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「名前さん?」

『あ、征十郎くん。…と、テツヤくんも』


お風呂からあがり、何か飲み物でも買おうとフロントの自販機に向かうと、ふと目に付いた一つのクリアショーケース。入口から向かって正面の壁際に置かれているそれは、一体何が入っているのだろう。気になって中を覗き込めば、飾られていたのは、琥珀色の石。見つめ続けると、吸い込まれそうなほど綺麗なその石に目を奪われていた時、後ろから征十郎くんの声がした。


「これは…」

「“記憶石”、ですか?」

『うん。そういう名前みたい』


「綺麗だよね」と呟いて、もう1度石に視線を向けると、2人も同じように石を見つめる。「確かに、綺麗ですね」「はい」という2人に、頷いていると、「あら、記憶石に興味があるの?」と少し驚いたような女性の声が背後からした。


『管理人さん、』

「こんばんは」

『はい、こんばんは。あの、この記憶石って…?』

「これはね、むかーしここにあった村で生贄にされていた女性の事を想って祀られていた石なんですって」

「生贄…?」


なんてことのないように聞こえてきた物騒なワードに征十郎くんが小さく目を細める。記憶石を見つめていたテツヤくんも驚いたように目を見開いた。


「その村ではね、この山の山神様に女の子を生贄に捧げていたんですって。その子達の事を忘れないように、彼女たちの記憶をこの石の中に閉じ込めていたって言われてるの」

『それは…』

「あまり、穏やかな話ではありませんね…生贄だなんて…」

「あら…ごめんなさい。気分を悪くさせてしまったかしら…。でも、私もここを任される時に聞いただけの話だから、本当かどうかは分からないのよ。それに、その子達の魂を鎮めるために、この近くには祠もあるみたいだし」


「だから、あまり気に病まないでね」と申し訳なさそうに眉を下げた管理人さん。そんな彼女に大丈夫です。と3人で頷き返すと、安心したように笑を零した管理人さんは、管理人室の方へと戻っていく。

生贄にされていた女の子の記憶を閉じ込めた記憶石。

こんなに綺麗なのに、あの話を聞いた後だと、少し物悲しく感じる。ショーケースに手を伸ばして、ガラス越しに石を撫でると、気遣うようにテツヤくんに背中を撫でられた。


『…そう言えば、2人はどうしてここに?もう少ししたら就寝時間だよね?』

「それが…青峰くんと黄瀬くん、それに火神くんが戻ってこないんです」

『え?』

「3人とも、外に自主練に行ったんですが…まだ戻ってきていなくて、」

『…大丈夫かな?もしかして、何かあったんじゃ…』

「大丈夫だとは思いますが、就寝時間になっても部屋に居ないとあっては、同室の僕らまでとばっちりを食う可能性があります」

「だから、2人で探しに来たんですが……」


「その必要はなかったみたいですね」という言葉と共に、入口に向けられた視線。パチパチと瞬きをして征十郎くんの視線を追うと、「どうすんだよ!あれ!」「お前のせいだぞ!」「なんだおれっスか!」と何やら話をしながら3人が中へ。良かった。何もなかったんだ。
ほっと息をついて3人に駆け寄ろうとすると、無表情のテツヤくんが3人の背後へ。あ、これは。


「随分遅かったですね」

「「「うおっ!?!?!?」」」

「て、てめっ…!黒子!!」

「脅かすんじゃねえぞ!テツ!!!」

「心臓止まるかと思ったっス…」


テツヤくんに怒る大我と青峰くんと、胸を抑えて息を吐く黄瀬くん。征十郎くんと2人で苦笑いを浮かべていると、こちらに気づいた黄瀬くんがぱあっと目を輝かせて駆け寄ってきた。


「名前さ、「待て、黄瀬」ちょ!なんで邪魔するんすか!赤司っち!!」

「その状態で名前さんに抱きつこうとするから。せめて風呂に入って汗を流してからにしろ」

「あ…」


どうやら自分が汗だくでいることを忘れていたらしい。小さく笑っていると、そう言えばと思い出したようにテツヤくんが大我を見上げた。


「3人とも、入ってくる時何を話してたんですか?」

「「「え゛」」」

「なんだ?何かあったのか?」

「い、いやあ…別に……」

「そうそう!ただ、明日の練習が楽しみだなって話してただけっスよ!」


テツヤくんの質問に明らかに動揺している3人。じっと向けられる征十郎くんとテツヤくんの視線から逃げるように視線を反らしているけれど、その時点で何かあったと言っているようなものである。


「…まあいい、話はあとで聞こう。とにかく風呂に行ってこい」

「そうですね。そのまま部屋に戻ると、緑間くんの雷が落ちますよ」


征十郎くんとテツヤくんの言葉に慌ててお風呂へ向かう3人。小さく笑いながらその背中を見つめていると、残った2人から呆れたようにため息が零された。


『良かったね』

「…まあ、無事だったのは良かったんですが…」

『それもだけど、3人とも、自主練に行くくらい、バスケが楽しいんだなって。だから、それも含めて、良かったなって』


3人が走っていった廊下を見つめて、柔らかく目尻を下げる。バスケがつまらない。そんな風に試合をしていた青峰くんや黄瀬くんが嘘のよう。あんなにあせだくになって練習している姿を見ると、どうしても微笑ましい気持ちになるのだ。
視線をそのまま征十郎くんに移すと、穏やかな表情をした彼もまた、嬉しそうに笑う。その隣で、テツヤくんも嬉しそうに微笑んだ。


「…そうですね。確かに、楽しそうです」

「ああ。…だが、こんな時間までなんの連絡もせずに行動していた事は、きちんと咎めなくてはならないな」

『あはは。征十郎くんは、厳しいなあ』

「明日の練習の前に、体育館のモップがけをして貰うだけですよ。5回往復分ね。優しいくらいです」


広い体育館を3人で。それも5往復分。征十郎君いわく優しいらしいペナルティに、苦笑いを零さずにはいられない。
「僕達も戻りましょうか」「そうだね」テツヤくんの言葉に頷いて、さつきちゃんとリコちゃんの待つ女部屋に戻ることに。フロントを出る時、ちらりとショーケースに目を向けると、中に入っている記憶石がキラリと光った気がした。
合同合宿編 4

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