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彼らの優しさ 4

「ほら何してるんです、何か冷やすもの持ってきてください」
「お、おう」

木手くんが言うと甲斐くんは頷いて部室から出て行った。

「え?い、いいよそんな、大丈夫だし。というかボールとタオル拾わないと……」

うちが散らかしたままで、地面にボールたちが散乱しっぱなしだ。

「何言ってるんですか。片付けるのは何時でも出来るでしょう」
「え、あ、いや……そーですけど……」

木手くんからそんな言葉がくるとは思わなくてビビる。
なにそれ、うちを気遣ってくれてるの?

「頭打ったままにしといたら余計頭可笑しくなっちまうかもしれねーだろ、やー」
「そういう問題かい」
「持って来たんどー。うり、涼音。タオル」

うちがツッコミを入れた同時に甲斐くんが戻ってきた。早かったな。
渡してくれたのは濡らしたタオルだった。

「あ、ありがとう」

甲斐くんからタオルを受取り礼を言う。

「冷やしていれば少しは良くなるでしょう。……もし体調に変化があるようでしたら直ぐに言ってくださいよ」
「お、おー……分かった…」

最初の手厳しさはどこへやら。
頭打ったのはそっちじゃない?とか思うくらい木手くんが優しいんだけど。
こわっ。明日は槍でも降るんだろうか。

「怪我人にまで厳しく当たるほど人間荒んでいませんから」
「あ、ハーイ……」

当たり前のように心中を読んでくる木手くん。
こわい。

「ではそろそろ練習に行きますよ」

転がったボールを拾い集め木手くんは言う。
平古場くんも甲斐くんも倣って集め、あっという間に片付いた。
片付いたことを確認すると、木手くんはドアをしっかり開けた。
「今度はぶつからないで下さいよ」と言って出て行く。

「……」

それをただ見ていると横から声をかけられた。

「じゅんに大丈夫か?ちぶる(頭)」
「え?あ、ああうん。大丈夫。タオルありがとうね甲斐くん」

今まで受け取るだけ受け取って使わずに持っていたタオルを額に当てる。
やべ、すっごい冷たい。

「礼言われる筋合いねーらん……わんが開けといたドアでぶつけたんだしよ……」

しゅんとしてる甲斐くん。
え、なんか罪悪感。

「裕次郎がそう言う必要もねーだろ。永四郎も言ってたけど神矢が前見てねーのも悪かったんだからなぁ」

今度は反対側から平古場くんが横槍をぶっこんできた。
確かにそうだけどね!
反論出来ずにいると平古場くんにぺしぺし頭を叩かれた。

「ちょ、いたい!うち怪我人!」
「あー、わっさん」

心のこもってない謝罪が来た。
ちくしょう。

「とにかく、ちゅーはあんま無理さんけー。ぬーがら(何か)あったら困るのこっちだからな」
「無理も何も仕事らしい仕事なんかしてねーだろ、コイツ」
「あー……」

平古場くんが言ったことに否定もせず甲斐くんが頷きやがった。

「ちょっ、仕事してるしね!?すごいしてるしね仕事とか!うちマネージャーの鑑だから!」
「ボール籠も取れずに部員に取ってもらった奴が鑑か」
「……うるさい!」

ピシャリと言ったら平古場くんも甲斐くんも笑った。

「…じゃ、わったーもコートいちゅんどー」
「だーるなぁ」

話を切り上げ2人と共に部室を出る。
笑われたのがいささか気に食わなかったけど、甲斐くんはうちが出る際にわざわざドアを押さえててくれて平古場くんはボール籠を持ってくれていた。
木手くんは木手くんで、お母さんのごとく世話焼いてくれたんだし。


…優しさが微塵もないとか思ったのは撤回しようかな。
とか思ったとある日の出来事だった。



彼らの優しさ

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