夢小説 完結 | ナノ
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little mermaid


あれ?私はどうなったんだっけ?
…そうだ。確か私は、皆と不思議な場所にいたんだ。

閉じていた瞼をゆっくりと開くと、そこにあったのは一面の青の世界。


『(!!)』


ブクブクと聞こえた気がした。
ここって…もしかして海の中!!??
ハッとして、慌てて海面へ出ようとしたけれど…あれ?苦しくない。
それになんだか足が変だ。
ふと、自分の足へと目をやると


『(!!!!お、おおおおおおお尾ひれ!!??)』


ヒラヒラと揺れる綺麗な尾ひれに目が飛び出てしまいそうだ。
口をパクパクとしてから、とにかく落ち着こうと大きく深呼吸をする。
夢、だろうか。
恐る恐る自分の足であったはずの尾ひれを動かしてみると、案外簡単に動いた。
…なんだか、人魚みたいだ。これって泳げるのかな?
夢だとしたら、少しは楽しんでもいいかな。

ちょっとだけ高鳴る胸。
ゆっくりと尾ひれを揺らして、手も動かしてみると、オリンピック選手もビックリするくらい簡単に水の中を泳げてしまった。
なんだろう、これ。凄く楽しい!!

上へ上へと泳いでいくと、ほんの少しだけ海の色が変わった。
あれ?これってもしかして海面に着いたのかな。
そのまま泳いで行くと、思った通り海から出てしまった。
そういえば、人魚って海の中でも外でも呼吸が出来ちゃうんだっけ?
なんだか久しぶりに感じる外の世界の空気。
けど、残念なことにお日様は見れないみたい。
天気は嵐だ。
曇った空から視線をおろすと、少し先に大きな船がいる。
大きいなぁとそれを眺めていると、ボチャンと嫌な音がした。
ちょっと待って…今…。


『(落ちた!?)』


そう、今船の上から誰かが落ちてしまったのだ。
どうしよう…!!
叫んで知らせたほうがいいのだろうか。
けど、私は声が出ないし…。


『(…助けよう…!!)』


そうだ。私が助けよう。
例え夢だとしても、誰かを見殺しにしたりできない!
バッと海に潜って、目測でさっきの落ちた人の元へと向かう。
大丈夫、助けられる!
とにかく、泳いで泳いで泳ぎ続けると、視界にようやく人の影をとらえた。


『(っ!?あれって…)』


その人物に近づいていくと、ぼやけていたシルエットがしっかり見えてきた。
青の中でも捕らえられるハニーブラウン。
あれは、


『(宮地さん!?)』


どうして彼がいるのか分からない。
でも、今はそんな事に構っていられない。
宮地さんの脇に手を差し込んで、上へ上へと泳ぐ。
水の中だと、軽くなるので助かった。


『(死なないでくださいっ!!)』


宮地さんの服を掴む手に力が入る。
夢でもなんでも、もぅ私の…大切な人が死ぬのは嫌!!


やっと海面が見えてきて、顔を出せば岩場が近くに見えた。
あそこに運ぼう。
とにかく必死で宮地さんを岩場に運んで、岩に寄りかからせるように宮地さんを置いた。
それからすぐに彼の左胸に耳を当てた。
良かった。ちゃんと動いてる。

ホッと胸を撫で下ろしていると、「う…」と宮地さんが声を出した。


「っ…、ここ…は…?」

『(宮地さん!!良かった!!)』


笑顔を浮かべて宮地さんの視界へ入ると、「苗字…?」宮地さんがほんの少し目を見開いた。
かと思えば、その視線が少し下がって宮地さんの顔が真っ赤になって反らされた。


「おまっ!!な、なんで、んな格好!!」

『(格好?)』


キョトンとして自分の体を見てみると…なんで今まで気づかなかったのだろうか。
下はともかくとして、上は貝殻の胸当てだけだった。


『っ!!!!!』


慌てて腕で体を隠すと、宮地さんの反らされた視線がチラリとこちらを向いた。
すると、また大きく目が見開かれた。


「お前…その足…!」


宮地さんの反応に自分の足、尾ひれをみる。
そういえば、私は人魚?になっているんだった。
えへへと笑いながらヒラヒラとそれを揺らすと宮地さんが心配そうに眉を寄せた。


「…平気なのか?」


宮地さんの問いかけにコクコクと頷くと、ホッとしたように「それならいいが」と返された。

するとそこへ「宮地さーん!!」と聞いたことのある声が聞こえてきた。


「そういや…そうだ!確かアイツらも…!!」

『??』


アイツら、とは誰のことだろうか?
キョトンとしたまま宮地さんを見つめていると、岩場の影から見たことのある二人が現れた。


「なっ!?」

「わああああああ!!スッッッゲエエエエエエ!!苗字さん、それ人魚!?」


現れたのは伊月さんと葉山さんだった。
私を見るなり目を丸くした伊月さんとは違い、目をキラキラと輝かせる葉山さんに笑って、さっきしたように尾ひれをユラユラと揺らして見せると「うっは!!すっげー!!」と更に目を輝かせた。


「…に、人魚って…本当に…? というか、これって夢とかじゃ…」

「四人同時に同じ夢なんて見るかよ」

「じゃあ…」


はしゃぐ私と葉山さんとは違い、神妙な顔つきになる宮地さんと伊月さん。
どうしたものか、そんな風に二人がため息をついたとき葉山さんが至極楽しそうに声をあげた。


「なんかさ!苗字さん、人魚姫みたいだね!」

「「!!」」

『(人魚姫?私が?)』


なんだかあんまりピンとこないな。
そうですか?という意味を込めて首を傾げていると、「…そういえば…」と伊月さんが顎にてを当てた。


「…人魚姫でも海に落ちた王子を人魚が助けるんですよね?」

『(…それって…宮地さんが王子様ってことかな?)』


伊月さんの言葉に宮地さんを見ると、確かに白いタキシードのような格好にマントをつけている宮地さんは凄く王子様のようだ。


「…そういや…船の上でも王子やらなんやら言われたような…」

「ええ!?宮地さん王子様だったの!?」

「…ちょっとお前黙ってろ、沈めるぞ」


宮地さんと葉山さんのやり取りに苦笑いをしていると、伊月さんがハッとしたように顔をあげた。


「…もし、ここが人魚姫の世界だとしたら…」

「…っ!」


伊月さんの言葉に何かに気づいた宮地さんが私を見た。


「人魚姫は最後に、確か…」


“泡になって消える…”


伊月さんの言葉がやけに耳に響いた気がした。

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