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大学1年になりました35


辰也と別れて二階の観客席へ行く途中、丁度階段を上がり終えた所でアレックスさんが待っていた。


「…話せたか?」

『はい。…ありがとうございます、アレックスさん』

「私は礼を言われることなんて何にもないぞ」


ニッと歯を見せて笑うアレックスさん。ああ、綺麗だな。アレックスさんは、とても綺麗で優しい人だ。
クスクスと小さく笑って、「行くぞ」と歩きだした彼女の背中にもう一度と「ありがとうございます」と呟いた。









「信じてますから!黄瀬くん!!」


会場中に響いた凛とした声。彼がこんなに大きな声を出すなんて珍しい。観客席の方へ戻ってきて、点数表を確認すれば、海常は福田総合という学校に負けていた。悔しそうに下を向く黄瀬くんに、きゅっと胸を締め付けていると、そんな彼を励ますように響いたテツヤくんの声に、思わず顔が綻んだ。


「…あの7番、表情が変わったな」

『はい。…ここからが、黄瀬くんの…海常の見せ所だと思います』


アレックスさんの言葉に大きく頷いて、コートの中に立つ青いユニフォームの彼らを見つめていると、さっきまでとは打って変わった自信に満ちた表情の黄瀬くんが、ゆっくりとシュートモーションへ。
それだけなら別に驚くことは無い。黄瀬くんがシュートを撃とうとしているのが、ハーフラインを割った位置でなければ。
大きく大きく弧を描いたボールは、吸い込まれるようにゴールへ落ちていく。まるで彼が…緑間くんが撃つようなそのシュートに目を丸くしていると、黄瀬くんの力強い声が届いてきた。


「邪魔すんじゃねえよ!!」


強い気持ちの篭ったその声に、顔を歪ませる福田総合の選手達。ああ、これはもう。そこからの黄瀬くんのプレーで、怒涛の猛追をし、海常は見事に逆転して福田総合を降した。
よし!と内心ガッツポーズをしていると、チームメイトと勝利を喜んでいた幸くんがキョロキョロと観客席を見廻す。あ、もしかして。と思っていると、案の定と言うべきだろうか、バッチリ目が合った幸くんがこちらへ向かってガッツポーズ。それに、手を振って返せば、隣りで見ていたアレックスさんが困ったように首を竦めた。


「…ほんと、人気者だな、名前は」

『人気者だなんて…ただ、皆が優しいだけですよ』

「…そういう鈍感な所は、本当に変わらないな」


ポンポンと優しく頭を撫でるアレックスさんに首を傾げつつ、もう1度幸くんへ視線を移すと、こちらを見ていた幸くんの視線を追った森山くんと黄瀬くんも、両手をブンブンと降ってきた。黄瀬くんに犬の耳と尻尾が見えるのは気のせいだろうか。
ふふっ、と小さく笑いながら、そんな2人にも手を振っていると、「名前さん?」と背中に声をかけらた。あ、この声は。振り返って声の主を確認すると、ぱあっと表情を明るくさせた和成くんとそんな彼にため息をつく緑間くんの姿に、やっぱりとつい笑ってしまう。


「うわ!すげえ!!この中から名前さんに会えるとか俺すげえ!!…あれ?てか、その隣の金髪美女は…?」

『アレックスさんだよ。大我…火神くんの師匠なの』

「火神の??」


ポカンとしている2人に、「Nice to meet you」と流暢な英語とともにウインクをするアレックスさん。まあ、普通は驚くだろうなー。なんて呑気に2人を見つめていると、はっと我に返った和成くんは、次の瞬間「ブフォッ」と吹き出して笑い始めた。どうやら何かが彼のツボに入ったらしい。
「し、師匠…!金髪美女が、し、師匠…っ」「…笑いすぎなのだよ」「だって真ちゃん!あの火神の師匠が…!っプッ…くく…金髪の、美女って…!」
ひぃひぃと目尻に涙を浮かべて笑い続ける和成くん。さすがに苦しそうだ。「大丈夫?」とその背中を摩ると、こくこく頷いた和成くんは漸く息を落ち着かせた。


「っあー!笑ったわー!」

「そんなにおかしいのか?私がタイガの師匠だと」

「いや、まあその…火神みたいなデカイ男の師匠っつったら、もっとゴツイ野郎を想像するんで、そのギャップが面白いというかなんというか。けど、普通に羨ましいっすね。こんな美女に教えて貰えるなんて」


「俺も御教授願いてえなー」と冗談なのか本気なのかよく分からない申し出をする和成くんに、「有料ならいいぞ」と笑うアレックスさん。会ったばかりとは思えない軽快なやり取りに、笑っていると、ふと緑間くんの視線がフロアの方へ向いている事に気づく。


『緑間くん?どうしたの?』

「…いえ…その…視線が、」

『?視線?』


緑間くんの言葉に彼の目線の先を見ると、先ほどまでにこやかに手を振っていた幸くんと黄瀬くんが物凄い顔でこちらを睨んでいる事に気づいた。え、何かしてしまっただろうか。凄く怒っている。
眉を下げて2人に首を傾げていると、アレックスさんと談笑していた和成くんが横からひょいっと顔を出して、コートを見つめた。


「あー…あれは、名前さんに怒ってこっち見てるんじゃないと思いますよ」

『え?そう…なの?』

「そうそう。多分あれは、俺とあとついでに真ちゃんへの“牽制”かなー」


和成くんと緑間くんへの牽制?ああ、これから秀徳と海常はあたるかもしれないもんね。なるほど、そういうことか。納得して、とりあえずもう1度幸くん達へ手を振ると、複雑そうな顔をしながらも、2人は再び手を振ってくれた。


『…次、赤司くんのいる洛山となんだよね?』

「…はい」

『…月並みな台詞だけど…頑張ってね、2人とも』

「…名前さんが応援してくれるなら、何が何でも勝たなきゃなんないっすね」


そう笑って返してくれたけれど、和成くんの笑顔は何処かぎこちないように見えた。

その後、電話で呼び出しを受けた2人は急いでその場を後にしてしまった。足早に歩いて行く2人の背中を見つめていると、アレックスさんの手が優しく肩に乗せられた。

大丈夫。秀徳の皆なら、緑間くんなら、和成くんなら、そして、清志くんならきっと勝てる。そう信じたいのに、


“貴女の応援があろうとなかろうと、僕たちの勝利が変わるわけではありません”


随分と前に聞いた筈のその言葉が、やけに鮮明に頭を過ぎったのは何故だろうか。

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