Welcome home 1
「流君っ、ごめんなさいっ・・・・・!」
ぽた、ぽた。
タイル張りの黒い床に水滴が落ちる。
静かな広い玄関に響く震えた声は拒絶を恐れていた。
それは、一時間前の出来事である。
ーーーーーーWelcome home
そのマンションは、とても広く、とても高かった。
黒いカーテンを捲れば、ガラスの壁の向こうにゴミゴミとした灰色と空の青が映る。
上から眺める世界は、とてもちっぽけでただの絵のようだった。
都心の高層マンション最上階には、音さえも辿り着けない。
部屋は無音。
「流君、まだかな」
その日も流君はお仕事で、朝早くオレを強引に起こしてから朝ご飯を一緒に食べて出掛けて行った。
今日は、今日中に早く帰ってくるんだって。
「んー」
さて、帰って来るまで何しようかなぁ
本も読みたいけど…
掃除もしたい(ここ重要)
ここ、流君の個人マンションに招かれてから二週間あまり。
それまでは掃除もさせてくれなかったんだもん。
いや、埃ひとつ無いんだけど…。
頑張ってちょくちょく言ってたら、勝手にしろって言われて大丈夫になった。ちょっと無理矢理過ぎたかなぁ。んー反省。
でも、自分ができる事は簡単なご飯を作るのと掃除くらいしかないのに、掃除するなって言われたら自分には何もないし邪魔なだけだ。
だから、頑張る。
だけど、一部屋の広さが大きいからすっごい時間かかるし
流君が帰って来たら掃除はしちゃいけない、と言うかさせてくれないから一日じゃ掃除し終わらないけど。
まぁ掃除しがいはあるからね。
流君がいつでも帰って来てもいいように、リビングだけは綺麗にしないと!時間が余ったら寝室も!
そう意気込んで、掃除機を持つ。
やり方は簡単、床に置いてある書類や本を片付けて、掃除機オン!絨毯は念入りに、隅っこは埃が溜まりやすいから掃除機の先のノズルを替える。
そしてそして!
最後の仕上げはぁあ!
クィックルワイパー!
ん!これは、
様になってきたんじゃ??
ちょっと満足げに口元を歪めて笑う。
少しでも流君が住みやすく思ってくれたらいいなぁと次に向かった。
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