「い、痛い…」


イヴちゃんと別れてから外に出てまずは剣でそこら辺に落ちてある木などを斬っていたのだが。結構な頻度で休憩しながらなのに腕が痛い…!剣自体は本当に軽いけど、何回か振っただけでこんなに痛いものなの!?こんな事なら普段から鍛えておけば良かった。
…それに実際の所闘うのは人間な訳で。皆が気を使ってくれて私はまだ後ろで見ているだけだけど、見ているだけなのに怖かった。武器を向けるのも向けられるのも、近くで攻撃をするのもされるのも、何もかもが怖い。本当に闘うとなると怖くて動けないかもしれない。…我ながら情けない。こんなんじゃ強くなんて、皆を助ける事なんて出来ないよ…。
自分の不甲斐なさについ溜息をついた時だった。足音が聞こえて顔を向ければイヴちゃんがこちらへと歩いてきていた。


「どうしたの、イヴちゃん」

「疲れている所悪いけど…。スヴェンが出かけるって」

「あ、もしかして仕事?」

「そういうわけじゃないんだけど…」


歯切れが悪い言い方をする彼女に一体どういう事だろうと思いながら私は剣を鞘に戻し、イヴちゃんと共にスヴェンさんの元へと歩くのだった。










「…で…なかば強引に"一日ダーリン"をOKさせられた訳か…」

「…ああ」


スヴェンさんが確実に怒っている。運転しているから顔は見えないけどもう声が怒ってる。そう思いながら私の隣に人一人分を空けて座っている彼…トレインさんを見る。多分真後ろにいるトレインさんにもスヴェンさんが怒ってるのがひしひしと感じるのか、返答した声に焦りが含まれていた。
今私達は車に乗ってホテル『サンディーノ』という場所に向かっている。そしてトレインさんの服装はいつもの…私的にかわいいと思うドーナツがついている服ではなくスーツだ。まあ確かに話を聞いてる限りちゃんとした正装じゃないと駄目そうだもんね。
あの後イヴちゃんと共にスヴェンさんの元へと戻ればトレインさんが戻ってきていたのだが、凄く疲労した表情をして。何故車に乗って、しかもトレインさんはスーツ姿でそのホテルに行くかというと、ホテルで『マダム=フレシア』という大金持ちの誕生パーティーがあるらしい。リンスレットさん…通称リンスさんはそのパーティーに入るために『ロウリー州に住む若き資産家の妻』と言ったらしい。
それは当然嘘。だがバレる訳には行かない為、『夫』が必要となる。…で、その夫にトレインさんを選んだらしく。


「…だから簡単にアイツを信用するなと言ったんだ。おかげで俺が送迎の運転手かい…」


一応トレインさんも掃除屋だし、泥棒の手伝いはできないと断ったのだが、そう言うと今回の奢る話は無しと言われ、しかも前の貸しがどうとか言われ、最終的に受けてしまったと。…うーん、スヴェンさんが呟いていた理由はこれで、その嫌な予感は見事に当たってしまったんだね。段々怒りが増していくスヴェンさんにヒヤヒヤするけど、口を挟む勇気はなかった。


「トレイン、お前今日晩飯抜きな!」

「えーっ!!!」


絶望した表情でトレインさんは嘆いているが、スヴェンさんは聞き耳を持たないで運転するだけ。そんな二人の会話を聞きながら私とイヴちゃんはアイスを食べている。ご、ごめんねトレインさん…。私が料理出来たら良かったんだけど、あいにくできないんだよね。この際学んだ方がいいのかな…。










暫くすると目的のホテルに着いた。なんていうか…大金持ちの人の祝い事だからか、ホテルも見た目でわかるほどに高そうな所。まさにそういう人達しか入れないって感じがする。
車を停めれそうな場所に停めればトレインさんが車から降りた。


「ちゃっちゃと行って帰って来いよ。次の仕事が控えてるんだからな!」

「わーってるよ…」

「頑張って!」


まだ収まっていないスヴェンさんに対して、ご飯が食べられないからかどう見ても落ち込んでいるトレインさんに私は窓を開けてせめて応援しようと声をかけた。すると手を軽く振ってくれた。
残された私達はトレインさんを置いてここから帰れないし、これからどうするのかと訊こうとしたが、イヴちゃんはじっとスヴェンさんを見ていた。…もしかしてイヴちゃん…。


「パーティー、行きたいの?」

「うん」

「金持ちのパーティーなんざ行ってもつまんねぇぞ?ここで本でも読んでた方が余程ためになるってもんだ」


どうやらスヴェンさんはこういうのに興味が無いらしく、ここで寝るみたいだ。そう言ったあとニット帽を深く被り視界を塞ぐと直ぐに寝てしまった。余程疲れてたのだろう。運転もしてくれてるし、少しでもゆっくり休んでほしい。


「明はどうするの?」

「んー、私も寝ようかな」

「パーティー行きたい…」

「入れるかわからないけど…行くだけ行ってみる?ついて行こうか?」

「ううん、私一人で行ってくる。明は休んでて」


言うやいなやイヴちゃんは車から降りてホテルの入口へと歩いていく。心配だけど、休んでいいって言われたからお言葉に甘えて休もう。中へ入れなかったら戻ってくるだろうし、その時は二人でお喋りでもして時間を潰せばいい。そう思い目を閉じた。どうやら自分が思っているよりも疲れていたらしく、直ぐに眠ってしまったのだった。
 
 
 
 
 


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