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「学級委員長を決めてもらう」

「「「「「学校っぽいの来たー!!!」」」」」


はいはいはい!!と皆が手を挙げる中、挙げていないのは私と、斜め前の席の轟くん、それにお茶子ちゃんくらいだろうか。一番後ろの席から、わいわいと楽しそうに騒ぐ皆を見つめる。学級委員長なんてなったら、職員室に行く機会が増える。職員室なんてプロヒーローの巣窟だ。絶対なりたくない。
飯田くんの提案により、投票席で委員長を決めることに。別に誰でもいいのだけれど、どうせなら真面目に勤めてくれそうな人にしようと、白い紙に“飯田くん”と書くことに。うん、いいだろう。真面目そうだし、眼鏡だし。しかし結果は緑谷くんが三票で委員長に決定。次いで百ちゃんが二票で副委員長に。あ、百ちゃん悔しそうだ。

そのまま授業は終わり、あれよあれよという間に昼休みに。今日はお弁当がないので食堂へと向かうと、並ぶ行列に思わず顔を顰める。


『………あ、轟くん、』

「……苗字か」

『ここ座っていい?』

「ああ」


なんとか注文を終え、空いている席を探していると、ふと見つけた白色と赤色のコントラスト、轟くんの姿。丁度よく空いていたその向かいの席に座らせて貰うと、一度だけ顔を上げた轟くんはまたすぐに蕎麦を食べ始めてしまう。好きなのかな、蕎麦。


『人多いね、昨日もこんな感じだった??』

「…そうだな。昨日も多かった気がする」

『そっかあ……食堂のご飯も美味しそうだけど、やっぱり毎日この人混みはなあ……』


頼んだオムライスは外フワフワ。中はトロトロの完璧なもの。店で出てくるほどのクオリティのそれは、並んでも食べる価値はあるだろうけれど、だからといって毎日毎日昼休み行列に並びたいかと言われると、首を振りたくなる。
「轟くんは昨日もその前も食堂?」と声をかければ、「ああ、」と返ってきた頷き。お茶子ちゃんも一人暮らしで食堂の割合が高いって言ってたし、心姉ちゃんの負担を減らすためにも、私も食堂の利用率を増やした方がいいだろうか。


「……苗字は、今日は弁当じゃねえんだな」

『うん。今日は心姉ちゃん……えっと家の人が忙しかったみたいで』

「そうか。………俺も、姉さんが作るって言ってんだが、断って」

『え、轟くんお姉さんいるの??』

「ああ。あと、兄貴もいる」


意外。彼、末っ子だったのか。
あんまりそんな感じしないなあ、と綺麗に箸を使う轟くんを盗み見る。整った顔立ちだ。俗に言うイケメンというやつだろう。髪だけじゃなく、左右の瞳の色も違う、オッドアイもとても綺麗だ。


「……気になるか?」

『っえ?』

「この傷痕、そんなに気になるか?」


進んでいた箸が止まる。
傷痕。傷跡って、もしかしなくても、彼の左目の、火傷の痕の事だよね??「いや、別に、」と答えれば、轟くんの整った顔が少し歪む。「じゃあなんて見てんだ」と目を細めた彼に、慌てて首をふった。


『ご、ごめん……そりゃジロジロ見られたらいい気はしないよね……。ただ、その……轟くんって整った顔してるなあと思って……』

「別に普通だろ」

『…その返答は世の中の“普通”な人に謝って欲しい』


どうやら轟くんか自分の見目の良さを自覚してないらしい。これはあれだな。隠れファンとか出来るタイプだな。多分。
けど、轟くんがこんなイケメンさんなら、きっと彼のご兄弟も美人さんとイケメンなのだろうと「お姉さんやお兄さんとも似てるの?」と尋ねれば、止まっていた箸をまた動かしながら轟くんは小さく首をふる。


「……さあな。あんま一緒に行動しねえから、似てる似てねえ言われたことねえし」

『あ……そうなんだ…。仲、あんまり良くない……とか?』

「………どうだろうな。ガキの頃は会話らしい会話なんてしなかったし、今も……何話していいのか分かんねえ時とかはあるけど………」

『そっか………。じゃあ、これから沢山話せるといいね』

「っは……?」


轟くんのオッドアイが小さく見開いた。
オムライスを食べる手を止め、目の前の彼に目を向ければ、何かに動揺したように、轟くんの瞳が小さく揺れる。


『轟くんがお兄さんやお姉さん仲良くしたいなら、これから沢山話せばいいよ。遅いなんてことないんだから』

「…何話せばいいのか分かんねえっつったろ」

『分からないだけで話したい気持ちはあるんじゃないの??だとしたら、勿体ないよ。もしかしたら、お兄さんやお姉さんだって同じように思ってるかもしれないじゃん』

「……苗字、お前は……」


お前は、なに?もしかして、口を挟みすぎただろうか。ごめんね、と謝ろうとその時。

“ウウーーーーーー!!!”

“セキュリティレベル3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難して下さい”


『っえ?な、なに?』

「警報……?」


突然のアナウンスに大きく肩を揺らす。周りの生徒たちも状況に付いていけていないのか、何事かと驚いている。
「れ、レベル3って……」「ヴィ、ヴィランだ…!!ヴィランが学校に来たんだ…!!」「っ逃げねえと!!!」
騒ぎの声がだんだんと大きくなっていく。隣の席に座っていた生徒が荒々しく立ち上がる。ヴィラン?学校に?この、雄英に??恐怖や焦りよりも驚きの方が勝って動けずにいると、「おい、なんか可笑しくねえか?」と轟くんが食堂内を見回した。


『お、おかしいって、何が?』

「ヴィラン襲撃ってわりに、爆破音や衝撃が一切ねえ。それに、もし本当にヴィランが来たっつーなら、先ず先生たち“ヒーロー”が来るはずだろ」

『ヴィランと交戦してるんじゃ…?』

「だとしても、俺たち生徒を置いて全員が全員ヴィラン退治に向かうなんて事ありえねえ」


確かに轟くんの言う通りかもしれない。
次々と食堂を駆け出ていく生徒たち。これじゃあ廊下はきっと大混乱だ。とにかく先生を呼びに行くなりなんなりして事実確認をするべきと判断し席を立てば、同じことを思ったのか轟くんも立ち上がる。


『廊下……は、団子状態だね……』

「なら、食堂の裏口から出て先生探すぞ」

『うん、そうだね』


食堂の入口は二つ。一般的に利用される廊下からの出入口と、外から入ることができる裏口。裏口の方はあまり利用されていないようだけれど、校庭で授業を終えた先輩たちがそのまま食堂に来るのに時折使っているらしい。
「行くぞ」と歩き出した轟くん。そんな彼に続こうとしたその時。


「お前ら落ち着け!!!!これは誤報打!!!」

『っ、』

「B組の、」


私たちが出ようとしていた裏口の扉から現れたのは、B組の担任をしている先生だった。
誤報、ということは、やはり轟くんの読みは当たっていたようだ。先生が言うには、朝から校門前に張り付いていた報道陣が、強引に中に入ってきた事でセキュリティがさどうしてしまったらしい。
先生はすぐさま廊下の方へと向かい、今度は団子状態となっている生徒たちに声を張り上げる。何はともあれ、ヴィラン襲撃ではなくて良かったと言うべきだろう。


『ビックリしたね……轟くんの言う通りだったし』

「…冷静になりゃ気づける。まあ、ヴィランが来たって言われて焦るのも分かるけどな」

『あはははは……私は焦っちゃうタイプだな……』


ホッと胸をなで下ろす。冷静になれば気づけるって轟くんは言うけれど、多分冷静になれる人の方が少ない。

自分の、誰かの命が危ないかもしれないような状況で。


“やめてえ!!どうか、どうかこの子だけは……!!”


脳裏を過ぎった悲痛な声。それをかき消すように首を振り、不思議そうにしている轟くんと二人で、また席へと戻ったのだった。
MY HERO 6

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