夢小説 完結 | ナノ
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the protagonist


「落ち着いたかい?」


ふっと目を細めて笑う赤司くんにコクコクと頷いて返した。
なんだか彼らには頼ってばかりだ。
それなら良かったと頭を撫でてくれていた赤司くんが手を離すと「苗字さん」と今吉さんが話しかけてきた。


「ほんなら、ちょっとええか?」


前に見たときと変わらない笑顔を向けてくる彼に頷いたとき、はたとここにいる人達に気づいた。

ほとんど見たことある人で、病院に来てくれた人達は全員いる。
グルリと体を回転させながら回りの人達を見ていると、目があった人達に笑われてしまった。ちょっと恥ずかしい。


「名前ちゃん!!」

『(あ!さつきちゃん!!)』


ヒョッコリと現れたのはさつきちゃんでギューギューと抱き締められた。
少し苦しいけれど、心配してくれたのが凄く分かって答えるように彼女の桃色の髪を撫でると、少しだけ離れてくれた。


「…せっかく会えたのに…まさか、こんな危ない所に名前ちゃんも来ちゃうなんて…」

「…桃井さんの言う通りね…」


シュンと顔をうつ向かせたさつきちゃんの後ろに今度はリコさんが現れた。


「…でも大丈夫よ!一緒にここから帰りましょうね」

「…そうですね!頑張ろうね、名前ちゃん!」


ニッコリとした笑顔の二人に笑顔を返すと「…そろそろええか?」しまった、今吉さんに話がしたいと言われていたんだった。
慌てて頭を下げると、ケラケラと笑われながらポンポンと頭を撫でられた。


「…ほんで、自分がここで目を覚ます前に何しとったか聞いてもええ?」

『コクコク』


今吉さんの問いかけに答えようとしたとき、あっと口を開けてしまった。
そうだ、ボードがないんだ。
どうしようか、と慌てているとクスリとした小さな笑みと共に「はい」と何かを差し出された。


『(あ!!私の…)』

「タイガと探索をしていたら見つけたんだ。やっぱり苗字さんのだったんだね」


「良かった」と女の私よりも綺麗に笑う氷室さんにペコリとお辞儀をしてから、ボードを受けとると、そこにお礼の文字を書き始めた。


『〈ありがとうございました!〉』

「いや、お役にたてたなら何よりだよ、princess」


氷室さん、凄い発音がいい。
ちょっと驚いたけれどもニコニコしている彼に自分も笑顔を返してから、やっと今吉さんの質問の答えを書き始めた。


『〈昨日の夜は、高尾くんとlineをしていて…そのまま寝落ちしてしまいました〉』

「そうそうっ!苗字ちゃんの最後のline、寝惚けてたからかすんげぇ面白かったんだよなぁ」


「やっぱ寝落ちしてたんだな」ニヒヒと笑う高尾くんに少し恥ずかしくなって『〈ごめんなさい〉』と書いてみせると「いやいや、怒ってないんだぜ?」本日何度目かのよしよしを高尾くんから頂いた。


「ほんで、目が覚めたらここやった…っちゅーこっちゃな?」

『〈はい〉』

「俺らとほぼ同じやな。違うとこ言うたら、起きたとこが苗字さんだけ違ったっちゅーぐらいか」


何かを考えるように眉を寄せた今吉さん。
そうか、皆はここで目を覚ましたんだな。

ふと今度は皆ではなく、部屋の作りを見てみると随分と広い部屋で、テーブルや椅子、ソファーもあれば、奥の方にはキッチンも見えるしそこには冷蔵庫もある。
誰かが暮らせるくらい整っている内装に首を傾げていると、奥のテーブルに乗った白い箱が目にはいった。


『(…箱?)』

「ああ、実はあれの前にこんな紙が置いてあったんですよ」


私が箱を見ているのに気づいた黒子くんが「どうぞ」と一枚の紙を見せてくれた。


“1人一枚引いて下さい”


『(?引く?)』

「多分、くじのようなものだと思います」


なるほど、とうなずいてその箱を見ると、確かに手が入りそうなほどの穴がある。
そこに手を入れようとすると、「馬鹿!」とその手を捕まれてしまった。


「危ねぇもんが入ってたらどうすんだ!!」

『っ!!』


腕を掴んでくれたのは宮地さんで、〈ごめんなさい〉と書いてみせると、クシャリと頭を撫でられた。


「…けど、引いてみないことには始まらないわね…」

「…そうだな」


実渕さんの言葉に頷いた赤司くんは視線を白い箱へ向けて目を細めた。


「俺が引こう」

「ちょっと待て」


箱のなかに赤司くんが手を入れようとすると、笠松さんがそれを止めた。

「俺が引く」「…」「こんな事まで1年にやらせられるかよ」「…わかりました、お願いします」

どうやら話がまとまったのか、笠松さんが白い箱へとゆっくり手を伸ばした。
全員がその様子を見ていると、笠松さんは白い箱に入れた手をゆっくりと引き抜いた。


「…これは…」

「紙…っスね」


笠松さんの手にあるのは2つ折りにされた白い紙。
中には何か書いてあるのだろうか?
ジッとそれを見ていると、笠松さんが紙を開いた。


「…白紙?」


笠松さんの言葉通り、紙には何も書かれていなかった。
白紙だなんて、何か意味があるのかな?
首を傾げていると、次に赤司くんが白い箱へ手を入れた。


「…っ、これは…」

「?どうしたの?征ちゃん??」

「どうやら、仕組みは分からないが…これは1人一枚しか引くことはできないらしい」

「え?」

「今俺が二枚引こうとすると、どういう訳か、紙に静電気のようなものが走って紙が取れなくなってしまったんだ」


静電気?
キョトンとしていると、赤司くんは腕を箱から引き抜いた。
その手にはもちろん紙が一枚握られていた。


「中身は?」

「…白紙だ」


また白紙。
いったいどういう事なのだろう?
不思議そうに赤司くんの手の中にある紙を見つめていると、赤司くんが紙から視線をあげた。


「…とりあえず、全員引いてみよう」

「…ま、今できるのはそれくらいやしなぁ」


赤司くんの言葉で今吉さんが手を入れた。
それに続いて、ドンドン皆が紙を抜いていく。
すると、赤司くんと同じジャージの水色の髪の人が紙を抜いてそれを開いたとき、少しだけ目を見開いた。


「…reader…」

「なんやて?」


水色さんの紙にはどうやらreaderと書いてあったらしい。
「りーだーってなんスか?」「“読み手”だ」「読み手?」「ああ、」
黄瀬くんと森山さんのやり取りを聞きながら、自分も水色さんの紙を見つめた。
確かに、彼の紙には文字があった。

それを見た赤司くんは「とりあえず、全員引こうか」とまだ引いていない人たちを促した。
その言葉に従って、他の人達も引いていくと、小堀さんや諏訪さん、それに大坪さんと木村さんと岡村さんとあとリコさんがreaderを引いて、残りの人達は白紙だった。


「君が最後だ」


赤司くんの言葉に頷いて、白い箱に手を入れた。
中に残されていたのはたった一枚だけの紙だった。
どうやらきっちり人数分用意されていたらしい。

ゆっくりとそれを引き抜いて紙を広げると、中に文字が書いてあった。
けど、それはreaderじゃない。


“protagonist”


それが書かれていた文字だった。

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