入邸1日目
次の日、適当にいるもの、いらないものの区別をした。
どうやら大好きなゲームを持っていく事は許されないらしい。
それを聞いて、本気で嘆いた。

北大路家で過ごす最後の日は慌ただしいまま、過ぎていき、あっという間に夜になった。
お父様もお母様もいつものように就寝し、私も自室のベッドにもぐるとノックがした。
上崎だった。

『上崎、』

「お嬢様、起こしてしまいましたか?」

『ううん。むしろ寝れないの。少しだけそこにいて?』

「はい。...懐かしいですね。お嬢様が寝付けないときはいつもこうして、イスに座り、本を読んでいましたね。お嬢様も大きくなられました。」

『ねー....。なんというか、こんなあっけなくこの家を出ることになると、本当にこの家の子供なのか少しだけ疑ってしまうかも。』
と笑うと上崎も微笑んだ。

「お嬢様も今も昔も変わらずおてんば娘ですね。...その元気さを藤真家に入っても保ってくださいね。」

『ん....。ねぇ、うまくやっていけるかな。』

「お嬢様なら大丈夫ですよ。最初はおつらい事もありますと思いますが、根気よく続けるといつか実ります。」

『上崎も来てくれたらよかったのに...。』

「お嬢様が健司様と正式に結婚なさって、ご子息が出来たら、その方の執事として戻ってきますよ。約束です。」

『あんま期待できないけどね...。』

なまえの目は段々と閉じられていき、次第に寝息が聞こえた。
上崎はなまえの額に手をやった。

「お嬢様なら大丈夫ですよ....。」





次の日の朝、広間に向かうとお母さまとお父様がそろっていた。
「なまえ、16年がこんなにも早く過ぎていくとは思わなかったよ。向こうでも北大路家の顏として頑張れ。」
背中を押してくれたつもり何だか、よく分からないがお父様は相変わらずだ。

「大変だろうけど....何かもしものことがあったら頼りなさい。」
お母さまは私の頭を優しく撫でる。

そして玄関を出ると、黒いリムジンが待ち構えていてなまえはそれに乗り込んだ。
お父様とお母さま、上崎、そしてお世話になった使用人たちに見送られながら、門は開かれた。
寿の家を見たが、寿がいるわけでもなく目を伏せた。



車を走らせること1時間。
藤真家であろう家の門の前に車は止まった。
北大路家の家は大きいと思っていたが、それ以上に大きく、車の運転手に聞くと東京ドーム3個分の敷地ならしい。

車は門をくぐり、長い道路を走り、やっと本邸らしきものが見えてきた。
思わず窓に張り付いてみていると、車は停車し、おでこを打ってしまった。
『いっ...』

そして車のドアは開かれ、使用人らしき年配の方が現れた。

「ようこそ、藤真家へ。」
穏やかな雰囲気を持つお爺さんに軽く会釈をし、車を降りた。
改めて感じるのは家の大きさ、そして敷地の広さだ。

「それでは旦那様と奥様の所へご案内します。...どうかなさいましたか?」

『い、いえ。』

そしてそのお爺さんの所についていくと、一つの部屋の前で止まった。
中へ促され、入るとお義父様、お義母様、健司、くんがいた。

「ようこそ来てくれましたね。」
お義母の方が優しい笑顔で迎えてくれたので、少しだけ胸をなでおろす。

「立ち話もなんですからこちらへ。」
またまた健司くんの隣に促され、座る。

『え、と...ふつつかものですが、よろしくお願いいたします。』

「まぁ、」
お義母様は口を押え、少し笑う。
お義父様もどこか笑っているように見えるが気のせいか。

「健司、お前も挨拶しなさい。」
とお義父様が言うが、健司くんは足を組み、そっぽを向き、まぁ態度が悪い。

「健司!」
その態度にお義父様が怒鳴り、お義母様はそれを抑えるように止めに入る。

「...ゴホン。お見苦しいところを見せて悪いが...こいつと仲良くしてやってくれ。」
それだけ言い、お義父様は出て行った。

「..あなた。...ごめんなさいね、入邸そうそう、こんな所を見せてしまって。そうね、あなたたちの新居を案内するわ。健司にもまだしていないの。...山田、案内しなさい。」
そう言うと先ほどのお爺さんが現れた。

「紹介するわね。この方は健司の専属執事よ。あなたも執事として扱って頂いていいです。」
扱うって言い方どうよ、と思ったが大人しく頷き、健司くんが立ち上がったので私も立ち上がる。

「色々と大変だろうけど、頑張って頂戴。」

『はい。ありがとうございます。それでは失礼いたします。』
山田さんの後をつづく健司くんの脚は速く、その姿を追いかけた。

そして歩くこと20分、やっと邸内の端に来たらしく、一度外に出て、別邸らしき建物の前にやってきた。

「山田、こんなにも遠いのか?」

「はい。お坊ちゃま。ですから登校の時間の際には余裕を持って、起きるといいと思われます。」

「面倒だな。」
やっと健司君が喋ったかと思ったが、やはり愚痴だった。

別邸の外見は草原の中にメルヘンな洋式の家が建っていて、周りには花で埋め尽くされている。
どうやらお義母様の趣味でロココ調ならしい。
中に入ると右と左にさらに別れていて、右は健司君の部屋、左は私の部屋ならしい。
そしてその二つの部屋の間には広間っぽくなっており、二人掛けのベンチと机がある。
そのベンチの前には、更に庭が広がっていて家と言うより、温室に近い幻想的な空間だ。

夕食などご飯の際は、二人一緒に食事で今来た道を歩いて、本邸に入るらしい。
その説明を聞き、健司君は「そう。」だけ言い、自分の部屋の中に入って行った。

私も山田さんにお礼だけ言い、自分に与えられた部屋に入った。
部屋の中には浴室、映画ルーム、と一人部屋というより一戸建てのような広さだった。
家具もすべてロココ調で、可愛い部屋だった。
昨日届けた洋服などもすべて、広いクローゼットという名の部屋の中に収納されていた。

だけども、自分の部屋にあったぬいぐるみなども無いため、なまえにとって殺風景な部屋に見えてしまった。
そこにノックの音が聞こえたので、所々ガラスのドアを見ると、女の人が立っているのが見え、どうぞ、というと中に4人ほど入ってきた。

「なまえ様の専属執事の加々美です。」
その人を筆頭にそれぞれ紹介され、どうやら執事兼教育係ならしい。
執事というわりに可愛らしい女の子だったり、綺麗なお姉さんと皆、容姿が綺麗だった。

「早速ですが、今日の日程をお話しますね。」

今日は一日休み、本邸の部屋の紹介などで、どうやら明日からは健司と同じ高校に通うらしい。
翔陽高校は優秀な進学校であり、桜蘭ほどではないが、お金持ちの生徒が集まる高校ならしい。
なまえは桜蘭に仲良しの子もいたが、それほど親友ってほどの子はいなかったので未練はなかった。

「では晩餐の時間にはまたきますから、ゆっくりしていて下さい。」
4人は部屋から出て行き、私は再び晩餐の時間までベッドに寝転んだ。
次に目が覚めたのは加々美の顔で、本邸の広間の方に連れて行かれた。

長いテーブルにはすでに健司君がいた。

どうやらこの家も、息子とお義父様、お義母様はそれぞれ別に食べるらしい。
健司君の目の前に座ると、シェフの方の料理の説明が始まった。
起きたばかりだったので目をこすると、視線を感じたので顏を上げると健司君と目があった。

『....何?』

「何もない。」

結局、交わしたのはこの言葉だけでそれ以外は全部沈黙だった。
健司くんは私が食べているのにも関わらず、立ち上がり、広間を出て行った。
彼のお皿を見ると残しているものがいくつかあった。

『人が食べ終わるのを待つことも出来んのか。』
心の中で言ったはずが漏れていたみたいで、シェフや、使用人たちの目線を浴びた。


そして別邸に戻ってきて、少し考え、健司君の部屋のドアを見ると、ソファで寝ているの姿が見える。
なまえは健司の部屋に突入し、彼がしているイヤホンを無理やり取った。

「何すんだよ。」
いつしか見たブラックスマイルで私の事をみるが、おかまいなしで口を開く。

『あんた!私たちはこれから一生一緒のパートナーなのよ?!なのに最初からそんなんだったらコミュニケーションもくそもないじゃない!!何よ!そんなに財閥がえらいの?!こっちだって日本じゃ有名な四代名家の一つだっつーの!むかつく!』
息を吸わずに言ったもんだから、少し呼吸が苦しくなるがおかまいなしだ。

唖然とした健司君を呼吸を整えながら見つめる。
すると「ぶはっ」と笑いだした。

『は?!何で笑うの?!』

「いやいや、この俺様にこんな事いう奴、今までいなかったからね。...だけどさ、僕らは政略結婚だよ?恋愛とかそういうの考えなくていい気楽な関係。それとも何?君は僕が君の事を好きになるとでも思っているの?」
その言葉に苛立ち、勝手になまえは口が開いていた。

『上等よ!私があんたを絶対落としてやる!』
それだけ言い、イヤホンを彼に投げつけ、なまえは強い音を立てドアを閉め、健司の部屋を出た。


長年、恋焦がれていた寿の想いを断ち切った今、なまえの前にはこの婚約者と絶対幸せになってやる!という意地の想いが強かった。

fin



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