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- ナノ -
「私は、ナミ」

「サンジです」

「ウソップだ」

「俺は、チョッパーだ!」

「ニコ・ロビンよ」

「……ゾロだ」


ナミさん、サンジさん、ウソップさん、チョッパーさん、ロビンさん、ゾロさん、そしてルフィさん。この海賊団の船員はこの7人らしい。
「苗字、名前です」返した私に、「変な名前だなー」と零したルフィさんは、ナミさんとサンジさんのチョップとかかと落としを食らっていて、慌てる私に「気にしなくていいのよ」ロビンさんはとても綺麗に微笑んだ。


「それで、名前はどうしてアイツらに捕まってたんだ?」

『あ……えっと……どこかに売り飛ばすって言ってたので…それが目的、でしょうか……』

「やっぱり人攫いか。くそっ、こんなか弱いレディに手え出すなんて許せねえぜ」


「船沈めてやったんだからもういいだろ」「それでも怒りが治まらねえんだ」というやり取りに、船?沈める?と首を傾げていると、「それで?」と話を戻すようにナミさんが形のいい唇をゆっくりと開く。


「これから、どうする?残念だけど、私たちも旅があるから、あんたの居た島まで送ることは難しいのよね」

『あ………』


ナミさんの言葉に、声が詰まる。
これから、どうするか。元々はエースさんの提案で海軍の常駐所にいく予定だったけれど、サボさんと出会ったことによって、“ここ”が私のいた世界ですらないのだと気付かされたのだ。一緒に来ないかと言ってくれたサボさんの居た島にはおそらく戻れない。そもそも戻り方も分からない。ということは、サボさん達と行くという選択肢はそもそも消えることになる。

そうなると、残された選択肢はひとつだ。


『…あの、助けてもらった上に図々しいとは思うんですが…』

「なに?」

『海軍の、常駐所がある島まで、乗せていっては頂けないでしょうか…?』

「海軍???」


「なんでまた?」と片眉を上げて毛幻想ち尋ねてくるウソップさんに、やっぱりなあと内心苦笑いを浮かべてしまう。
エースさんが海軍のところまで行けないと言っていたように、海賊にとって、海軍は敵なのだろう。けれど、“保護”をして貰える、というエースさんの言葉から考えれば、おそらく海軍は私の世界での警察のようなものだろう。
どうせ元の世界に戻る方法は分からないのだ。ならば、先ずは安全な場所に保護してもらうのが先決だろう。

ウソップさんの問いに応えようとした時、サボさんの言葉が頭をよぎる。そうだ。確か、“異界の巫女”だとか、“別の世界から来た”だとかは、あまり話さない方がいいのだった。


『…あの、私、元々国に帰る方法を探していて…』

「?元々?攫われる前からってこと?」

『はい。えっと…目が覚めたら全く知らない場所にいて…その時運良く助けてくれた人が、海軍に保護してもらったらいいと助言してくれて、海軍の常駐所に向かっていたんですが…その途中で、その…攫われて…』

「おいおい、それってつまり、二重に攫われたってことか!?」

『……多分……』


二重に攫われたというわけではないけれど、ここは話に乗らせて貰おう。ほんの少しの罪悪感を感じながら頷き返せば、「それで帰り方が分からなくなったのね」とロビンさんに言われ、もう一度頷く。「あんた、不運ね…」ととっても不憫そうな顔がナミさん向けてくるものだから、苦笑いを浮かべてから、ゆっくりと視線をルフィさんへ。


『あの、だから、ルフィさん、もしよければ、海軍の所まで、乗せていって頂けませんか…?』

「おう、いいぞ」

『へ……』


もしかしたら断られるかもしれない。そんな私の考えを呆気なく崩してくれたルフィさん。とっても気楽に返事をしてくれているけれど、いいのだろうか。一応船長である彼からの許可を貰えたものの、他の人はどうだろうかと伺うように顔を見れば、「じゃあジャヤまでよろしくな!」「美女が増えたぜ!ふううううううううう!」「一緒に釣りしよう!釣り!」と笑いかけてくれるものだから、心配があっという間に消え去っていく。なんというか、とても、本当にとても、


『……あったかい、船、ですね…』


ボソリと呟いた言葉に、騒いでいた声が一瞬止まる。すると、ふっと笑みを浮かべたナミさんが「馬鹿しかいなくて気が楽でしょ」と楽しそうに笑った。



***



『これは?』

「んー?ああ、それは…」


日差しがとても気持ちいい。なんとも陽気なポカポカ天気だ。

海軍の所まで船に乗せてもらう事が決まると、すぐさま「釣りだ!」とルフィさんに手を引かれ、甲板へ。「てめえ!ルフィ!名前ちゃんは怪我人なんだぞ!!」というサンジさんの声がきこえていないのか、それとも聞いていないのか、口笛を拭きながら船の縁へと座ったルフィさんに「ほら、名前も来いよ!」と隣を叩かれる。
さすがに、そこに座る勇気は私にはない。
「こっちで見ててもいいですか?」という声に、えーと不満そうな声を上げたルフィさんだったけれど、追いかけるようにやって来たウソップさんとチョッパーさんが参加することでなんとか納得してくれたらしい。

見たことも無い色いとりどりの魚たち。「これ、食べられるの?」と尋ねた私に、「魚くったことねえのかよ?」とウソップさんが魚の説明をしてくれる。魚は食べたことあるけれど、こんな魚を見るのは初めてだと言うと、「ふーん、じゃあ今日はこれをサンジに料理して貰おうぜ」とルフィさんが笑った。


『…いつも、釣りをしたりしてるんですか?』

「ん?まあ、釣りもするけど…あ!もちろん冒険だってしてきたぜ!巨人のいる島に冬の島!砂漠の国に、そして今度は空島だ!」

『きょ、きょじん?さばくのくに……そら、じま、』


えっへんと声高々にこれまで行ってきたのであろう島について話してくれるウソップさん。そう言えば、空島は、エースさんも口にしていた名前だ。と思い返しながら、「それってどんな島だったんですか?」と更に尋ねると、きらりと目を光らせたウソップさんがそれはそれはとても楽しそうに、そして誇らしそうた冒険の思い出を話してくれる。

大きな、とても大きなクジラに出会ったこと。
ドリーさんとブロギーさんという巨人と出会ったこと。
そして、雪に覆われた冬の島で、桜が咲き、そこでチョッパーさんと出会ったこと。
一国の王女様を乗せ、そんな彼女の愛する砂漠国を救ったこと。そして、そんな彼女との、涙ながらの別れがあったこと。

時折チョッパーさんやルフィさんも説明しようと口を開くのだけれど、どうやら2人はそういうことがあまり得意ではないらしく。ラブーンがどうとか、ドクトリーヌがどうとか、ビビがどうだと、何が言いたいのかあまりよく分からない。けれど、3人の目はどれもとても輝いていて、伝わってくる熱から、彼らが行ってきた冒険がどれだけ素敵なもののかよく分かる。

日本いたら、きっとこうして聞くことすらないであろう冒険ストーリー。19にもなって、何に目を輝かせているのかと笑われるかもしれないが、ウソップさんの口から聞かされる話はとても面白いのだから仕方ない。「すごいだろ?」と歯を見せて笑う3人に迷うことなく頷き返すと、「次は空島だ!」「楽しみだなー!」と3人が揃って空を見上げる。


『…3人とも、すごく素敵な冒険をしてきたんだね』

「おう!そりゃもちろん!」

『次は空島ってことは…空に、行くの?』

「そうだ!!空島ってことはきっと、空にあるんだぜ!!」

『そっかあ…空の上から……素敵な場所だといいですね』

「しし!おう!!」


次の冒険に目を輝かせる3人の姿はとても微笑ましい。正確な歳は分からないけれど、もしかしたらこの3人は年下なのかもしれない。というか、そもそもチョッパーさんに至っては、歳下うんぬんの前になんという生き物なのだろうか。彼はトナカイだと言っていたけれど。
ふと疑問に感じ、「チョッパーさん、」と声を掛けると、船縁から降りたチョッパーさんが「なんだ?」と首を傾げてくる。「チョッパーさんって、その、トナカイ、なんですよね?」と尋ねると、一瞬小さく目を見開いたチョッパーさんは少し間を開けて頷いた。


「…おう…トナカイ、だけど……やっぱ、怖いか?」

『え……?』

「だって俺、トナカイなのに二本足で立ってるし、喋れるし、……青っ鼻だし……」


だんだんと小さくなるチョッパーさんの声。
怖い。彼が、怖い?数回瞬きを繰り返してから、少し俯くチョッパーさんと目を合わせるように膝をつく。キョトンとした顔で見つめ返す姿はどう見ても可愛らしい。けれど、彼のこの姿はきっと、“この世界”においても異質なものなのだろう。


『…正直に言うと、最初にチョッパーさんが話すのを見た時、すごく驚きました』

「っ…」

『私の国には、喋ったり、二本足で歩くトナカイもいなかったから。でも、』

「でも…?」

『…こうして目を合わせて、お喋りして、釣りをしてるチョッパーさんを見てたら、“怖い”なんて思えないし、それに、…チョッパーさんが手当してくれたんですよね…?それなら、そんな命の恩人を怖がったりしませんよ』


「むしろ、感謝の気持ちでいっぱいです」と笑ってみせると、ぐすっと1度鼻を啜ってみせたチョッパーさんが胸に飛び込んでくる。わ、フワフワだ。柔らかい毛並みを優しく撫でていると、そんな私たちを見ていたウソップさんとルフィさんが目を合わせて笑う。


「よかったな、チョッパー、」

「さすがはうちの名医だぜ!」

「め、名医なんて言われても嬉しくねえぞ!このやろがー!」

『…すごく嬉しそうだね…』


ウソップさんの言葉に体をくねらせて喜びを露わにするチョッパーさん。声と動きが全くあっていないけれど、照れ隠しということなのだろうか。可愛らしいその様子に小さく笑ってから、「チョッパーさんがこの船の船医なんですよね?」と尋ねれば、「おお、そうだぜ!」と思い出したようにウソップさんが声を上げる。


「チョッパーが船医、俺が狙撃手!サンジがコックで、ナミが航海士、ロビンが考古学者で、ゾロが剣士、んでルフィが船長だ」

『…すごい…ちゃんと役割があるんですね…』

「おうよ!俺はこの狙撃の腕でいつか必ず!本物の勇敢なる海の戦士になってやるぜ!」

「俺は、海賊王になる!!!」

「お、おれ、おれは!どんな病気も治せる、万能薬になるんだ!!」


海の戦士。海賊王。万能薬。聞きなれない響きの言葉だけれど、おそらくそれは皆が海賊として冒険をしている本当の理由でもあるのだろう。「それが、皆の夢ってこと?」と尋ねた私に、3人が3人とも、満面の笑みで大きく頷く。

夢。夢だなんて、私にあっただろうか。
小さな頃はなんとかになりたいなんて言っていた気がするけれど、今となっては“夢”と呼ぶことが出来るほど素敵なものを持とうと思ったことすらない。

わーわーとそれぞれの夢について話す姿はとても眩しい。そっと目尻を下げて微笑んでみせると、騒いでいた3人が不思議そうに首を傾げる。


『その素敵な夢……叶うと、いいですね』


本当に。心からそう思う。
ふわりと笑ってそう言った私に目を見開いた3人の頬がほんのりと染まる。「真正面からそんな風に言われると、なんか小っ恥ずかしいな」と頬をかいて笑ったウソップさんと、うへへと照れくさそうに口元を隠すチョッパーさん。そして、麦わら帽子を抑えてにっと歯を見せて笑ったルフィさん。

そんな3人の姿はやっぱり眩しくて、そっと目を細めたのだった。
プロローグ 7

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