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  一大事じゃないか!


喜三太たちと共にナメクジさんを探し、サラスト野郎とケマトメにエンカウントした私は朝から学園長先生の庵に呼び出されていた。
あ、ちなみにナメクジさんはあのあと中庭で見付かりました。
よかったよかった。
…いや良くはないか、あんなに喜三太もしんベヱも怪士丸も落ち込んじゃってたんだから。

…それはさておき、私の前には学園長先生でその横にはヘムヘムがいる。
勿論ヘムヘムの存在は知っていたけど実際目の前にするとなかなか驚く。当然の如く二足で歩くもんなぁ。

「さて、和花」
「は、はい」
「お主が忍術学園に来て日も経ったが、学はそれなりに付いたようじゃな」
「こ、この時代に通用するものかどうかは分かりませんけど…お陰様で読み書きと算術は何とか…」
「そうか。土井先生から何度か聞いてはおったが、ちゃんと真面目に取り組んでおったようじゃな」

そりゃあそれしかやること無かったしな…と心の中で呟いて、顔は笑っておく。

「…もうそろそろ、お主を此処から出そうかと思っておる」
「…え?えっ!?ほ、本当ですか!!?」
「本当じゃ」

よっ…よっしゃあああああ!
ついにキタコレ!!ついに出れる!平和に生きられるッ!

「やー本当お世話になりましたっ!何時か功を立てて何かしらこの学園に恩返しをしたいと思います!ありがとうございました!それではこれにて!
「いや待ちなさい。今直ぐ出すとは言っておら……待て待て!勝手に出て行こうとするな!」
「ヘムヘムっ!」
「あ、す、すんません」

勢いで庵から飛び出そうとしたらヘムヘムに慌てて止められた。
ヘムヘム可愛い。…ってそうじゃない。
いけないいけない、喜んで今直ぐ忍術学園から出て行こうとしてしまった。
学園長先生も呆れた顔でため息をついていらっしゃる。

「…確かに出そうとは思っておるが、今直ぐでは無い。せめて数日は後になる。支度もあるじゃろうし」
「あー……まあ…」

いや何もないけどね。
手ぶらでここに来たし、得たものなんて知識くらいだ。
荷物など何も無い!

「所で和花」
「は、はい」
「ここから出て行くに当たって、その後は何をするか考えておるのか?」
「あぁ、はい。それは一応…。この間くの一教室の方々と町に行く機会を頂きまして、その時に一通り働ける場所があるか確認して来ました。住み込みで働ける所もいくつかあるようでしたからここを出た後はそちらに行ってみようかと…」

そう、この間出掛けた時にちゃんとチェックはしていたんだ。
町には結構働き手を探している張り紙もあった。
それに町の人たちはみんな優しそうだったし、あそこの町で働けたら幸せに余生を送れる。はず。

「そうか。…しっかりしておるのう」
「い、いえそんな…」

おお、学園長先生に褒められた。
ちょっと嬉しい。

「ふむ。何なら行く先位紹介してやろうかと思っていたのじゃがそれも必要なさそうじゃな」
「いや!流石にそこまでお世話になる訳には!」

こんな見知らぬ世界から来たという人物にそこまで世話をしてくれるなんて本当に優しい。

「詳しい日時が決まったら改めて伝えるとしよう。それまでは今までと同じ用に好きに過ごしておれば良い」
「あ、ありがとうございます」
「…余り多くの者達と関わるのは勧めんがの」
「は、はい…肝に銘じます…すみません…」

ちらっと片目を開け私を見る学園長先生。
あああ、今まで私が何人か絡んだ生徒がいるって分かってる目だ…!
すみません不可抗力だったんです!
疚しい気持ちは無かったんです!

「…話は以上じゃ。何か聞きたいことはあるか?」
「……いえ、無いで……。…いや」
「何じゃ、言うてみよ」
「……その。私と同じ所から来たあの子は…出ては行かないんでしょうか?」
「……」

あ、やべぇ学園長先生の表情が険しくなった。
聞かない方が良かったか…!?

「…彼奴本人は出て行く気が無いようじゃからな」
「あ、そうなんですね…」
「それに反対する生徒も居るじゃろう」
「あー…」

生徒…六年生のことか。
もう上級生ごと追い出しちゃえよ。
とかいう内心で悪態をついておいて、学園長先生との話は終わった。
頭を下げて庵を出る。
最後に「…来るべき時が来れば、彼奴も帰るじゃろう」と学園長先生の呟きが聞こえた、気がした。
その来るべき時が一体いつ来るのか。

「(…忍術学園が平和になる日は来るのかねぇ)」

いっそのこと下級生に加え学園内の先生方総出で六年生を懲らしめてやればいいのに。
数の暴力。
まあでもそれで解決するような簡単な案件ではないと分かっているから学園長先生も何も手を打っていないんだろう。
何もしないと酷くなる一方だと思うんだけどなぁ。
昨日、悲しそうな顔をしていた喜三太達を思い出すと少し胸が痛くなる。

「(…私が関わることでもないんだけど…)」

放任かもしれないけど、私が関わることで自体が良い方に転ぶ確信なんかない。
そんな賭けに出るくらいなら大人しく身を引いた方が確実だ。
…そう考えながら部屋に戻った。





「……おっ?」

部屋が近付いた時、医務室がやけに騒がしいのに気付いた。
医務室の扉が開いたままで中からザワザワ声がする。
え、なんかめっちゃ人いる。
えー医務室前通らないと部屋に行けないんですけど。
まあ早足で通り過ぎればセーフかな。よしそうしよう。

「あっ、和花さんっ!」
「おうふ!」

顔を隠しながら医務室前を通り抜けようとしたら呼び止められた!
顔あげるとそこには乱太郎が立っていた。

「あ、ど、どーも…」
「和花さん、すみません手を貸していただけませんかっ!?」
「えっ?…うへぃ!?

ぐいっと乱太郎に手を引かれ、そのまま医務室に引っ張りこまれた!
まあ強引ね!

「…って、え?ど、どーしたのこれ」

医務室の中は人でごった返していた。
青と萌黄色の忍装束ばっかりで…ここにいる殆どが二年生と三年生みたいだ。

「野外授業をしていた二年生と三年生の先輩方がみんな怪我をしてしまったんです」
「まじでか」

そりゃ一大事じゃないか!

「他の先生方や先輩方が運悪く出払ってしまっていて…人手が足りなくて困ってたんです!だからお願いします和花さん、手伝ってください!」
「お、おお…分かった」

勢いに押されつい頷いてしまったが、私が手伝ってもいいものだろうか…?
さっき大人しく身を引こうと思ったとこなのに!
…そしたら乱太郎が、医務室の奥の方で人1倍忙しそうにしていた新野先生に声を掛けた。

「新野先生、和花さんも手伝ってくださるそうです!」
「和花さんが?」
「あっ、いや、その…迷惑なら大人しく部屋に戻りますけれど」
「…いえ、今は少しでも人の手が必要です。お願いします」

新野先生はそう仰った。
許可を得たのなら大丈夫…ですよね?

「わ、分かりました。私は何をすれば…」
「薬を付けた生徒が何人か居ますので、その子達に包帯を巻いてください」
「あ、了解です」
「包帯はその棚に纏めてありますので」
「はい分かりました」

…いや頷いてしまったが、手当なんかした事ないぞ。
包帯捲くって言ってもどうすんだ?
まあいいや、為せば成る。うん。

「って、あ」
「…お久し振りです」

棚から包帯を出して薬を塗られた生徒を教えて貰ったら、そこに居たのは左近くんだった。
横には三郎次くんが座ってる。
お久し振りって言われたけど、考えてみれば前に文字の勉強をした以来だ。

「お久し振りだね」
「…すみません、手伝って頂いて…本当ならぼく達保健委員会がしないといけないのに」
「えっ?ああ、そんな大丈夫だよ。私ヒマだし」

ああ、そう言えば見たら手当をしてるのは新野先生と乱太郎、伏木蔵だけだ。
保健委員の左近くんと数馬も手当される側になってる。

「…貴女が『和花さん』ですか?」
「えっ、そうだけども」

急に三郎次くんに話しかけられて驚く。
あれ、この子とは初対面だよね?

「ぼくは左近と同じ二年い組の池田三郎次といいます。貴女の話は左近から伺っています。字が下手だのいつも慌ててるだの…和花さんの事、よく話してるんですよ」
「えっ」
「なっ!?そ、そんなことしてないだろ!」
「左近、そんな照れるなって」
「て、照れてないっ!!」
「(なんだこの子可愛い)」

あ、いやいや和んでる場合じゃない。
仕事をしなきゃ。
左近くんと三郎次くんの前に座る。
見るとそれぞれ左近くんは手、三郎次くんは膝に怪我をしているらしく薬が塗られていた。
そこに何となくで包帯を巻き付ける。

「みんな怪我したって聞いたけど、何かあったの?」
「……二年生と三年生で、裏々山で合同授業があったんですけど…その帰り道で山賊に襲われてしまって」
「うぇっ、山賊!?襲われた!?」

えっ怖い室町怖い!
そういや、前に土井先生から裏々山に山賊が出る噂があるとか言われたな…。
えー帰る手掛かりを探しに行かなくて良かったぁぁ…!

「いえ!襲われたと言うか…その、山賊から逃げる時に崖から滑り落ちてしまったんです」
「そ、そうなのか…切られたり刺されたりはしてない、んだよね?」
「はい。それは大丈夫です」
「そっか、それは良かったけど……あれ、授業終わりだったなら先生とか一緒じゃ無かったの?」
「授業が終わって、皆そのまま自由行動してて…先生方は先に忍術学園へ帰られたんです」
「あぁー…そうか」

それはなんとも運の悪い。
でも可愛い下級生たちが刃物で切られたりしてなくて良かった。

「…というか、和花さん?」
「うん?」
「……包帯、ぐしゃぐしゃになってますけど」
「おぉう!?」

左近くんに指摘されて見ると、確かに左近くんの手に巻いた包帯はぐしゃぐしゃだった。
う、うわー思ったより包帯巻くの難しい!

「ご、ごめんごめんね!?不器用ですいません!」
「…和花さん、本当に女の人なんですか?」
「え、な、なんで!?」
「いえ…包帯すらまともに巻けないなんて」
「す、すみません…」

三郎次くんの辛辣な言葉が心臓に刺さったぞ…!
ほ、包帯なんかそんな使わないし!
絆創膏あれば充分じゃないかーくそー!

「なんか…本当すみません……手伝いなのに役立たずで…役立たずな女ですみません……」
「そ、そこまで落ち込まないでくださいよ!別に責めてるわけじゃないですから!」

落ち込んでた私を見て、慌てて三郎次くんは謝ってくれる。
けどさっきの言葉は充分責めてましたよね。

「ぼくがやり方教えますから。その通りにやってみて下さい」
「わ、分かりました…」

左近くんに言われ大人しく頷く。
もうどっちが年上か分かったもんじゃないよ…。
君よりかだいぶ年上なんですけどね!
とか思ったことは口には出さず、左近くんが教えてくれるまま包帯を巻いてみる。

「…それで、最後に端を縦に切って結べば終わりです」
「よっ…と。おっ、できた!」
「…なんかヨレヨレしてますね」
「……スミマセン……」
「ああもう三郎次!そんな本当の事言ったら和花さんがまた落ち込んじゃうだろっ!確かにヨレヨレでボロボロだけど!口に出すなよ!」
「……」
「…左近、お前も大概酷いぞ」
「えっ?あ!」
「…うん…いいんだ……事実だから…」

寂しい顔で言えば左近くんが謝ってくれるけど、地味に傷付きましたね。
だけど左近くんが教えてくれたおかげでその後の包帯巻く処置はスムーズにこなせた(※スムーズにこなせたと言うだけで上手くできたとは言ってません)。



「はぁー…」

…あれからどれだけ経ったか、なんとか怪我人のみんなを長屋へ帰すことが出来た。
今この医務室には乱太郎と伏木蔵と私しかいない。
新野先生は1番動いてくださっていたのに、薬草が少なくなったと裏山に行ってしまった。スゴイの一言です。
で、残された私たちで手当に使った薬草やら包帯やらを手分けして片付けている。

「ありがとうございました、和花さん。助かりました」
「え?あ、いや、そんな大したことしてなかったし」

乱太郎に頭を下げられてしまった。
本当に大したことしてないんだよな…包帯巻くくらいしかしてない。

「そんな事ないです。左近先輩も三反田先輩も怪我されてしまったから…ぼくと乱太郎と新野先生だけだったらもっと大変なことになっていたと思います」
「……伊作先輩が居てくれたら…良かったんですけど」

ぼそりと、乱太郎が小さな声で言った。

「乱太郎、それは言っちゃだめだよ…伊作先輩だって忙しいんだから」

伏木蔵が首を横に振った。
そうか、慌ただしくて気にしてなかったけど不運委員長は居なかったもんな。
六年生は委員会に出てないって言ってたしなぁ…。
どーせ望愛ちゃんが言ってた「委員会を真面目にするのはダサい」って言葉を間に受けているんだろうな!
こんな発展途上の小さい子たちに働かせて自分たちは好きなことしてるとかね、何様なのかしらねっ!

「だから、ぼくたちが頑張らなきゃ!それに先輩達が怪我しちゃったから…その間、保健委員会はぼくと乱太郎2人で何とかしないとだよ」
「そっか…そうだね。医務室当番も、暫くわたし達で回さないと…」
「……宿題もあるのに…」
「あぁ……そう言えば今日も山ほど出されてたっけ…」
「やらなきゃ…」
「そうだね……」
「……」
「……」

お、おおお……なんか2人が見るからに落ち込んでしまった。
そうだよね、当番が忙しくても宿題はあるもんね。
それに一年生なんて遊びたい盛りだろうに。
乱太郎と伏木蔵に比べたら私なんてフリーダムな時間有りまくりだよなぁ。

「…わ、私で良かったら、当番とか手伝おうか?」
「!」
「!」

お、おおう。
ぼそっと言ったらちゃんと聞こえていたみたいで二人揃って目を輝かせてくれた。かわいい。

「ほ、本当ですかっ!?」
「助かりますぅ!」
「あっ!い、いや、でも私、あんま出しゃばらないようにって言われてるから!先生に許可とか貰わないと…!」
「でしたらわたし達から新野先生にお願いしてみます!」
「良いって仰ってくれたらお手伝いして下さるんですよね!」
「お、おう…」

2人のえらい剣幕に押され、若干引き気味になりながらも頷く。
あー、また後先考えずに言ってしまった…!
これ、孫兵くんの手伝いした時とナメクジさん探しした時の二の舞な気がする…。
…いや、新野先生が許可するとも限らないし、もう出ていく目処も立ったしね!
何があっても「モウ出テキマース!」主張しておけば殺されることは無いだろう。
何より乱太郎も伏木蔵もまた笑ってくれたし。
よしとしよう。
…フラグ立てたとか言わない!



つづく