人がいっぱい歩いていく中私は走る。風が当たって髪が揺れる度に着いた時ボサボサだったらどうしよう…と一瞬頭の隅で考えるがその時はその時だと無理矢理思った。
約束の時間には間に合う。余裕を持って行こうとは思っていたから。だけどあの人なら私より早くに来てそうで。だから焦ってしまう。


「はぁ、はぁ…」


集合場所に着いた。街の中心にある大きな噴水。これを目印にして集合しようと決めたのだ。噴水は太陽の光に照らされていて凄く綺麗。ここだと風が吹けば風が冷たくて気持ちがいい。走ったから疲れている私にはとても助かる場所。ちょっと、疲れちゃったな。
パッと見てあの人がいない為、人が多い中息を整えながらも噴水の周りを歩く。どこにいるんだろう…。


「ーーーほら、早く行け」

「!」


他の人がいるから声なんて聞こえないはずなのに不思議と今回はあの人の声が良く聞こえた。慌てて声のする方に向かえば泣いている男の子の頭を撫でる人がいた。
噴水と同じで太陽の光に照らされて輝く水色の髪。髪と同色の水色の瞳。見た目は私と近い歳に見えても、発言は少し大人っぽくて。でもこんな事本人には言えないけど、やっぱりどこか子供っぽい所がある男の人ーーー。


「…元気で。もう両親と離れるなよ」

「ユヅキさん」


男の子とその両親に挨拶して別れるのを見て声をかける。私に体を向けると微笑む今日のお出かけの相手ーーーユヅキさん。


「すみません。子供が迷子になっていたので」

「ううん、気にしないで。あの子の親を探していたのだよね?だったら尚更気にしなくていいよ」


申し訳ないと眉を下げて言うユヅキさんに首を横に振る。謝る必要は無い。ユヅキさんは男の子の事を想って行動したんだから。
私にお礼を言うとユヅキさんが説明してくれる。どうやら私より先に着いたユヅキさんは私の事を待っているとあの男の子が泣きながら近付いてきたらしい。ユヅキさんは大方迷子で泣いているのだと思っていたみたい。


「これだけの人がいれば迷子になる確率は高いですから。…一応聞いてみれば予想通りだったので」


天使の力で一般の人を探すのは簡単。だから男の子の両親も探知すれば直ぐに居場所はわかったのだけど、ユヅキさんは両親がこの噴水に向かって来るのを感じてここから動かなかったのだ。私との集合場所だから動く訳にもいかないと思い余計に、と付け加えるユヅキさん。


「ただ両親が来るまでの間が苦労しました。両親はまだ来ないのかと騒いだり、お腹がすいたと泣き始めたり…」

「でもユヅキさんはちゃんと対応したんだ」

「ここで放置する訳にもいかなかったので仕方なく、です」


とは言いながらも面倒を見たユヅキさんは優しい人だと思う。男の子もユヅキさんの本質をわかって近づいたんじゃないかな。
おもわず笑みがもれるとユヅキさんがこほんとわざとらしく咳をして私を見た。ああ、そうだ。遅れたんだから謝らないと。


「ユヅキさん、私の方こそごめんね!自分から言い出した事なのに遅れて…!」

「いえ、気にしないで下さい。約束の時間は過ぎていませんし」


自分から言い出した事。デートの前日、シズクさんから許可を得たユヅキさんが私に報告しに来てくれて私が告げた事。それは迎えに来なくていい、だった。
普通は一緒に外に出た方が良いとは思う。わざわざこうして集合する方が手間がかかるというのもわかってる。しかしいつも私の稽古に付き合ってもらう時ユヅキさんから来てもらっているのに、流石に私から誘ったお出かけでも来てもらうのはどうかと思ったから。だからユヅキさんが時間が取れるのなら時間を決めて何処かに集まらないかと決めたのに…私の馬鹿。


「それに"あの事"もごめんね…」

「構いませんよ。あいつの事を大切に想っているのだと伝わりましたから」


申し訳なくて落ち込む私とは反対に、楽しそうにクスクス笑うユヅキさん。頬が熱くなっていく。た、確かに想ってるけど、いざ言われると恥ずかしい…!
自分の方こそ我儘を言ってすみませんと謝るユヅキさん。我儘なんかじゃないのに。寧ろ応えられなかった私が悪いのに。…って、ここで謝っても絶対ユヅキさんは自分が悪いと言ってきりが無いだろうから、話を変えよう。


「じゃ、じゃあそろそろ行こっか!色々と計画を立ててきたの!」

「それは楽しみです。行きましょうか」


二人で歩く。こうやって二人で歩いているとフェクターの町で話していた時の事を思い出す。あの時はユヅキさんとぎこちなかったなぁ…。まだ私はユヅキさんに対して敬語だったし、ユヅキさんは私の事を様付けだったもんね。でも今は。
鞄の中から一つの紙を取り出す。じーっとその紙を見ながら歩いていればユヅキさんが何かと見てくる。


「昨日私が考えた計画を忘れない様に書いたんだ」

「…少々食べる事が多い気がしますが…。しかも主にデザート類」

「き、気にしたら駄目。ユヅキさんもたまには甘い物食べないと!」

「甘い物…。食べましょうか、明さん」


私はユヅキさんに敬語じゃないし、ユヅキさんは私の事を様付けしていない。気軽に話が出来ている。あの時よりも仲良くなってるよね。
その事とユヅキさんが微笑むのが嬉しくて、私は「うん!」と笑い返したのだった。
 
 
 
 
 


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