二人が仲良く歩いている姿を見て一人の男はうぐぐぐぐと声を上げていた。声は聞こえないが仲良く話して歩いている姿を見るだけでもイライラしている男ーーートレイン=ハートネット。まだデートは始まったばかりというのにピークに達しそうな勢いのトレインは先が思いやられるという言葉が相応しい。


「…何でイラつくのか、か…」


確かに何度もイラついた事があった。その度に何故こんなにもイラつくのかを考えた事はある。結局答えは出ずに今まで放置していた。だがトレインは自分の気持ちに向き合いたいと、知りたいと思っている。だからこそここにいるのだから。


(明、俺はお前に対する感情を知りたい)


嫌な感情じゃないのは充分に理解している。腹が立つ事もあるけど、心が暖かくなる感情だからもっと知りたい。きっかけさえあれば気づくはずだから。
一応バレない様に変装をしている為かぶっている帽子のツバを持ち更に深くかぶるトレイン。二人を見失わないように歩いていく。


「あいつが誑かしている奴か…」


トレインとは別で二人を追っている影には気づかずに。





後ろから彼がついてきているとは全く知らずに私とユヅキさんは二軒目のデザートを食べていた。手に持っているのは生クリームやら苺やらを薄い生地で包んでいるクレープ。一軒目の餡子が入った饅頭も美味しかったけど、生クリームって本当美味しい…!今は太るなんて気にしたら負けだよね、うん!


「どうかな、ユヅキさ…」

(ついてきているのが二人。トレインとあと一人は…誰か確認出来ない?そんな馬鹿な)


美味しいか訊こうと顔を向ければ空いている手で自らの顎に触れながら難しい顔をしているユヅキさん。その表情からして何か真剣に考えているのだろう。さっきまでいつものユヅキさんだったのに…何だか心配。


(…まあ、もう一人はどうやら私を見ているようだが。だが私に用があるという事か?)

「ユヅキさん!」

「!」


何度呼んでも反応してくれないから大声を出す。すると今気づいたのか目を見開いてこちらを見るユヅキさん。どうやらこの様子だと私が呼んでいたのは全く聞こえてなかったみたい。だから私もそこには触れないで、悩み事?と訊いてみた。


「大丈夫です。気のせいだったので」

「無理しないでね」

「え?」


せっかくユヅキさんを楽しませる為に誘ったのだから、今日はめいいっぱい楽しんでほしい。無理をしているのなら頼りにならなくても相談にも乗るつもりだ。勿論ユヅキさんが話してくれるのなら。
私の言葉に驚くユヅキさん。でも次には「ありがとうございます」と微笑む。大丈夫そうに見えたから改めてクレープが美味しいかどうかを尋ねてみる。


「ええ、美味しいです。明さんは…訊かなくてもお顔に書いてありますね」


直ぐに表情が顔に出るとは良く言われてたけど、そう改めて言われると結構恥ずかしいものだ。だけど美味しいのは事実だし…。
クレープを食べながらも紙を広げて次は何処へ行くのかを確認する。確かこの近くにあったはず。キョロキョロと辺りを見て目的の場所を見つけるとユヅキさんを呼んで目的地に指をさした。瞬間。


「そこの君!」

「!?」


突然横から割り込んできた眼鏡の男性。驚きのあまり目を見開きながら一歩後ろに下がってしまう。ユヅキさんが守るように私の前に手をやるが男性は私に用があるというより、ユヅキさんに用があるみたい。だって目を輝かせてユヅキさんを見ているから。


「頼みがあるんだ!今から公演する劇に出てくれ!」

「いきなり何なんだ貴様。あと手を握るな」


ユヅキさんの手を握り必死に言う男性。ところが見知らぬ人に手を握られているからか機嫌を悪くするユヅキさんに伝わる確率はほぼゼロに等しい。困っているのは充分にわかるんだけど…。


「頼むよ!この街の限定アイスをあげるから!」

「…限定アイス」


どうも"限定"と言われると弱い私は男性の言葉に頷きたくなった。勿論劇に出るなんて緊張しすぎて無理なんだけど。それにユヅキさんが誘われている訳だし、諦めるしかないか…。
気にはなったがここは堪えて私は男性に無理だと言おうとしたのだが。


「本当に限定アイスなんだろうな」

「え、ユヅキさん?」

「うんうん!証拠は…はい!」


見せられたのは一つの袋に包まれたアイス。袋に書かれている名前を見てあっ、と思った。後で買おうと計画の中に入っていたアイスだったから。まさか限定だったなんて。しかも中々手に入らないとの事。
ユヅキさんは本物かどうか確認する為に男性の手を振りほどきアイスに触れる。


「明さん。巻き込んで申し訳ないですが…」

「ぜ、全然いいよ!」


確かにユヅキさんがするという事には驚いたけど、どんな劇か気になるし。何よりユヅキさんがどういう演技をするのかも気になる。
私の答えを聞き、礼を言えば男性に場所は何処かと訊く。男性は泣きながらもここから近いと告げ私達の手を引いて歩く。


「…限定物に弱いんです。すみません」

「わっ、ユヅキさんも?私も限定物に弱いんだ」

「でしたら必ず明さんの分もいただくようにします。断った場合は無理矢理頂くので任せて下さい」

「お、穏便にね…」


他愛ない会話をしながら私達は男性がしている劇の会場へと向かったのだった。
 
 
 
 
 


[prev] [next]

back


 
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -