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大学1年になりました18


side日向


「とりあえず、中断ね。名前さんは、うちで預かるわ」


様子を見に来た監督の言葉に全員が何処か不満そうにしながらも渋々川からあがった。もう夜になった。その上、苗字先輩が倒れちまった。このまま続ければ、俺たちも体調を崩すかもしれない。
「明日また、探しましょう」という監督の言葉に、その場は一旦解散となった。










「はずなんですけど…」


なんで、いるんすか?


1度家に帰って、懐中電灯を手にもう一度あの川へ行くと、まさに、“バッタリ”と言うところだろうか。戻った川には、今吉さんと宮地さん、笠松さんと黄瀬と高尾、それに伊月がいた。


「ま、考えることは同じっちゅーこっちゃ」

「日向にばかりいいカッコさせられないしな」

「いいカッコって…」


伊月の言葉に苦笑いを浮かべていると、「よし、やるか」早速笠松さんが川の中へ。その後を追って川に足を入れると、夕方来たときよりも温度が低くなっていた。これは、他の面子を帰して正解だったな。
袖を捲って川の中へ手を突っ込みながら、頭には先輩の泣き顔が思い浮かぶ。
そういや、俺たちがあの人と出会ったのも、なくなった指輪を探したのがきっかけだったか。

“っ…あり、がとう…!!ありがとうっ、本当に、ありがとう…!!”

あの時、見つかった指輪を抱き締めて泣く先輩の姿は、彼女がどれほど和也さんを愛していたのかを顕著にしている。
もし、このまま指輪が見つからなければ。彼女は、どうなるのだろうか。考えようとしてやめた。考えなくても、答えが良いものでないことくらい、分かっているからだ。
そしてそれは、今こうして集まっているこの人たちも同じだ。
「無いっすね…」「お!?これは…!!って石ころかよ!!」「川冷たいっスねー…は!?俺、水も滴るいい男を体言してる…!?」「「「黙れ」」」
くだらない会話をしながらも、手は動かし続け、笑おうとしている顔が引きつっているのが分かる。
指輪が見つかなければ、先輩は。
その言葉の先を想像してしまうからこそ、俺たちは、今、ここにいる。


「…うちの後輩…黒子の奴がよく言うんすよ」

「?日向??」

「まあ、聞けよ伊月。…黒子はよく、“僕は影だ”って言う。んで、火神のことを“光”だっていう。…多分、苗字先輩にとっての“光”は指輪をくれた相手だったんだろうな」


そして、今、彼女は、その光を失くしてしまった。
影は光がないと作り出すことはできない。苗字先輩を影だと言うつもりはないけれど、でも、“この世界”での、彼女にとっての“光”ができない限り、彼女の意思は、きっと、ここにない。
俺の知らない、“向こうの世界”にあり続けるのだろう。酷い話だ。こんなにもあの人を想っている奴らがいるというのに、彼女は、“ここ”ではない場所を望むのだから。
突拍子のない話に困惑している伊月。その横では高尾が悔しそうに顔を歪めていた。


「…今だけ、凄いムカつくな、日向」

「はあ!?なんだよそれ!?」

「お前だけ、名前さんのことを知った風で、凄いムカつく。いや、というより、羨ましいよ」


「俺には何も言ってくれないからな」と眉を下げて笑う伊月に、否定することはできない。頼られている自覚はある。でも、コイツにまで勘違いされては困る。


「知った風じゃなくて、知ってんだよ。だから、俺を頼ろうとする。もし、それを知ってたのが俺じゃなくてべつの誰かだったら、苗字先輩はソイツを頼っただろうな。つまり、たまたまだよ」

「…それは、違うだろ」


何が。そう問おうとしたとき、暗い川の中に突っ込んでいた指先に何かが当たった。また、石だろうか。それにしては形がおかしい。
親指と人差し指で摘んで引き出すと、月明かりを反射してキラリと光ったのは。


「たまたま、なんかじゃないさ」


微笑んだ伊月の視線の先。
キラキラと光る指輪に、「あったああああ!!!」と叫ぶと、バッと全員の視線がこちらに向いた。

“たまたまなんかじゃ、ない”

もし、伊月の言う通り、彼女が頼る先になったのも、指輪を見つけたのも、必然的に俺だったとしたら。
運命だのなんだの、そんなもの信じる質ではないけれど、でも、もし、本当にそうだったのだとしたら。


「…俺で良かったって、思えるくらいには支えますよ」


この場にはいないあの人に向けた声。
それが聞こえていたのか、伊月の顔が柔らかく綻んでいた。

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