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今日が新たなスタートなんです


親の転勤で転校なんて、マンガの世界の話だと思っていた。
まさかその「親の転勤」と「転校」が自分に降りかかってくるなんて微塵も思ってなかった。
よくさ、「田舎娘がいきなり都会に!」だとか「都会っ子がいきなり田舎に!」とかいうマンガがあるじゃん。
だけど…
なんでうちがいきなり沖縄に転校しなきゃならないんだ。



01 今日が新たなスタートなんです



有無を言う間もなく、本当に沖縄に来てしまった。
転勤っていうか飛ばされたんじゃ…っていう意見は飲み込んだ。
ま、前の学校に大して未練もないし、あんま深く考えないで置こう。
むしろ沖縄に来たことが初めてだったから人生初の沖縄じゃね!?って楽しむことにする。うん、前向き。
うちはもちろん転校するんだけど、色々手続きがあるらしく学校は今度の月曜かららしい。
それまではただの観光客として沖縄を満喫出来るから満足だ。

「涼音、部屋片付いた?」

引っ越し業者の人も帰って行って、ようやく引っ越し作業も落ち着いた頃。
新しい自分の部屋の新しい自分のベッドに横になってたら母ちゃんが来た。

「ん?あー…母ちゃんは片付いてないと思うかもしれないが、うち的には片付けました」
「何それ」
「人の「片付いた」って観念なんて様々だから!とりあえず片付けたよ!」

床に服が散らばっててもダンボールが出しっぱなしでも片付いたと言うんだよ。

「…まあ、涼音が言うなら良いけど。時間があるならちょっと行って来たら?」
「どこに?」
「あんたの学校。当日いきなりなんて嫌でしょ?チラッとでも見て来なさい」
「え。めんど、」
「はい地図。いってらっしゃい」

バタン。

母ちゃんは意見は一切聞かず、うちをぽーいっとゴミ箱にゴミを放るかのごとく外へ追い出した。
いきなりだなぁオイ。

「…なんでやねん」

でもまあ、やることもないからとりあえず行くだけ行ってみようか…。
渡された地図に目をやると、丁寧にペンで印を付けてくれている。
ここがうちが行く学校か。
『比嘉中学校』と名前が付いている。

「…ひ?…ひ…ひ、何とか中学校…なんだったっけ…忘れた」

転校の話をされた時にも読めずに読み方を教わったのだが、見事に忘れてしまっている。
相変わらず記憶力ないな自分。

「帰ったらまた聞けばいいか」

楽天的に考えながら、暑く陽が照る道を歩き出した。



…なんか、うちが思っている沖縄ライフとは違う気がしてきたぞ。
十数分程歩いて、ふと思った。
なにこれ、とにかく暑い。
まだ本格的な夏を迎えてないからって言っても、ここは沖縄なんだ。
日差しが死ぬほど強い。
何の日焼け対策も無しに家を放り出されたんだから、日焼けは避けられないだろう。
明日には全身真っ黒になってるかもしれない。
観光もクソもなんもないよ。
はんぱねぇよ沖縄。
こんな中生活すんの?

「うわー…なんか先が思いやられるんだけど…って、あ」

暑さにやられながら歩いていると、ようやく目の前に学校が現れた。
門に『比嘉中学校』と書いてある。
そうかこれか、うちが通う学校は。

「お……おー……。やっとついた……暑いよホント……」

開かれている門にもたれ掛かり、座る。
ギリギリ木陰に入り、漸く一息吐けた。
長かったよここに辿り着くまで。
絶対焼けたわコレ。

「…はー…」

無駄に晴れ渡り、照りつける太陽を隠す雲すらない空を見上げて頭を力無く倒す。
…少し耳を澄ますと、どこからか波の音が聞こえてくる。
海…近いのかなぁ。

「沖縄の海……きっれーだろうなあ……」

引っ越しのドタバタでまだ海には行っていない。
沖縄に来たからには見てみたいよなぁ…。
これから生活してくんだから、望まなくともいつか見れるとは思うんだけど。

「海…見たーいなー…」
「やー、海見たくとぅ(事)ないんだばぁ?」
「…………」
「ちょ、無視さんけー!(無視するなよ!)」

…………は?
気付いたら目の前に人が立ってた。
びびった。
気配消すなよこの野郎。

というか。
なにこの金髪?誰?
うち?うちに話かけてるの?
独り言に返事なんかしないでほしい。

「…うち?…ですか?」

ふと見ると「比嘉」って書いてあるジャージ着てるよこの人。
この学校の生徒か。

「…やー以外にたーがいるんだばぁよ(お前以外に誰がいるんだよ)」

ちょ、呆れた目で見られましたよ。
てかコイツ何て言ってるの?
方言?方言なのか?
沖縄の方言なんか分からんし!
誰か!誰か通訳を呼んでください!!

「え、えーと……な、何ですか?」
「…………」

バシッ

「うげっ!!」

な、殴られた!?
見知らぬ男(同い年くらいだけど)にいきなり殴られたよ!!
なにコイツ!?

「話くらいちゃんと聞けっつーの。…やー、海見たくとぅないんばぁ?(見た事ないのか)?」
「……………は?」
「………」

ゴツッ

「いって!!ちょっ!!な、何で殴るんですか!?しかもグーってあんた!!」
「やーのせいやっし。何回も何回も聞き返すんじゃねーらん」
「え、だ、だって!!言葉分からないんですもん!仕方ないじゃないっすか!」

知らん言葉をいきなり吹っかけられて、返事出来なかったら暴力ですか!
沖縄ってわっかんねぇ!

「…あー、そう言えばやー、うちなーんちゅ(沖縄人)じゃねーんだよなぁ。…わっさん」
「うちな…?」
「沖縄人のくとぅさぁ」
「ああ…あれ、てか沖縄人じゃないって分かります?」
「話し方聞けば分かるさー」

ああ、そりゃそうか。

「…やー、ふらー(馬鹿)やし」

…何だろう、言葉は分からんがバカにされてる気がする。
そうだ、こんなヤツには絡まん方が賢いな!

「それじゃ、うちは帰りますんで。さよなら」
「ちょ、待ち待ち!なま(今)からやーが言ってた海に連れてってやるさー!」
「…え?連れてくって…いやいいです。自分で行きますし、そんな見ず知らずのアナタになんか求めてな、」
「うり、いちゅんどー!(行くぞ!)」

がしっ

「ぐぁっ!?ちょっ…何!?何コレ!?」

これはなんだ!?
きゅ、急に担がれたんだけど!?
嫌がらせが!?
米俵の様に担がれるのは初対面でする事ではないよな!?
いや顔見知りでもそうそうする事じゃないけどさ!
なんだこれ!
そうか拉致か!!

「はっ、離せぇこの誘拐犯!!誘拐は犯罪だ!お母さんが泣いてるぞぉお!」
「かしましい!振り落とされたくなかったらしっかり掴まってろ!」
「は!?いやいや掴まるも何もまず下して、つーか下せえぇ!」
「やーに拒否権なんかねーんどー」
なぜだ!

初対面でなにこいつこんな偉そうなの!
怖い!沖縄って怖い所だよお母さん!

「あんま口開いてると舌噛むんどー!」
「はぁ!?ちょ…ぎゃあっ!」

必死に抵抗するうちを余所に、この金髪野郎は走り出した。
早っ、早いんだけど!

「ちょっ、まっ…下しっ…!だっ…誰か助けてえええぇ!!

沖縄の澄み渡る空の下、うちの声が寂しく響き渡った。



つづく



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