雄英高校演習場の一つ、嘘の災害や事故ルーム。略してUSJ。様々な場面の災害救助に対応する為に作られたというこの場所に、クラスメイト達は、おお!!と目を輝かせている。
本日のヒーロー基礎学は、ここUSJで災害救助の演習を行うらしい。ここには皆でバスに乗って来たけれど、まさか校内でバスを使うことになるなんて。雄英高校敷地広すぎでしょ。
『USJって……名前的に怒られたりしないのかな…』
「……どうだろ……」
苦笑いで緑谷くんを見れば、同じような顔をした彼がへにゃりと笑う。バス内での会話で、緑谷くんは梅雨ちゃんにオールマイトと似ている個性だと指摘されていたっけ。同じ増強型の個性と言えば似ていなくもないけれど、緑谷くんは個性を使う度にどこかボロボロになっている。すごい個性だとしても、見ていてかなり危なかっしい。
今日の授業は13号先生というプロヒーローも加わるようで、「私好きなの13号!!」とお茶子ちゃんが嬉しそうな声をあげている。13号先生は、主に災害救助の場で活躍するヒーローらしい。やはりこの人も知らないヒーローだ。
「えー始める前にお小言を一つ二つ、……三つ、四つ…」
『(増えてる…)』
「皆さんご存知だとは思いますが、僕の“個性”は“ブラックホール”。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
「その“個性”で、どんな災害からも人を救い上げるんですよね」
「ええ…。しかし、簡単に人を殺せる力です」
緑谷くんの声に答える13号先生の声音が変わった。
「皆さんの中にも、そういう“個性”がいるでしょう。超人社会は“個性”の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。
しかし、一歩間違えれば、容易に人を殺せる“いきすぎた個性”をここが持っていることを忘れないで下さい」
13号先生の言葉に皆の表情が変わる。
個性は、人を傷つける能力に変わる。その通り。それは個性を持って生まれたからには決して忘れてはいけないこと。
何より、
ヒーローという“正義の味方”になろうとするのなら、絶対に心に刻んでおくべきことだ。
個性は、人を傷つける為じゃない。人を助ける為に使うもの。それはヒーローが一番よく分かっていなければならない。でも、全てのヒーローがそれを分かっているとは限らないのもまた事実。
個性は、簡単に凶器にだって代わるのだ。
「君たちの力は人を傷つける為にあるのではない。救けるのだと心得て帰って下さいな」
13号先生の少し長い“注意”が終わる。「以上!ご清聴ありがとうございました」とお辞儀をする先生に飯田くんが拍手を送っている。
素晴らしい心がけだと思う。何より、これからヒーローになろうとしている私たちには必要な見地だ。この先、クラスメイト達はヒーローになる。その時彼らには是非とも覚えていて欲しい。この、13号先生の言葉を。
13号先生のお小言を聞き終えた相澤先生が「それじゃあまずは…」と授業を始めるようとした。
その時。
「なに、あれ………」
『え?』
「っ、一かたまりになって動くな!!!!」
誰も居なかった演習場に突如現れた不気味な集団。「何だアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってるパターン?」と切島くんが呑気な声を発しているけれど、違う。あれは、そんなものじゃない。纏っているのは明らかな“殺気”だ。
背中に嫌な汗が流れる。私たちを庇うように相澤先生と13号先生が前へ。すかさずゴーグルを装着した相澤先生は、振り向く事無く私たちに向かって指示を出す。
「動くな、あれは…………敵(ヴィラン)だ!!!!」
それは、私たちにとって初めての、“敵(ヴィラン)”との遭遇となった。
***
「苗字!!大丈夫か!?」
『う、うん、平気……だけど………』
バッタバッタと倒されていくヴィランたち。相手もまさかこうもアッサリやられてしまうとは思いもしなかっただろう。
最後の一人を討ち取った爆豪くんが「弱えな」と呆れたように呟いた。
ヴィラン出現後、黒いモヤのような敵の力によって倒壊ゾーンへと移動させられた私は、爆豪くん、切島くんと共にヴィラン達に囲まれてしまった。個性を使って二人と逃げることも出来るだろうと、チラリと二人に視線を投げかければ、「てめえは邪魔になんねえようにしてろ!!」と怒鳴り声をあげた爆豪が次々と敵を薙ぎ倒していったのだ。それに続く形で切島くんも戦闘へ。子供相手に倒れていくヴィラン達に心の中で静かに合掌した。
『ご、ごめん…何も出来なくて…』
「いいって!こういうのは、俺らの個性のが向いてるし!されより、早く皆を助けに行こうぜ!俺らがここにいることからして、皆USJ内に居るだろうし!攻撃手段少ねえ奴等が心配だ!」
確かに、あの黒いモヤがワープの個性で私たちをここへと飛ばしたのだとして、おそらく他のみんなも散り散りにされているのは明確だろう。ここに飛ばされる前、黒いモヤに向かって飛び出したことを後悔している切島くんに、爆豪くんはキッと目をつりあげた。
「行きてえなら一人で行け。俺はあのワープゲートをぶっ殺す!!」
『「はあ!!?」』
切島くんと揃って声をあげれば、爆豪くんが忌々しそうに小さく舌打ちを打った。
爆豪くん曰く、あの黒いモヤの奴が敵の出入り口となっているのだから、逃げられないように先に倒しておくべきだとの事。その意見も間違えではないけれど、他のみんなを放っておいても果たしていいのだろうか。
その時、爆豪の背後で何かが動いた、あっ、と気づいて声をあげようとしたのもつかの間。振り返ることなく左手を後ろへ翳した爆豪くんは「つーか…」と声を発しながら、背後から迫ってきたヴィランを掴み爆破される。なんて反応速度だ。
「生徒に充てられたのがこんな三下なら、大概大丈夫だろ」
『あ……それって……』
つまり、彼は自分のクラスメイト達がやられる訳ないと信じているということ?
意外な物言いに切島くんと目を合わせる。「そんな冷静な感じだっけ?」と驚く切島くんに、くわっと歯を向いた爆豪くんが「俺はいつでも冷静だ!クソ髪やろう!!」と声を荒らげた。あ、いつもの彼だ。
『でも、ワープゲートの元に向かうにしても、移動するなら他の敵に見つかる可能性がある。動くなら慎重に…』
「んな悠長なこと言ってる間に逃げられたらどうすんだ!!」
『大丈夫。逃げる“時間”を与えなければいいんでしょ?』
「あ?」と眉間に皺を寄せる爆豪くんに小さく笑んでみせる。言葉の意味を理解した切島くんが、「そうか!苗字の個性なら!」と声を張り上げた。
私は、ヒーローが嫌いだ。でも、それ以上に、
『爆豪くん達が敵をやるって言うなら、そこまで行くのに手を貸すくらいはするよ』
当然のように人を傷つけるヴィランが大っ嫌いだ。
MY HERO 7