番外編 | ナノ
3


「あっ」


ガッシャン!!



新しい電動掃除機を見守るのも飽きてきて、少し休憩・・・・・したのが悪かった。


足元に来た丸いそれに足をとられ、躓いてしまった。それだけならまだ良かったが、紅茶が入ったマグカップを勢い良く開いたパソコンの上に落としてしまったのだ。


唖然。



「ふ、拭くものっ」


そう言いながらも早く早くと思い、割れたマグカップをどけてキーボード部分に入った熱々の水分を手で拭う。

どうしよう、


どうしよう


どうしようっ



そのパソコンは
流君がいつもお仕事に使っている大切なもの。

重要な書類が幾つものデータになって保存してある。

しかし、電源を入れても真っ暗なままだ。

「・・どっ・・しよ・・っっ・・・」

1人で留守もままならないなんて、しかも流君の仕事の足を引っ張って
まだ、ここに来て二週間なのに迷惑ばかり、




そんな事ばかり思い浮かんでいると、玄関からドアノブの引く音が聞こえた。
















いつもの不自然なほど静かな玄関に、自分の声が染み込んだ。

「流君、ごめんなさい……」

自分の胸にノートパソコンをギュッと抱きしめる。

「ぁ、あのこれ、パソコン壊しっ」


途中で声が喉に詰まった。
「……ちゃってっ」


帰ってきた流君はオレを見て微かに瞳を見開いた後、イラついたように舌打ちした。


「……っ」


空を打つ音に肩が跳ねる。嫌だ嫌だ嫌わないで


「ヒック…うっ…」


「おい」

いつもより若干低くなった声が身体を再度跳ねさせる。
どうしていいのかがわからなくてその場で立ち竦む事しか出来ないでいると。


「…………」


流君は黙ったままオレを見ていた。


「ふ……っ…ごめん、なさいっ」

ぽたりぽたりと頬を伝うのを無視し、流君の目を見ていられなかったオレは目を瞑る。



「…言う事ねぇのか」





「っ…ご、ごめ」






「…違ぇだろ」


「…え、…っ」


刺すような視線を感じながらキツく壊れたパソコンを握りしめ直す。
つるりとした肌触りにパソコンを何度も落としそうになる。


「…っえと、」


他に言う…こと…。
言うこと、いうこと。

呪文のように心の中で呟いて、頭が真っ白で余計に何も浮かんではこない。





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