離れたくない
少し自転車を走らせ、彼は川沿いで自転車を止め土手に降りて行った。
なまえも寿に付いていき、下に降りた。

目の前にいる寿は上を見上げると立ち止まった。

『寿、どうしたの?』

「見ろよ。星。」

『.....わ、』

「な、綺麗だろ?ずっとこれを見せたかったんだ。」

『....寿。どうしたの?今日。』

「とりあえず座ろうぜ。」
寿はその場に座り、寝転がった。
なまえも寿の隣に座り、川を眺めた。
夜の川沿いにはあまり人はいなかった。
しばらく沈黙が続いたが気持ちの良い沈黙に感じたなまえだった。

「明日、」

『うん?』

「いよいよ16歳だな。」

『...そうだ、ね。』

「今日はな。15歳の北大路なまえにプレゼントしたかったんだ。楽しかったか?」

『.....うん、すごく楽しかった。..今まで、生きてきて一番楽しかった。』

「大げさすぎんだろ。まぁ、そりゃあよかった。」

『本当だよ....?』
なまえは寝転がる寿を見つめると目があい、寿も体を起こし、目線を重ねた。



「なまえ....本当は、


ずっと好きだったんだ。」


『...え?』

寿となまえの距離がゼロになった。
予想外のことになまえは目が点になり、少しして離れた寿の顔を凝視した。

そして今起きたことと寿の言葉を聞いて、涙が流れた。

『....私も、ずっと好きだったんだよ?』

寿は優しく笑いながらなまえの涙を指ですくい、「知ってる」だけ言った。

『じゃあなんでっ...。』

「知ってたんだ。お前が16で婚約して、23で結婚ってこと。」

『...嘘、嘘だよ。そんなの。』
震えるなまえの手を優しく寿は握る。

「俺らが両想いだったとしても、一緒になることはねーんだよ。過去もこの先も。」

『そんなことないっ...。』

「俺がお前の親に敵うわけなんてねーよ....。」

『....っ。』

「本当は伝えるつもりなんてなかったんだがな...。吹っ切れようと女もつくったが...やっぱりあめーわ。俺。」

『寿...。』

「なまえ、最後にこれだけ言う。」
寿の私の握る手に力が入る。


「幸せになれよ。」


そして立ち上がる寿の服の裾を掴んだ。

『嫌だよっ....寿がいない幸せなんてないよ...。』

「....俺だって考えられねーよ...。」

すると二人の間に一つの影が入った。
上崎だ。

『上崎...。』

「お嬢様、旦那様が大変心配しております。」

『でもまだ話はっ..「終わったから連れ帰っていーぜ。」..寿!』

「お嬢様、行きますよ。」
上崎がなまえの腕を引き、土手に上がる。

『やだっ..上崎!離して!...寿ぃ!!』

なまえの泣き叫ぶ声がいつまでも河原に響いた。


「ごめんな、なまえ...。」




なまえは車の中でただ泣くだけだった。
家に着き、上崎にお父様の書斎に連れてこられた。

「ただ今、帰宅しました。」

「うむ、なまえだけ入れ。」
奥からお父様の声が聞こえた。

『失礼いたします。』

ソファに座るお父様は足を組みながら座っていて、思わず息をのんだ。

「今日はどうしたのだ。お前のこんな所は初めてだ。しかも三井君と一緒だというじゃないか。納得のいくような説明をしてくれないか。」

『はい...。実は、私の我儘で今日は三井君を連れまわしてしまいました。』

「....我儘か。」

そして沈黙が流れる。

「お前が何かをすると北大路家の顔に泥を塗ることになる。..明日からお前は一人前の女となる。責任を持て。..言ってなかったが来週からは藤真家..なまえの婚約相手する相手だ。住むことになる。」

『...私がこの家を出る、と?』

「ああ。」

『...そんな、婚約のことと言い、この事といい今まで一言も..。』

「早くから言ってたらお前は逃げただろうがな。...とりあえず責任を持って行動しろ。以上だ。もう部屋に戻れ。」

『...失礼いたします。』


その日は一睡もできないまま次の日を迎えた。

fin


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