憑かれやすい)
人一倍『モノ』に寄り添おうとする力が大きいせいか、審神者は人ならざるモノに好かれやすい。審神者の親しみやすい性格も相俟って、この審神者は特別変なものに好かれやすい気がする。
「さ、さわる、な……あの方は、あたくし……あたくしの……」
「いけないよ、勝手に許しちゃ」
取った腕を引き寄せては、審神者の唇から出た声を塞ぐように口付けた。
審神者の喉から出たとは思えないほどざらざらした声が不快だ、と髭切は眉を寄せる。この声は自分の名を囀るためにあるのだ、いっそそれ以外の言葉は話せなくてもいいくらいだ、そう封じるように口付けた。
「……っ!」
瞬間、すぐに審神者の目が見開かれ、握られたハンカチが落ちた。
弾かれたように大きく開いた審神者の目を、髭切は口付けたまま見詰めた。
まあるい瞳が、梔子色を映す。
その目がきちんと髭切を捉えていることを確認し、髭切は審神者の唇を少しだけ食むようにしてはそっと離した。
激しく降る雨の中でも、二人が口付けた音は小さく、しかしはっきりと響いた。
「……君は、すぐに憑かれるね」
あやかしにも、僕にも。
口付けられた審神者は、気が付いたら口付けられていた……、とばかりに数秒呆けていたが、髭切が目を細めたのを見てハッと我に返る。そして急に口付けられた唇に自分の手をあてては小さく睨むようにして見上げた。
「あ……、あれくらいで疲れたりしないわ」
髭切の言った『憑かれる』が、身に覚えのない審神者には疲労の方の『疲れた』だと聞こえたようだ。ここに来るまで少しばかり走ったことを言われたと勘違いした審神者がむっと言い返してきた。
「うーん、僕には憑かれているように見えるんだけどなあ」
「だ、だから、疲れてないって……!」
「うーん……」
審神者は疲れていないと主張しているが、髭切としては審神者は間違いなく憑かれている。
二人の間で生じている勘違いを髭切は言い直すことはせず、むしろ気付かないのならそれでいいかと笑みを浮かべたまま、審神者の手を取って長椅子まで移動する。
「まあ、外もこんな感じだし、少しここで休憩しようよ」
審神者の手を握ったまま、髭切が長椅子へと腰掛けた。
「え……、わっ」
腰を下ろした髭切は審神者の手を引いてはひょいとその体を掬い上げて膝の上へと乗せた。審神者は少し開いた髭切の両足の間に尻を収めるよう横座りにされ、そこから立ち上がって逃げられないよう、髭切の手が太腿へと置かれる。
「ひ、髭切……っ」
「ゆっくりしようよ。せっかく二人きりなんだし」
「ふ、二人きりっていうか……いや、お、重たいでしょ……!」
「重たくないよ。むしろ気持ちいいくらい」
「……どういう回答なの、それは」
膝に乗せた審神者の足が柔らかくて気持ちがいいのだが、審神者は下ろしてくれともぞもぞと体を揺する。
髭切の足に押し付けられるように動く柔らかな尻の感触も堪らない。心地の良い重みを奪われたくない髭切は審神者の太腿を撫でては赤い耳へと唇を寄せた。
「いい子だから、大人しくしてなさい」
囁くと、ひくんっと審神者の肩が縮こまる。
髭切は審神者の太腿から胸までをゆっくりと撫で上げては、衣服の襟元へと手を差し入れた。
指先が審神者の肌に触れると、審神者が慌ててその手を止めようとした。
「ま……、まっ……! あのっ、こ、ここ、外……!」
唐突に何をしようとしている、と審神者は肩にかけたままの髭切の上着を引っ張った。
上着の前を合わせようとした審神者だが、髭切の手はそれをするりと交わしては丸い肩を撫でるように襟をずらした。
「髭切……!」
審神者の制止を聞かず、髭切は腕に引っ掛けるようにして衣服をはだけさせた。そして、丸い肩に痛々しく残る赤い痕に指先を乗せた。
「ああ、少し赤くなってる」
「え……?」
「さっき、引っ掻いたでしょ。そこが赤くなっているよ」
深くはないが、審神者の薄い白い肌にははっきりと爪痕があった。
先程、審神者が自身の肩を力強く握ったときのものだろう。すぐに引き剥がしたつもりだったが、強く食い込んだ指は審神者へと痛々しい痕を残してくれた。
「えっ……あれ、ほんとう……」
いきなり肩を剥かれて何をされるのかと思った審神者だったが、髭切に言われ、確かに肩に赤い痕が残っているのを確認した。そして覚えのない痕に眉を寄せる。
「私がやったの……?」
いつどこで付けたのかまったく記憶がないとばかりに聞く審神者に、髭切は溜め息混じりに肩を落とした。
「心配だなぁ」
意識を奪われていたのだから仕方がないといえば仕方がないのだが、それでも傷付けた覚えがないと言われてしまうと、この先似たようなことがあれば審神者は無意識に自分を痛めつける可能性があることがわかってしまった。
もちろん審神者に変なものが入り込まないようにするのが大前提ではあるのだが、こうも憑かれやすいと四六時中髭切がついていなくてはならない。もちろん髭切の方はそれでも一向に構わないが。
「君は手入れですぐに直るわけではないのだから、傷を作っちゃ駄目」
ただでさえ審神者の肌は白くて赤が目立つのだ。それこそ、髭切が夜毎審神者の柔肌を口付けただけで痕が残るくらいに。
「この体を好きにしていいのは僕だけだよ」
「……っ」
赤い爪痕の上を髭切は舌で舐め上げた。
赤い痕を宥めるように、またはこの体を好きにしていいのは自分だけだと言わんばかりに、舌の腹で、べろりと。
「な、なっ……!」
いつもより遠慮なく舐めたのはちょっとした意地悪だ。髭切のものである審神者の体を支配しようとする得体の知れないものへはもちろん、それに体を許してしまった審神者に対してもだ。
肩を押し返す審神者の手などお構いなしに髭切は痕の上に唇を乗せ、薄い肌を吸い上げた。花の蜜でも吸いだすかのように、ちゅ、ちゅ、と爪痕の上を吸い上げると、審神者の肌が甘そうに上気していく。
「いいね、その調子だよ」
「は……、な、なに……んっ」
唇の隙間から舌先で肌をちろちろと撫でると、審神者の華奢な肩がひくりと揺れて言葉が途中で止まってしまう。
甘く香り出した体を口付けながら、髭切は審神者の体の奥から審神者の霊力とは違う、どろどろとした邪気の存在を感じていた。
おそらく、この泥のような邪気が審神者の中に入って悪さをしているものだ。
まったくいつの間に入り込んだのやら、早く出ていけと髭切は審神者の羞恥を煽るようにして肌に舌を這わせる。
「んっ、ひ、髭切……っ」
白い腋へと髭切は舌先を伸ばす。腕を取ってそこを擽ればびくっと審神者が大きく跳ねた。
「やっ、ど、どこ舐めて……!」
審神者の羞恥を煽れば煽る程、泥色の邪気が弱まっていく。
やはり……、と髭切は審神者の腋を舐めながら考える。
このまま審神者の意識を羞恥でいっぱいにすれば、中で悪さをしている気を押い出すことができるかもしれない。もしくは、髭切の霊力を審神者に取り込ませて追い出すことも一つの手だ。……まあ、取り込ませるには髭切の霊力を審神者の中に注ぎ入れることが必須であるが。
「髭切……っ、や、こ、ここ、外……!」
「外だね。いつもと違って興奮する?」
「し、しないよ……っ!」
むしろ心配しかない! と不安そうにする審神者へ髭切はくすりと笑う。
「この大雨だし、いつもより声を出しても大丈夫だよ」
この雨では声など掻き消されてしまうだろうし、ここまで来る者もいないだろう。
そう髭切は言うが、審神者としては何が大丈夫なのかさっぱりわからないと戸惑
うしかない。
「たまにはいいよね。こんなところでするのも」
「い、いや……全然よくないです……」
何を言っているのだ……と唖然とする審神者をよそに、髭切は自身の唇を審神者の唇へと寄せる。
審神者以外の霊力がこの体の中に潜んでいるというのに気付かず、そしてこの体を髭切以外に許した審神者へどうしてやろうかと、髭切は審神者の唇を食んでは
うっとりと囁いた。
「きっと、すごく気持ちが良いよ。ね?」
「ん……っ」
髭切に優しく噛まれたからか、それとも髭切の声を聞いたからか、審神者の目蓋がきゅっと閉じられた。
髭切はその隙をついて唇を重ね、深く合わせる。
「んぅ……」
重ねたまま長くそうしていると、唇の合間から甘えるような声が聞こえた。
髭切は少しの息継ぎを与えるように唇を離し、薄く開いた唇へと迷いなく舌を入れる。まだ息の整わない内に舌を差し入れると、小さな舌が逃げ惑うように奥で縮こまっており、顔を傾けてはその小さな舌を絡め取る。
「ふ、ぅ……っ」
息さえも奪うような口付けを繰り返し、髭切の手は小さく上下する審神者の胸へと触れる。触れた膨らみを柔らかく包んでは、親指で胸の先がある辺りを撫でると、審神者の気がぶわりと昂っていくのを感じた。
駄目だなんだと言っても、体はすぐに反応を示すものだから可愛い。口ではつれない事を言いつつも、優しく触れてやれば素直に喜んでいるのが気でわかる。
仔犬が触るな近寄るなと甲高い声で鳴いては尻尾を千切れんばかりに振っているようなものだ。
「だ、駄目だよ……、ここ、外だよ……」
潤んだ瞳の審神者が言う。
「どうして? 誰も来やしないよ」
「そ、そういう問題じゃなくて……っ」
「じゃあ、どういう問題?」
審神者を抱きながら髭切は自分の腰を揺すり、既に固くなっている下肢を押し付けた。好いた女に口付けて触れているのだ、男として健全な現象だろう。
勝手な男の生理現象を口実にそう押し付けてやると、審神者の顔がみるみる赤くなっていく。なんて苛めがいのある娘なのだろうか。
「ねえ、このまま僕はお預けなの?」
「あっ……いや、その……っ」
「ああでも、君からのお預けってなんだかいいね。ぞくぞくするよ。焦らされたら焦らされた分だけ、後でもっと酷いことしていいってことだよね?」
中の邪気を考えると、今ここで追い払った方が無難ではあるが、別に本丸に戻ってじっくりたっぷり時間をかけてこの体は髭切のものだと教え込んでやってもいい。
本丸へ戻る帰り道、審神者を抱えてでもやれば、先程のように邪気に意識を奪われることはないだろう。
抱えて本丸に戻った際の審神者の反応を想像しては、それも悪くないな、と髭切が考えていると、審神者から悲鳴に近い声が上がった。
「ひっ、ひどい、ことっ……!?」
酷い事とは一体……、そしてお預けされといて何故酷い事ができる立場にいるのだ、と審神者が顔を引き攣らせていたが、今までの閨事で髭切が審神者の言いなりになったことなど一度も無いのだ。当然の流れだろう。
「君が望むなら後でもいいけど、どうする?」
前だろうが後だろうが、行為を行うことが既に決定事項となっているが、髭切に迫られた審神者には残念ながらそれに気付くことができなかった。
「あ……、い、い………」
返答を急くように、髭切は審神者の胸を大きく、大胆にまさぐる。そして細い首を唇で撫でるように口付け、自然と反っていく顎裏も愛おしげに口付けていった。
「……うん?」
歌でも歌いだしそうな機嫌のいい声で聞き直せば、審神者の喉がこくりと小さく鳴り、その音よりも小さな声が返ってきた。
「い、いま……」
「なぁに?」
消え入りそうな声で言った審神者に髭切が被せるように言った。今の審神者の言葉で十分に伝わる返答であったが、それは髭切が求める満足のいく返答ではない。
そしてそれに髭切が満足するわけがないと知っている審神者は、髭切の服を握っては赤い顔を隠すように肩口に顔を埋めた。
「……い、いま、がいい……。今、して……」
見下ろした審神者は、可哀想なくらい耳まで真っ赤に染めていた。
(ああ、かわいい)
ここまで可愛いものを見せられたら、もう彼女の中の邪気を払うことなどどうでもよくなってくる。
もちろん彼女の体を乗っ取ろうとすることは許さないが、それよりも審神者のこの可愛さに中の邪気も悲鳴を上げているのではなかろうか。髭切でさえ軽い眩暈を感じるのだ、この可愛さに悶絶しないものなどいない。
「よく言えたね。いい子、いい子」
頭を引き寄せて撫でてやれば、案の定、邪気が弱まっている。それと同時に審神者は今髭切によって気を高めているのだと思うと男としての喜びが凄まじい。
気を良くした髭切は自身の手袋を脱ぎ捨てては審神者の裾を割り、ふっくらとした太腿を撫でる。柔らかな太腿に指を埋めつつ、滑らかな肌を味わっては秘所へ指を忍ばせた。
薄い布を隔てた秘所は涙を滲ませたように湿っており、髭切はそこを指で撫でた。
「……濡れているね」
どうしたの? とからかうように言えば、審神者は髭切の手を太腿で挟み込んでは黙り込んでしまう。
そんなことはない、と跳ね返すには説得力の無さすぎる下着の湿り気に、審神者も自分のそこが濡れていることに気付いていたのだろう。
「なぁに、その顔。黙ってても可愛いだけだよ」
柔らかい太腿の防御などあってないようなものだ。髭切は手を奥へと押し込み、薄い布を指先で掻い潜って蜜へと触れる。
「……んっ」
そこは雨粒を湛えたように潤んでいた。
水溜まりのように潤んだ場所に髭切の指が差し入ると、そこは降り頻る雨音とは別の音をさせ、髭切の指を受け入れた。
「ん、んんっ……」
審神者は小さく首を振って髪を揺らしていた。誰かに見られるかもしれない、という緊張と、入ってくる異物感に混乱しているように見えた。
「……かわいい。その顔、すごくそそるなぁ」
惑う審神者の顔を見て髭切が腹を空かせたように自分の唇を舐めた。
眉根を寄せた審神者の顔は途方に暮れたように困惑しているが、その困った顔が妙に艶っぽく、吐き出される息は熱く潤んでいた。
「ふっ……んっ、ぅっ……!」
審神者を腕に抱きながら愛撫するのも悪くない。審神者が髭切へと額を預けるように凭れ掛かってくるのだ。胸元をぎゅっと握ってくる小さな拳が愛しい。
「いっぱい鳴いていいんだよ」
「んっ、い、いい……っ」
「なぁに? ここが良かった? もっと?」
「は、ぅ……っ! ち、違う、の……っ、その、いい、じゃ、ひゃぅっ」
指を埋めたまま親指で花芯を転がしてやれば、審神者の腹がひくんっ震えた。
髭切の腕に抱かれているというのに、審神者は髭切の指から逃げようと無意識に後退ろうとする。しかし背中に回る腕がそれを許さない。むしろ追い掛けては叱るように、髭切の指が花芯の付け根をくりくりと撫で、審神者の足先が空を蹴るように跳ねた。
「ん、くっ……あっ、な、なでない、で……っ」
「ふふ、……やぁだ」
「んんっ、んーっ……!」
甘い声を絞り出した審神者を髭切の指が追い込み、審神者は髭切に抱き付いて達した。
取っている体勢もあってあまり奥まで可愛がってやれなかったが、温かい内壁と敏感な花芯を弄れば審神者はすぐに達してしまった。もっと弄ってやろうとうねる内壁を指先で撫でてやれば、髭切へ抱き付く力が強まる。
「あぁ……っ、ひげ、きりぃ……っ」
小さな手が白くなるほどシャツを握ってくる審神者へ、髭切は愛しさを込めて額に口付ける。ちゅ、ちゅ、と唇をあてると中も一緒に反応し、髭切は蕩けるような笑みを浮かべては審神者へと口付けを繰り返した。
「可愛い……。もっと可愛がってあげるね」
むしろもっと可愛がらせて欲しい。足りないのだ、口付けや触れ合うだけでは。
髭切は審神者から下着をするりと抜き取った。そして審神者の両脚を地面へと下ろし、細腰を両手で掴む。
「髭切……?」
背を向けるような体勢を取らされた審神者は、不安そうに髭切の名を呼んでは後ろを振り返る。しかし髭切はそんな審神者の裾をたくし上げては、手早く自分の前を寛げた。
「……おいで」
と言いつつ、審神者の腰を両手で引き寄せ、熱く滾った肉茎をよく濡れた襞へと添える。とろとろと蜜を零すそこは髭切の熱を感じると吸い付くように包んでは歓迎してくれた。
髭切はそこがよく見えるように審神者の衣服を腹まで捲り上げるが、審神者の肩に掛かったままの上着が審神者の小さな尻を隠す。
自分の上着ながら、なかなかに憎いことをしてくれる。
「ねえ、主。僕の上着の裾、持っててくれるかい」
「え……、あっ、こ、これで、いい……?」
審神者は一瞬だけ躊躇したが、髭切がわざと「汚れちゃうからね」と付け足せば、すんなり裾を持ってくれた。
審神者の小ぶりながらも、白く柔らかい尻が露わになり、髭切は一人恍惚の息を漏らす。
(なんて眺めだ……)
主である審神者に衣服の裾を持たせて尻を突き出すようにさせるなんて。
審神者になら上着を汚されても全く構わない。むしろ汚されようならしばらく洗いたくないし、それを行った思い出に浸りたい。しかしわざと汚れてしまうからと言えば、煩わしいくらい優しくて遠慮がちな審神者は髭切の上着を汚してはならないと持った。
そんな優しさに付け込み、髭切は絶景を目にすることができた。
(……可哀想な子。そうやってすぐ信用するから、変なものに付け込まれるんだよ。……まあ、僕もその内に入るんだろうけれど)
髭切は審神者の細い腰をゆっくりと撫でては、柔らかい尻を手の平で揉みこんだ。
「や、やぁ……っ」
「柔らかくて気持ちいい。僕の手にちょうどいいよ」
本音を言うと、髭切の好みとしては審神者の尻は少し小さいのだが、それはこれから育てていけばいい。元々審神者は線が細いし、もう少し肉を付けてもらおうと思ってはいるのだ。
「はぁ、こうしてるだけでもいい……」
髭切は審神者の尻を掴みつつ、その腰を前後にゆっくりと揺らす。すると髭切の肉茎が審神者の花弁を左右に開いてはぬるぬると擦れていく。
「あっ……ん、ぁっ……」
甘い蜜まみれになっていく髭切の鈴口が、審神者の花芯を刺激する。小さな入口と花芯をゆるゆると擦られる感覚に審神者は背を反らすも、髭切の手がしっかりと支えては律動を乱させない。
「ね、気持ちいいよね」
「ふっ、ぅ……ぁんっ」
「ああ、やっぱりここ当たった方が気持ちいいかい?」
「やぁっ、あっ……!」
膨らんだ鈴口が花芯に触れるたび、審神者は薄い腹をひくひくとさせた。髭切はその白い腹へと手を滑らせては指先をゆっくりと下降させ、剥き出しの花芯を捏ね回した。
「あっ、いやぁ……っ!」
審神者の太腿が髭切のものを挟み込む。髭切の動きを止めたかったのだろうが、それは髭切を柔らかく包んでは秘部を強く擦り付けるだけであった。
小さな尻がふるふると震えては髭切の目を存分に楽しませてくれる。
触れる入口も達したのがわかるくらいにきゅっと窄まった。
「ふふ、ごめんね。奥を可愛がってあげるつもりだったのに、君のお尻が可愛いから楽しくなっちゃった」
「ん……、う……」
痙攣する尻を手の平いっぱいに包んでは、たくさん擦った場所から肉茎をそっと離す。すると、透明な糸が名残惜しげに髭切を引き止めようとした。
思わずうっとりするような光景に髭切は溜まった涎を一気に啜るように飲み込み、頭をもたげる肉茎の先を小さな入口へと突き入れた。
「あっ……待っ……、い、いまは、だめぇ…………っ」
審神者の声が弱々しく髭切の挿入を拒んだ。しかし髭切は構わず審神者の腰を抱き寄せ、熱く蕩けた中をずぶずぶと突き刺した。
「…………あ、あぁっ……」
最後は自分から迎えに行くようにして審神者の奥を突いた。奥まで辿り着くと、苦しいくらいに締め付けられ、髭切は短く息を吐くようにして笑った。
「ふふ……、もぐもぐされてる……僕は美味しいかい?」
「ひ、……あっ」
「いいよ。僕、君になら食べられても。……君以外は絶対嫌だけど」
まあ、君が僕を食べるときは、僕も君を食べているのだろうけど。
そう低く囁いては腰を揺り動かした髭切に審神者は揺さぶられた。
「あっ、んんっ、んぅっ」
「ちゃんと奥まで届いてる? ほら」
「あ…………っ!」
奥に押し込むように腰を引き寄せ、自身の切っ先をぐりぐりと抉れば審神者が小さな口をはくはくと開閉させた。声が消えてしまうほどの衝撃を受けている審神者を後ろからたっぷりと眺め、再び腰を振りだす。
「可愛い……。本当に、欠片も別のものに触れさせたくないのに」
「ふ、ぁ……っ、な、なんの、はなし……っ」
「君の中に入っていいのは、僕だけ、っていう話」
髭切は指を審神者の尻に食い込ませては左右に開いた。繋がっている場所がよく見えるように暴いては、出し入れが繰り返される入口を見下ろす。
「や、みない、でぇ……っ」
髭切の目がそこに注がれているのに気付いたのか、審神者の手が尻を隠すようにあてがわれたが、髭切はその手を取っては指を絡めて握り込む。
「駄目、ちゃんと服をおさえてて」
「あっ、あ……っ!」
勝手に手を離したことを叱るように審神者の腰を掴み、最奥の行き止まりを貫く。
開かない扉を叩くように奥を突いていると、審神者の体から何か別のものが逃げ出そうとしているのに髭切は気付いた。
(ああ、そうだった……)
すっかり存在を忘れていた邪気が審神者の中で悲鳴を上げている気がした。
審神者が可愛くて、審神者との行為が気持ちよくて、中に入り込んだ邪気を払うために半ば強引に行為を進めた事をすっかり忘れていた。
突然思い出してしまった第三者の存在に髭切はつまらなさそうに眉を寄せ、せっかくいい気分だったのに、と収縮する中を掻き回す。
(さっさと出ていけ……、僕とこれの間に別のものなんかいらない……)
中の邪気を端へ押しやるように掻き混ぜると、審神者の手が髭切の手を強く握った。
「っ……、髭切っ」
腹の裏側を何度も擦られ、審神者へ抗えないほどの切なさが押し寄せる。
「あ、……いっちゃ……っ、ぁっ……!」
繋いだ手を更に強く握り、審神者はかくんっと膝を折った。
「……おっと」
髭切は審神者の膝が地に着く前に力強く腰を引き上げ、足をがくがくと震わせる審神者を後ろから抱き込んだ。
達した中が髭切の熱を締め上げ、髭切は審神者の呼吸と共にひくつく中を楽しんだ。
はあはあ、と息を乱しては体を震わせる審神者を鼻先で擽るようにして首筋に顔を埋める。審神者の肌からは汗がじんわりと滲み出ており、玉のように転がる滴を髭切は吸い付くように舐め取った。
「主、こっちを向いて。抱き締めてあげる」
最初に背を向けさせたのは髭切なのだが、達した審神者には切なさの方が上回っているようで、ふらふらとした足取りで髭切へと向き直る。足を撫でて片足を椅子の上へと乗せてやれば、審神者は髭切へと跨るようにして膝に乗ってきた。
とろんとした目が髭切を見詰め、髭切はああこの目だ、と審神者の頬を撫でた。
先程意識を奪われていた審神者は色のない乾いた目をしていたが、髭切へと溶かされた審神者の目はこんなにも熱く甘い色で潤んでいる。
甘ったるそうに蕩けた目にそのまま舌を這わせたい気持ちを堪え、髭切は審神者の唇をそっと撫でる。
「……キス、欲しい?」
「……うん……」
欲しいのはきっと、髭切の方だ。
しかし審神者から求められることに意義がある、と髭切は審神者の背中に腕を回しては甘い口付けを交わした。隙間なくぴったりと重なる体は衣服を着ていなければ互いの肌の柔らかさと熱を感じられてもっと気持ちが良かったであろうが、外でこのような事をしたのは初めてなのだ。審神者に外での全裸を要求するのは次の機会に取ってこうと、髭切は審神者の唇を甘く噛んではそっと顔を離した。
「ね……、いれていい?」
膝立ちした審神者の秘部へと昂ったままのものを擦り付ける。くちゅくちゅといやらしい音が雨音以上に響いているが、それは雨脚が弱まったせいか、それとも審神者の中を髭切が散々掻き回したからだろうか、どちらかはわからない。
「ん……、もう、先、入ってる……」
「あ、バレたか」
入れていいかと聞きながらも、審神者の入口へと当て擦った肉茎は既に中へと頭を埋めていた。
わざとらしく返す髭切に審神者がじとりとした目を向けたが、柔らかな尻に両手を添えて揉みしだくと、審神者は声を上げて腰を抜かした。
「ひゃんっ! ……あっ……う、うぅ……っ」
ぺたんと髭切の膝上に座り込んだ審神者はそのまま髭切を奥まで飲み込み、再び収まった熱量に小さく呻いた。少し揉んだだけでこれなんて……。
「……ねぇ、そんなに隙だらけで大丈夫?」
尻朶に指を埋めながらやわやわと指を動かすと、中がその指に合わせて反応していた。審神者の隙をついて尻を撫でるような男をこんなに喜ばせてこの娘は大丈夫なのだろうか、と髭切は自分の事ながら顔を顰めてしまう。
(だから勝手に近寄られては好きにされてしまうんだよ)
――僕にも、悪い奴にも。
審神者は一息に受け入れてしまったものをなんとかやり過ごそうと、髭切の肩へと額を預けては浅い息を繰り返していた。髭切はそんな審神者の尻を両手で持ち上げては、まだ息の整わない内に中を突き上げた。
「あ、あぁんっ!」
「今度から、誰にも酷い事されないよう、ずっと側にいてあげるね」
「あっ、ひ、ひどいこと、してるの、だ、だれ……っ!」
「君は僕のものだって、誰からもわかるよう、たくさん匂いをつけてあげなくちゃ」
「あっ、ん、ぅ……!」
下から突き上げるようにして腰を浮かせ、最奥を押し上げる。髭切は背を反らす審神者の胸元に顎を乗せ、薄く笑った。
「だから、君も僕のものだってちゃんと自覚してね」
「んっ、ん……」
「ほら、ちゃんとお返事して」
「ひゃ、ぁ……っ」
お返事どころじゃない審神者を髭切が小さく揺さぶる。審神者は揺するなとばかりに髭切に抱き付いたが、抱き締めるのは髭切を喜ばすだけなので逆効果である。
「駄目だよ、主。ちゃんとお返事してくれなきゃ」
「あっ、ぅ、す、する、から、待って……っ」
「待ってるよ、はやく」
待っていると言いつつ、審神者の尻を掴んで揺さぶる悪戯な手は一体何なのだろうか。
審神者はいい加減にしろとばかりに髭切の後ろ髪を引っ張った。
「……!」
後ろに引っ張られた髭切は目を丸くするも、すぐに審神者の唇が髭切へと落ちてきた。それは突然降り出してきた雨のように、しっとりと、染み入るように、髭切の唇を濡らした。
二人の間に一瞬の静寂が訪れ、葉を叩く雨音が聞こえてくる。
髭切は審神者からの可愛らしいお返事にそっと目を細め、重なった唇を味わった。
小さな唇を啄むように食み、舌先で赤く熟れた唇をぺろりと舐める。髭切の頭裏に回る手がひくりと震えたのを感じ、舌を伸ばして審神者の赤い舌を絡め取った。
「うん、いいお返事だ」
「んっ、んぅ」
舌が絡むのと同時に、髭切の髪が審神者の指に絡んでいくような気がした。
最初は審神者の指が髭切の髪に馴染みやすいのかと思ったが、違う、髭切の髪が、審神者へと絡むのだ。雨を含んだ髪が、審神者の隅々に絡み付いては鬱陶しく縛り付けるかのごとく。
「ふ、……んっ、ぁっ」
舌を絡めながら、髭切は審神者の体をゆっくりと揺さぶった。
このまま唇を重ねているのもいいが、審神者の可愛いお返事に髭切の熱がはやく吐き出させてくれと悲鳴を上げている。
痛いくらいに膨らんだ切っ先で中を擦ると、息苦しくなった審神者の唇が離れる。離れていく唇を惜しみつつも、髭切は審神者をゆるゆると刺激し、蕩けさせる。
「あっ……、髭切……っ」
審神者が髭切の頭を掻き抱いては無意識に腰を逃がそうと体を浮かせた。
髭切はそれも逆効果なんだけどな、とこっそりと笑っては浮いた腰を下から突き上げた。浮いた分、動きやすくなった腰で存分に突き上げる。
「……あぁっ!」
「腰を浮かして、手伝ってくれるの?」
「やっ、ち、違うぅ……っ!」
「うんうん、一緒に気持ち良くなろうね」
「ち、違う、の……っ」
まるで自分から突き上げてくれと言わんばかりに浮いてしまった腰に審神者は恥ずかしさで頬を染める。
羞恥か、それとも気持ち良さにか、体を火照らせる審神者から邪気がどんどん逃げていくのを髭切は感じた。
(僕とこれの間に、お前が入る隙など無いよ。早くこの体から出ていけ)
邪気など、隙があるから入り込まれてしまう。ならば、隙ができないほど満たしてやればいい。恥ずかしさで、気持ち良さで、愛しさで。
何かに満たされていれば自然と出て行くものなのだ、邪なものというものは。
(まあ、同じような存在でも僕は死んでも離れてやらないけど)
審神者の白く柔い尻に痕が残りそうなほど指を埋め、何度も奥を穿つ。自身を刻み込むように、印すように。
「んっ、ぁっ、ひげ、きり、も、もう……っ」
「……くっ」
きゅう、と審神者が髭切を締め付ける。同時に、押し寄せる快楽に流されそうになる審神者が目を瞑り、髭切は陶然とそれを見詰めた。
「主、目を開けて。僕の目を見てもう一度名前を呼んで。君は、誰のもの?」
涙を浮かばせる審神者の目から、髭切は邪気の元を強く睨んだ。
誰の許しを得て、この体に入ったのかと。
この娘の体も心も、今、その娘から名を呼ばれるモノのものだぞ、と。
「あっ、あ……、んん、ひ、ひげきり……っ、髭切の……っ!」
雨粒でいっぱいにした目が髭切を見詰めては切なくその名前を呼んだ。
濡れた目に自分が映っているのをしっかりと確認し、髭切は審神者を激しく突き上げ、最奥まで自分を押し込んで熱を、霊気を、迸らせた。
「……はっ」
収縮される中が自分の霊気で塗り潰されていくのを感じながら、髭切は審神者をきつく抱き締めては大きな息を短く吐き出す。
たくさん揺さぶったせいで審神者の肩から髭切の上着がずり落ちそうになったが、髭切はそれを引き上げては再度審神者の肩へと掛ける。飴細工でできたものを包むように、そっとだ。
「……ふふ、外でしちゃったね」
「……っ」
「明るいところでするのもいいね。君の顔がよく見えていいや」
またやろうか、とでも言いだしそうな髭切に審神者は埋めた顔を左右に振った。
その顔は、きっと達した余韻と髭切の発言で真っ赤に染まっているのだろう。見ようとすれば、また強く抱き締められて髭切は破顔した。
髭切は審神者の体を支えては長椅子へと横たわらせ、自分の上着で審神者を巻くように包んだ。それから繋がったままの場所から自身を引き抜くと、追い掛けるようにして白濁したものが中からとろりと零れる。
「ああ駄目。まだ零しちゃ駄目だよ」
「んっ……、あ、さ、触っちゃ、だめ……」
髭切の精か霊気かよくわからないものを零した入口へと指で押し込む。審神者の体に馴染むよう、指を入れて掻き混ぜようも、それは入口からとろとろと零れてしまう。
「やぁ……っ、ま、まぜない、で」
「ありゃ、出てきてしまうね……。ま、いいか」
一番奥には注いだし、なんとかなるだろう、と髭切は零れた液を審神者の花弁に塗り付けた。
審神者は「ま、いいか」で終わることなら何故やった……! とばかりに髭切を睨んでいたが、頬を染めた涙目で睨まれても髭切の顔が、可愛いなぁ、とだらしなくなるだけだった。
「少し横になって休むといいよ。……ほら、もう少しで雨がやみそうだよ」
髭切は手持ちの懐紙で審神者の足元を拭ってやり、衣服の乱れを慣れた手つきで整える。脱がせた下着を穿かせてやると再び熱が上がりそうな気がして空を見上げたが、灰色だった雨空は既に白く明るかった。
自分の身支度も手早く整えていると、拗ねたようにこちらを見ている審神者に気付き、髭切は審神者の前で屈んだ。
「なぁに? 怒ってるの?」
「……怒っていないとでも」
むっと唇を尖らせた審神者が微笑ましく、髭切はつい審神者へと短く口付けてしまう。ちゅっと音を立てて唇に吸い付けば、不意を突かれた審神者の目がつり上がっていく。
「ひーげーきーりー」
当たり前だが、髭切の霊力を注いでも審神者は変わらず隙だらけのようだ。しかし隙が無ければこのような事もできないゆえ、結局はこれでいいし、自分が側に居てやればいいかと髭切は一人満足したように笑って審神者の頭を撫でた。
審神者としては、とても怒っているというのに子供をあやすように頭を撫でられてしまい、なんだか気がそれてしまう。情事後の疲れもあり、審神者は小さく溜息をついては、くったりと頭を長椅子へと預けた。
「もういい……」
怒るのも疲れた、とばかりに蹲った審神者を髭切は寝かし付けるように優しく叩いてはその場から立ち上がる。
「うん……?」
そして、立ち上がった先に紅梅色のハンカチが落ちていることに気付く。審神者が濡れた髭切を拭ってくれた時のものだ。
落としてしまったままのそれを拾おうと近寄ると、雨上がりのぬるい風が髭切の頬を撫でた。
「………………」
長い髪で撫でられたような、纏わりつく風に髭切は僅かに眉を寄せた。
嫌な風だ、と不快そうに顔を歪めたのと同時に、審神者のハンカチが風に乗せられ東屋から出て行こうとする。
髭切はひらりと逃げるハンカチを追い掛けては、ふと、そのハンカチから雨の匂いとはまた違う、湿った匂いを嗅ぎ取った。
(…………あっ……)
嗅ぎ取った匂いに髭切は自分の刀を手元へと『呼び寄せ』、足を踏み込む。
「……逃がさないよ」
振り斬ったのが先か、髭切が口にしたのが先か。
薄いハンカチを紙か何かのように二つに切り裂くと、切られたものはじゅっと音をたてて燃えるように消えてしまった。
瞬間、髭切はこの世のものではない声を聞いた。
それは鬼の咆哮であったような、若い女の叫び声だったような。辺りに響いたというよりは、それを斬った髭切の頭の中だけで響いたものだったゆえ、どちらかだったか自分だけでは判断がつきにくい。
しかし自分の刀を通して伝わる気が、審神者の中で感じ取った邪気と同じで髭切はほっと息をついた。
(終わった、か……)
審神者の中から追い出された邪気は、湿った風に乗ってうまく逃げ切ろうとしたのか、ハンカチに身を移したところを髭切に斬られてしまった。
 邪気の正体は何だったのだろうか。審神者の体を借りて口にしていた言葉は何処かで聞いたことがあるような、無いような。
弟に聞けばわかるかもしれない。戻ったら聞いてみようと踵を返すと、僅かな物音に気付いた審神者が蹲った姿勢から顔を上げた。
「髭切……?」
寝起きの子供が親を探すような目をして身を起こした審神者は、もしかすると物音ではなく髭切の気に気付いたのかもしれない。隙だらけで心配ばかりさせる審神者ではあるが、審神者としての霊力は申し分ない。
髭切は刀を鞘へ納めてから歩み寄った。
「主、ごめんね。君のハンカチが風に飛ばされてしまったみたいなんだ。良かったら僕から新しいものを贈らせてもらえないかい?」
本当は切ってしまってもう無いのだが、髭切は刀を抜いたことを隠すように腰に下げた刀を背中にまわして柄頭を押さえた。
審神者は髭切がいつの間にか佩刀していることには気付かず、むしろ髭切が口にした飛ばされたハンカチについて悲しそうな顔を見せた。
「え……、ハンカチが……?」
「大事なものだったかい?」
「大事なものって……、あれは、髭切がくれたものだよ……」
「えぇ……?」
「遠征のお土産にって……」
贈ってくれたじゃないかと言う審神者に髭切がそうだっけ? と首を傾げれば、審神者から「恋人へハンカチを贈るなんてって乱藤四郎に怒られていたじゃない」と言われた。
……そう言えば、紅梅色に染められたハンカチを遠征先で見つけては気に入り、戻って審神者へ贈ろうとすれば「ハンカチを贈るのは別れの意味だよぉ!」と粟田口の子に叱られた気がする。
ハンカチを差し出した髭切を前に審神者が「贈る意味がきちんとしていれば、そんな意味にはならないわ。心配してくれてありがとう」と乱藤四郎の髪をすくようにして頭を撫でていたのを、羨ましいと思って眺めていたのを思い出した……、今。
「あれ、僕のだったの?」
「そうだよ……」
言われるまで気付かなかった髭切に審神者は「もう」とむくれてみせた。
……となると、話が少し変わってくる。
髭切はてっきり審神者が何処かで邪気を拾ってきてしまったのかと思っていたが、最後は審神者から別のものに身を移して逃げようとした邪気が、元々ハンカチに宿っていたものだったら。
(あの邪気をここへ招いたのは、僕……?)
そして、審神者の体内に入り込めるほど邪気の力を強めたのは……。
――乱藤四郎の頭を撫でる審神者を眺め、自分は何を思ってハンカチを握っていただろうか。
「…………ありゃ?」
さて、あの邪気の出所はいかに。    

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