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きみのいない日々は、 1

火曜日の部活終わり。

「なんだよー!平古場くんも甲斐くんもケチだなぁ!」
「別にケチではないさー」
「仕方ないだろー」
「仕方なくないしー!?」
「…なんですか、騒々しい」

部活で平古場くんと甲斐くんとヤイヤイ言い争ってたら、木手くんが戻ってきた。

「あっ木手くん!ちょっと聞いてよー!」
「…」
露骨にイヤそうな顔すんのヤメテ

木手くんときたら分かりやすく眉間に皺を寄せやがった。
話を聞くくらい良いじゃないか!
アンタもケチか!

「聞こうとしなくても話すけどさ!ねー聞いてよ、平古場くんと甲斐くんがケチなんですよ!」
「ケチ?」
「やくとぅ(だから)ケチなんかじゃないんどー。こっちだって予定があるんやっさー」
「そーかもしれないけどぉ!」
「また次の時付き合ってやるから、今回は諦めろって」
「諦めれないから言ってるんですけどー!ほら黙ってないで木手くんからも言ってやって!?言って!ほら言えや!

ガシッ

「ぬあっ!?」
「それが人に物を頼む態度ですか」

木手くんに顔面を掴まれた!
普通に考えてこんな掴み方ある!?
我一応女子ぞ!?

「第一俺は何も聞いていないんですから何も言えませんよ。何の話ですか」
「それがさぁ!うちのお気に入りの某プリン屋で、今日から期間限定完熟濃厚マンゴープリンが店頭販売のみで売られるんだよ!でもそのお店の方行ったことなくて、行くにはバス乗り継がなきゃだし、だから案内がてらどっちか連れてこうと思ったら拒否られたワケなのだよ!ヒドくないー!?」
「…よく顔掴まれたまま話せるなー…」
「珍しくあんま痛くないからね!」

平古場くんにツッコミ入れられた。
まぁね、木手くんに顔面掴まれたまま話してるのはシュールですよね。
とりあえず頭振って、木手くんの手から逃れる。

「そういうことですか。しかし珍しいですね。平古場クンはともかく甲斐クンが断るとは」
「そりゃわんだって行きたいさー。でもちゅー(今日)は帰って家の手伝いしろってあびられてるんばぁよ」
「甲斐くん家ってなんかお店だっけ?」
「おー。酒屋さぁ」
「わんだって美容院の予約が入ってるさー」
「先約があるのなら仕方がないじゃないですか。1人で行ったらどうです、神矢クン」
「えー!1人で行ったら確実迷うやん!」
「それはそうでしょうね」

そうでしょうねって。
そう思うんなら1人で行かせたら駄目だって分かるでしょーよ!

「別の日に彼らと行ったらどうです」
「ヤダよ!発売日に買う!食う!それ大事!」
「まぁその気持ち分からないでもないなー」
「でっしょー!?甲斐くん分かってる!だから道案内しろ!
「だからわんは予定があるんだって!…あ、なら木手と行ったらいいあんに?(いいんじゃないか?)」
「その手があったか!じゃあ木手く」
「俺はこのまま残って自主練をするので無理ですね」

く、食い気味に否定しやがったぞこのコロネ…!

「ふーんだ!もういいもんね!1人で行くもんねっ!」

結局は最後に信じられるのは自分だけって言うし!

「最初っからそうすりゃ良かったんだろー…」
「うるさいうるさい!」

呆れた顔でうちを見てくる平古場くんに一喝する。

「迷子になって野垂れ死んだらアンタらの枕元に立ってやるんだからなッ!」
「地元なのに野垂れ死ぬ程迷うなんて有り得ないでしょ」
「マジレスやめろ!というか転校生だから地元じゃないし!死んだらアンタらの枕元で毎夜毎夜反復横跳びしてやるんだからな!あとで着いてってやるべきだって後悔しても遅いんだからなー!」

ばたん!

捨て台詞を吐くだけ吐いて部室を飛び出す。
うちだってやれば出来る子なんだ!
バス乗り継いでお店行って!プリンたらふく食ってやるもんねーだ!


「ちゅー(今日)は一段とうるさかったさー」

涼音が飛び出して行ってから、平古場がため息をつき言った。

「それだけ行きたかったってくとぅ(こと)だろー。…なあ、じゅんに野垂れ死んだりしねーよなぁ?」
「迷子になったくらいで死ぬわけありません。彼女だって本当に迷ったら人に聞くなり連絡するなりするはずですから。まったく、手のかかる人ですよ」

平古場に続き、木手も深く息を吐いた。



「ほーらね!うちは出来る子なのだよ!」

バスを乗り継いて、ついに目的のプリン屋さんが見えてきた!
横断歩道を渡った向こう側に、ファンシー☆な見た目のお店がある。
まあ…ここに来るまで何度か人に聞いたし交番にも聞きに行ったし、むしろ逆方向のバスとか乗ったけどね。
でもそんなことは言わなきゃ分からないわけだから、明日木手くん達には「余裕で行けたぜ(ドヤァ)」って言っとこ!

…ま、それはそれとして。
見ればお店前に「完熟濃厚マンゴープリン 本日より!」っていう旗が立ってる。
店前にはそんなに列も出来てないし、いいタイミングで来れたかも!
さすがうち!タイミングすら神!
とか思っていたら、歩行者用の青信号が点滅し始めた。

「おっと、やばいやばい」

早く行って早く買っちゃお!
お店に併設されたカフェもあるんだけど、さすがに1人で食べるのは気が引けるんだよなぁ。変なところでチキンだし。
誰かに来て欲しいってのは、買って出来るだけ早く食べたいってのもあったんだよな。
結局1人で行く羽目になったんですけどねっ!
まーいいや、早く帰っちゃえばいいだけなんだから。

「さーて何個買おうかなぁー!」

足早に横断歩道を渡る。
マンゴープリンは当然、普通のも食べたい。
あ、母ちゃんにも買っていかないとダメだった。
ハンパに買ってったら取り合いして取っ組み合いのケンカになるかもしれないし。
防げるところは事前に防がないとだからね。
涼音ちゃん、かしこーい☆

「ーーあぶない!」

と、どこからか声が聞こえた。
びっくりして足を止める。

「え?」

いきなり、ドンッという衝撃が走り視界が揺れた。
なすがまま地面に頭を打ちつけると同時に目に入ったのは…黒い、車。



翌日。
朝練も終わり、平古場と甲斐は教室に戻っていた。
しかし2人の顔はどこか浮かない。

「涼音、どうしちまったんだろうなぁ」

そう言いながら、甲斐はスマホをいじる。

「…さあな」

平古場はそっけなく返答をするがやはり内心では気にかかっているようだ。
2人の話の元である涼音は、今朝から姿が見えなかった。
朝練も無断で欠席していた。

「既読にもならないしなー」

甲斐は平古場に自分のスマホを見せて示す。
LINE画面が開かれていて、相手は涼音になっている。
5、6回、甲斐側からメッセージを送っているのだが、返事はおろか既読も付いていない。

「木手も監督も連絡受けてないってあびて(言って)たし…なあ、マジでちぬー(昨日)道に迷って死んだんじゃ…」
「そんなわけあるか!…どうせまた、あぬあんまー(母親)と喧嘩でもしてんだろー」

仲が悪いという訳では無いが、涼音は母親と喧嘩することが多い。
平古場も甲斐も涼音が母親により家から蹴り出されていたところを目撃したことがあった。
平古場の意見に、甲斐も「あぁ」と合点がいったようだ。

「かもなぁ。それか、また体調悪くさせてるかとか?」
「あー…」
「それだったら早く治して学校に来てもらわないと、また凛が情緒不安定になるさー」
「は!?誰がよ!情緒不安定なんかなったくとぅないんどー!」
「ははっ、どうだかなー」

からかってくる甲斐に平古場が声を荒らげようとしたところで、朝のホームルーム開始のチャイムが鳴った。
平古場に怒鳴られるより先に甲斐は逃げるように自席に戻っていった。
それを平古場が恨めしい視線で見送ると同時に扉が開き、担任が教室に入って来た。

「…?」

担任の顔を見た平古場は僅かに違和感を覚える。
いつも笑顔で朝から溌剌としている担任なのだが、今日は表情が強ばっているように見えるのだ。
しかし、周りはその変化に気付いていない。
担任の方を見ずに未だ談笑している生徒ばかりだからだ。
そう思っている間に、日直が号令をかける。

「…えー…今日はまず初めに、連絡がある」

生徒が席に着いたところを見届けた担任が言う。
普段と違う淡々とした口調に、平古場以外の生徒も順に会話を止めて前を向き始める。
視線が集まるのを待ち、改めて担任は口を開く。

「神矢は今日欠席だ。…昨日の下校途中に、事故にあったらしい」
「は…?」

ジコ?
一瞬単語の意味が分からなくなり、平古場は言葉も発さずただ目を見開く。
教卓近くの席の甲斐も唖然とした顔をして担任を見つめていた。


一限目が終わると共に、平古場と甲斐は1組へ向かった。
木手に涼音の話をするためだ。
2人から掻い摘んで話を聞いた木手は「…事故、ですか」と呟く。
さすがの木手も話を聞いた時、驚きが顔に出ていた。

「あの後色々担任から話聞いたんだけど、その事故が原因でなま(今)入院してるらしいんどー」
「怪我はほとんど無いらしいさぁ。念の為の検査入院なんじゃないかって担任もあびてたさー」

つまり入院と言ってもそれほど大事ではない、と平古場達はくみ取っていた。
あくまで担任から聞いただけであるが、その安心から平古場も甲斐もそれほど焦りはないようだ。

「そうですか…朝練の前に連絡がなかったのは、連絡する暇もなかったんでしょう」
「あー…それならちぬー(昨日)、涼音に着いてってやれば良かったな」
「…事故が起きるなんて誰も予測はできませんから、仕方がないことです」
「まあ…そうだけどなー」
「…とりあえず、怪我がほとんど無いというなら安心ですがね」

木手は腕を組み、はぁ、と安堵なのか呆れなのか分かりにくいため息をついた。

「だーなー。涼音のくとぅやし、どうせすぐ戻ってくるさー。で、開口一番わったーにキレてくるんだろうな」
「わったーが着いて来なかったせいだー責任取れー、とか言いそうやし」
「うわ、責任取れとか絶対言う気がするさぁ」

怒る涼音の姿がありありと浮かぶようで、平古場も甲斐も苦笑する。

「平古場クン、甲斐クン、わざわざ報告ありがとうございました。…そろそろ次の授業が始まります、教室に戻ってください」
「お、もうそんな時間か」

木手に言われて甲斐が壁の時計を見ると、針は授業開始2分前を差していた。
じゃあな、と木手に軽く声をかけて2人は教室へと戻って行った。

「…」

平古場達が去った後、木手は微かに眉を顰める。
安心だと自分で言っておきながら、何故か拭いきれぬ不安が心中を漂っているのだった。



涼音が事故にあったと知らされたその翌々日、事態に動きがあった。
甲斐のところに涼音からメールで連絡がきたのだ。
正しくは、涼音の母親から。
涼音が入院している病院の名前やしばらく学校や部活を休むこと、そして娘が迷惑をかけて申し訳ないという簡単な謝罪だった。
甲斐の元へ連絡があったのは、ひっきりなしにLINEを送り続けていたせいだろう。

「…だってよー。まだ退院は出来ないみたいだぜー」

涼音母から来た文面を部員に見せ、甲斐は言う。
すでに部員には涼音が事故で入院しているということは伝わっていた。

「ま、仕方ないだろ。自業自得さぁ」
「…とかあびてるやしが、1番心配してるのは凛君やさー」
「しっ、してないんどー!テキトーなくとぅあびるなよ知念!」
「それより病院食ってどうなんばぁ?神矢、まーさん(美味い)もんいっぺー(たくさん)食べてるのか…あー!羨ましいんどー!」
「慧くん、そればっかやし。というか検査入院だから美味いものは食えてないと思うさぁ」
「そうなんばぁ?ならなんか気の毒に思えてきたさー」
「いや涼音は慧くんと違って食べ物中心で決めない…とも言い切れないか。なぁ木手……木手?」

甲斐達が雑談をしている中、木手は一言も発していなかった。
何かを考えているのか、黙って眉間に皺を寄せている。

「木手、ぬー(何)怖いちらしてるんばぁ?」
「…いえ」

甲斐に声をかけられて、木手はやっと意識を甲斐達の方へと向けた。

「少し気になっていまして」
「気になる?」
「ええ。…甲斐クン、連絡は神矢クンの母親からきたんですよね。本人からではなく」
「え?おー、そうだぜ?」
「そうですか…」

そう答えたきり、また木手は黙り込んでしまう。

「…何よ。永四郎は何が気になってるんばぁ?」

さっきまでからかわれ立腹気味だった平古場も、木手の様子が気になったらしくそう聞いた。
しかし木手は首を横に振る。

「…何でもありませんよ」
「何でもないって言い方じゃないだろ…」
「…なら、今度皆で病院行ってみるか?」
「…はい?」
「…お見舞いってくとぅ?」
「そーそー。木手も涼音が気になってるんなら会いに行った方が早いんじゃないか?どうせ涼音も1人で暇してそうだし。まず涼音にわったー以外の友達とかいないと思うしな!」
「…裕次郎、地味に酷いくとぅあびるよな…」
「え?そうか?」

甲斐に悪気があった訳ではないようで、不思議そうに首を傾げた。

「で、どうする?」
「…」

自然とその場にいる全員の視線が木手へと向けられる。
どうするとは聞かれたが…甲斐達の意思は恐らく1つにまとまっているのだろう。
暫くの沈黙の後、木手は仕方がないとばかりに肩を竦めた。

「…迷惑にならないよう、直ぐに帰りますからね」




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