あれからスヴェンさんとイヴちゃんは捕まえた標的を連れていき、トレインさんはこの街を見ているみたいだ。私もトレインさんとは別行動で街を見ている。
「わ、あれが時計台か。凄い」
こういう時計台を見る機会はそうそうない。家族で遠出するなんてあまりなかったし。お父さんとお母さんが見たら喜びそう。頭の中でもし家族で来ていた事を想像しながら右手につけてあるブレスレットに触れる。…元気だよね。
「次は…きゃっ!」
「うわっ!」
立ち止まっていた足を動かした瞬間、男性とぶつかってしまい直ぐに謝った。男性は気にしなくていいといってくれるが、ぶつかってしまったせいで荷物が地面に転がってしまっている。男性が腰を下ろし拾うのを私も慌てて手伝う。…駄目だ、考え事してたから迷惑を掛けちゃった。しっかりしないと。
「…明?こんなとこで何してんだ?」
「…あ、トレインさん」
「トレイン…?」
そこにトレインさんがやって来て私が彼の名を呼ぶと男性がその名前を呼ぶ。そして次の瞬間。
「…サ…"]V"…!」
「え?」
「…なんだ?おっさん」
「君は…ミナツキサヤという女性と知り合いじゃないか…!?」
驚きながら言う男性に私もトレインさんも驚く。この人…トレインさんの事、それにサヤさんの事も知ってるの…?
もう一度トレインさんの名を呼ぶとトレインさんは「…あんたは?」と静かに聞いた。すると男性は喜び自分の名前を言う。男性―…ベヤードさんはどうやら以前この街でサヤさんに世話になった人らしい。
「ここで立ち話も何だな、私の店に来たまえ。このすぐ近くなんだ」
「今飲み物を持ってくるよ。君達はその辺に座っててくれ」
「酒場ね」
中には私達以外誰もいなかった。何だか成り行きで着いてきてしまったが、いいのかな…と思いつつもサヤさんの事を聞けるかも知れないと思ってしまう自分もいる。どうやらベヤードさんはサヤさんが亡くなっている事を知らないみたいで先程サヤさんはいないのかと聞いてきたのだ。…確かにこの世界にはもういない…。
一方スヴェン達は標的を渡しに行った後今日の晩飯の食材…魚を釣ろうと思い、釣竿で獲物が来るのを待っていた。
「ねぇスヴェン」
「ん?」
「トレインって昔殺し屋だったんだよね?…どうして今は掃除屋やってるのかな」
「ああ…まあ色々とワケありみたいだぜ」
「ワケあり?」
「…あいつにはこの話をしねぇって約束できるか?」
「うん!」
スヴェンもあまり詳しくは聞いてないみたいだが昔トレインの人生を変えたある女性が掃除屋だったという。その女性とはサヤの事だった。
「もう死んじまったらしいんだがな」
「それって…トレインのコイビト?」
「こ、恋人!?ずいぶんとまたマセた質問を…」
最初はスヴェンもそう思っていたみたいだが実際は少し違ったみたいだ。トレインは…サヤの自由な生き方に憧れていたみたいで、サヤの事を価値観のよく似た親友と言ったらしい。
「親友…」
イヴがポツリと呟くとイヴの持っている釣竿が引っ張られる。それを見るとスヴェンは喜びイヴの釣竿を持ち必死に引っ張り始めた。そんなスヴェンをイヴは冷めた目で見るのだった。
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