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「あーー むり」

じいちゃんと和解したはいいが、足は捻挫 腕は骨折。捻挫といえども思ったより酷いものだったらしくしっかり固定されており腕は利き手を骨折言わずもがな不自由極まりない。極め付けにはかっこ悪すぎるたんこぶがおでこに一つ。布団から出入りするだけでも迷惑をかける為いつも誰かがそばにいる、らしい 先刻目が覚めた俺にはいつ誰がそばに居たのか皆目見当がつかない。今日はじいちゃんならしい。

「無理とはなんだみやび 情けない」

「うるせー」

天井の木目を見続けるのも飽きた頃ずずずっとお茶をすする音が聞こえた。首だけ動かしじいちゃんを見やると、俺はこんなに満身創痍なのにこのじじいときたら横に茶菓子まで用意してやがる。

「ん? どうしたみやび 」
「……なんでもねー」

恨みつらみを込めて睨んでみたがじいちゃんは笑みを浮かべるだけ。その笑みには無言の圧力があり、この怪我は自業自得であり刀剣男士一同に多大なる迷惑をかけたことを思い出させる。罪悪感のせいか顔だけ反対側へと向く、ああー当分じいちゃんには頭あがんないわ これ

「みやび」
「んだよ」
「あまり皆を悲しませるでないぞ」
「そんなのわかっ、 」

てるよ と続くはずの言葉が喉につっかえた。傍に座っていると思っていたじいちゃんは俺の顔を覗き込んでいた。鼻と鼻がくっつくほど近く、否が応でも弧を描いた月を見つめる羽目になる。

「皆だけではない」
「うん」
「俺もだ」
「うん」
「本当にわかっておるのか」

そばにあった月はいつの間にか消え首元に温もりを感じた。ぎゅっと俺の着物を握りしめていた。

「三日月 俺が死ぬ時はお前と一緒だよ」

首元にある頭をいつも俺がしてもらってるように撫ぜる。嘲笑気味に言ってみたが、我ながらふざけたことを言った。

言葉を聞くや否やハッとこちらを見やる月は水面に写ったようにゆらゆらと揺れている。ああ、しまった 泣かせてしまったようだ。頭にやっていた手を頬へと伸ばし、涙を拭う。

「俺はお前の最期の主でお前は俺の最初の刀だ」

気だるさと怪我で動きにくい体を少しだけ起こし、三日月のおでこに俺の形の悪いおでこをくっつける。

「初恋と最後の恋を一緒に味わえるんだ、最高だろ?」

にっこり笑って言うとさらに揺れる月。だが、さっきとは違ってクスクス笑いながら

「そうか、それは最高だな」

と言い、自分と俺の唇を合わせた。





(きっと誰よりも心配してたのは)
(お前なんだろうな)



20161028*



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