unknown world
あれ?ここ、何処だろう?
ぼんやりとした視界にうつったの薄明かり。
私の部屋はこんなに暗くないんだけどな。
数回瞬きを繰り返すと、だんだん視界がクリアになっていった。
『(どこ?)』
床に直に寝ていたせいで、汚れてしまった制服を払いながら立ち上がって薄暗い部屋を見回してみる。
昨夜は高尾くんとラインをしながら寝落ちしてしまったのだけれど、ちゃんとベッドに入っていたし、服もパジャマだった。
おかしい、と思いながらキョロキョロと回りを見てみるけれどあるのは扉が1つ。それ以外は本当に何もないし誰もいない。
自分の置かれている状況がわかると、急に心臓が音をたて始めた。
『(落ち着け、落ち着け)』
ゆっくりと息をして、なんとか冷静になろうとしたときだった。
ポタリ ポタリ
ナニかが滴るような音が耳についた。
幸か不幸か、私は声が出ない。
ポタポタと何かを落とすものが扉の向こうに近づいてくるのが分かった。
見つかってはいけない、と部屋の隅に蹲って息を潜める。
『(はやくっはやく居なくなって…!)』
唇を噛みながら窓を見つめていると、ナニかがそこを通りすぎて行くのが分かる。
人、に見えなくはない。でも、人じゃない。
ギュッと目を瞑ってナニかが遠ざかるのを待っていると、滴る音が聞こえなくなっていった。
ふぅ、と息をはいて顔をあげると、今度はギシギシと床を鳴らす、足音が聞こえてきた。
再び遠ざかるのを待とうと蹲るの、ガラガラと引き戸が開く音。
これは、ヤバい。
顔を下げて耳を押さえて、どうか入って来ない事を願ってみるけれど、自分の前に影が落とされた。
『(っ、まだ…死にたく、ない)』
せっかく皆と仲良くなったのに、ここで終わってしまうなんて、嫌だ。
死にたくない、死にたくない。
気づけば頬を涙が伝った。
押さえる耳から微かに聞こえる声が怖くて、怖くて。
ガタガタと震えていると、ガシッと耳を押さえる手を捕まれた。
『(っ、いやっ!!)』
「落ち着けっ!!苗字!!」
自分の手を掴むものを振り払おうとすると、耳に届いたのは聞き覚えのあるしっかりとした声。
『(っ…か、笠松、さん…?)』
「大丈夫だ、ゆっくり息吐け」
落ち着かせてくれようと、優しく背中を擦ってくれる笠松さん。
「大丈夫だ。大丈夫だから」と何度も何度も繰り返す彼にプツリと何かが切れて、思わず抱きついてしまった。
笠松さんは女の子が苦手なのに。
引き離されるかもと思いながらも、ギュッと彼の首に腕を回して、声にならない声で泣いていると、一瞬固まっていた笠松さんはまた背中を擦ってくれた。
「…怖かった…よな。わりぃ…もっと早く来てやれば…」
申し訳なさそう笠松の声にハッとして首をふりながらも離れないでいると、「先輩?何かあったんスか?」先ほど笠松さんが入ってきた入り口から、今度は薄暗い中でも目立つ金色が見えた。
『(き、せ…くん?)』
「とりあえず、他の連中の所行くぞ」
笠松さんの言葉にコクコクと数回頷いて返すと、膝裏と背中に腕を回された。
そのままヒョイっと私を抱き上げた笠松さんに申し訳ないと思いながらも甘えてしまい、その首にギュッとしがみついた。
「?先輩、何抱えて…って…ええ!?名前っち!?」
「うるせぇぞ黄瀬」
「な、なんで名前っちが…?」驚きと不安が混じったような声を出す黄瀬くん。
そんな彼に答えようと、笠松さんの肩に埋めていた顔をあげると、黄瀬くんが私の顔を見てめを丸くした。
「な、泣いて…!笠松先輩何したんスか!?」
「誰が泣かすかアホ」
「じゃあ…なんで…」
「あのなぁ…こんな所に1人にされたら誰だって怖いに決まってるだろうが」
「しかもコイツは女なんだぞ?」笠松さんと言葉に眉を寄せた黄瀬くん。
二人に心配をかけていまっている。
慌ててゴシゴシと涙を拭って、大丈夫の意味を込めて笑ってみせると、どうしてか、今度は黄瀬くんが泣きそうな顔をした。
「っごめん名前っち…もっと早く助けにくれば…」
綺麗な顔を歪めてうつ向いてしまった黄瀬くんにソッと手を伸ばして、そのキラキラ光る髪を撫でると彼の顔がゆっくりとあがった。
『“あ、り、が、と、う”』
今は書くものがないので、ゆっくりとした口パクでそう言って見せると、黄瀬くんは目を見開いてからクシャリと笑った。良かった。
「ほら、行くぞ」と私たちのやり取りを見ていた笠松さんは一言行って歩きだし、それに元気よく返した黄瀬くんも足を動かした。
「先輩、名前っち抱っこするの代わりましょうか?」「あ?大丈夫だっつーの。コイツ軽いしな」「でも、名前っち女の子ッスよ?抱っこしてられるんスか?」「なっ!ば、馬鹿!!で、ででででできるに決まってんだろ!!」
真っ赤になった笠松さんに小さく笑っていると、ピタリと笠松さんの足が止まった。
あれ?と思ったのは私だけでなく黄瀬くんもらしく、「先輩?」と首を傾げて足を止めた。
「…誰か来てねぇか?」
「え?」
振り返った笠松さんにつられて黄瀬くんも顔を後ろに向けた。
「な…よ、あ…!!」
「ば…も…!?」
確かに途切れ途切れだけど、後ろから声が聞こえる。
誰だろうと暗闇を見ていると、そこから出てきたのは大きな2つの影。
あれは。
「火神っち?」
「それに氷室か?アイツ等も探索に出てたのか?」
「おーい!」と二人に手を振った黄瀬くん。
するとそれに気づいた氷室さんが凄い形相で声を張り上げた。
「走れっ!!」
「「!!」」
弾かれたように走り出した笠松さんと黄瀬くん。
「捕まっとけ!」笠松さんの言葉に小さく頷いて、青色のジャージを掴ませてもらうことに。
ソッと笠松さんの肩越しに後ろを見ると、火神くんたちの後ろに見えたナニか。
ぼんやりとしか見えないそれ。
でも確かに分かるのは、それが人では絶対ないこと。
サッと視線を外して、もう一度笠松のジャージに顔を埋めると笠松さんの腕に力がこもった気がした。
「こっちだっ!!」
今度は前方から聞こえた声。
その声の方へ向かった私たちは、薄暗い中には不自然な程明るいある部屋へ飛び込んだ。
「っ!…大丈夫か?」
飛び込んだ勢いで倒れてしまった笠松さんは私を抱き込んでくれていた。
心配してくれる彼に頷いて返すと「良かった」と笠松さんは笑ってくれた。
「いつまでそうしてるんスか!?」
「は?…うおっ!?す、すすすすすまん!」
黄瀬くんの言葉に顔を赤くした笠松さんはバッと私の体を離した起こさしてくれた。
ありがとうございます、と頭を下げると今度は後ろから誰かに抱き締められた。
「なんで名前ちんがいるの〜?」
『(紫原さん!)』
大きな腕を巻き付けてきていたのは紫原さんで、上を見上げるとポンポンと頭を撫でられた。
それに目を細めていると、「紫原、」次に聞こえてきたのは凛とした声。
「なに〜赤ちーん?」
「…彼女と話がしたいんだが」
やっぱり赤司くんだ。
「え〜」といいながら紫原くんが離れて行くと、目の前に綺麗な赤い色が飛び込んできた。
「苗字さん、」
『(赤司くん…)』
ソッと頬に添えられた手に自分の手を重ねる。
「…君に会えたのはとても嬉しいのに…まさか、こんな所とは…」
何処か悲しそうに笑う赤司くんに自分も眉を下げると、頬に添えられていた手が後頭部に回ってそのまま引き寄せられた。
「でも、無事で良かった」
彼の真っ白なジャージに押し付けられると、鼻の奥がツンとしてさっき止まったハズの涙が再び溢れてきたのだった。
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