第8話  想う


「…では、よろしいですね?明様」

「は、はい…」


ただ今宿の後ろで剣の修業中。…だったのだがこの前言ってた通り本当にユヅキさんが来た。今私達は向かいあっている状態。私は剣を持っているがユヅキさんは何も持っていない。つまり無防備。


「あの…本当にいいんですか?」

「大丈夫ですよ。…だから私に剣を振って下さい」

「…!」


剣をギュッと握ってユヅキさんの方へ走り、上にあげて軽く、本当に軽く斬ろうとしたのだが。


「っ…!」


ピタリと動きが止まった。ユヅキさんが何かをしたわけじゃない。私が…勝手に止まってしまっただけだ。できない…。大丈夫なんて言われても出来るわけがないよ…!


「…明様。そんな事ではこうやって…」

「―――っ!」

「首を取られてしまいますよ?」


私の首に触れるユヅキさんの手。もしこれが本当に剣なら私は死んでいるだろう。それよりも…笑うユヅキさんの顔が…何よりも怖い。本気で獲物を狙うような目。


「…で、も…。私、やっぱり…!」

「甘い考えは捨てて下さい。私なら大丈夫ですから」

「え…?」


私の手から剣を取るユヅキさん。そしてその剣を自分の心臓に向けて、刺した。一瞬何が起きたのかわからなかった。だけど心臓から抜けた剣の白い刃から滴る赤い血。ユヅキさんから流れる血。それを見て我に返り叫んでしまう。が。


「は…っ、落ち着いて下さい明様…。私なら、大丈夫ですから」

「それでも…!痛みはあるでしょ…!?だってユヅキさん苦しそうだよ…!」


笑っていても苦しそうな声。止まらない血。見ているだけで…痛い。死んでいる、なんてわかっていても血は本物で痛みも苦しみも本物のはずだ。


「…確かにあります。ですがあなた様が強くなろうと思うのならこんな傷…何でもありません」


迷いのない目。ユヅキさんは凄いな。私とは覚悟が違う。こんなにも迷っている私に自分の身を捧げてる。私には、できないよ…。


「…ユヅキさん。せめて、剣を持ってくれませんか?」

「え?」

「甘い考えかも知れません。でも本当の闘いは相手が無防備な訳が無いですし、それに…ユヅキさんのこんな姿、見たくないです」


私はユヅキさんやシズクさん、それにトレインさん達の力になりたい。それが…今の私が望む事。ユヅキさんはフッと笑うと「本当に、甘い考えです…」と言う。ですが、と付け加え。


「…あなた様が望むのなら」


微笑み、指を鳴らすユヅキさん。あの時の…私の剣が出てきた時と同じで剣が出てきた。それを左手で掴む。


「これでよろしいですか?」

「はい。あ、でも傷…」

「問題ありません。もうふさがっております」


気づけば本当に傷は無かった。私の剣についていた血も消えていて、私の剣を返してくれる。受け取り、もう一度距離をとって向かい合う。


「では…いきますよっ!」

「はい!」
 
 
 
 
 


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