夢小説 完結 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

高校3年になりました9


久しぶりに和也さんの夢を見た。
夢の中で和也さんは笑っていた。


“幸せに、なれよ”


そう笑った和也さん。
その体はドンドン薄くなっていく。

待って!

和也さんに伸ばした手は届くことなく、空を切っただけだったけれど、最後に見えた和也さんの笑顔はとても穏やかなものだった。










「そりゃあ、好きになった相手には幸せになって欲しいんじゃないんすか?」


体育館の都合でバスケ部が休みになった日に日向くんと会う約束をして、その話を日向くんにすると返ってきたのは当たり前の言葉だった。

「そうだよね」と笑って返すと不思議そうに眉を下げた日向くんはさっき頼んだハンバーガーにかぶりついた。
誠凛の近くにあるこのマジバは高校生の溜まり場だ。
回りには他の生徒たちもちらほら見える。


『…日向くんはさ、リコちゃん大好きだよね?』

「ブッ!!な、なんすかいきなり!」

『いや、その…さっきの言葉はリコちゃんに向けたものなのかなって』

「…まあ、そうっすけど…」


顔が赤いのを誤魔化すように飲み物を飲む日向くん。
なんだか可愛いな。

リコちゃんと木吉くんはまだ続いているらしい。
木吉くんのお見舞いに行くと、時折リコちゃんと鉢合わせすることがあるけれど、彼女はとても幸せそうだ。
あんな顔されたら、日向くんが何も言えなくなっても仕方ないのかもしれないな。

苦笑いを溢してから自分もカフェオレを口に含むと、ほんのりとした甘さが広がった。


『そういえば、夏合宿はどうだった?』

「死ぬかと思いましたよ」

『…リコちゃん、厳しいもんね』

「先輩は監督のとこでのバイト、どうなんすか?」

『ああ、楽しいよ?影虎さんとっても優しいし』


「…優しい…?」と奇怪そうに目を丸くする日向くん。
影虎さんはリコちゃん命だし、彼女に近づく男の子には容赦ないからなあ。

最近、リコちゃんに誘われて始めた影虎さんの所でのバイトは、喫茶店のバイトと平行してやっている。
コンビニや喫茶店とはまたちがうそれは結構楽しい。
そんな他愛のない話をしていると、ブーブーと自分の携帯が鳴った。
誰だろう?
日向くんに一言断ってから携帯に出ると、相手は清志くんだった。


『もしもし清志くん?どうしたの?』

〈あー…いや、その…今日部活が休みでさ、良かったら今から飯でも行けねぇかなって〉

『…ごめんね?今日は他の子と約束があって…』

〈…それって笠松とか?〉

『え?ちがうよ?幸くんは神奈川じゃない。今日会ってるのは清志くんより1つ下の子だよ』

〈…ふーん…〉


少しだけいつもより低い声で返ってきた返事。
せっかく誘ってもらえたのに断るなんて、清志くんを怒らせてしまっただろうか?
「ごめんね」ともう一度謝ると、「や、その、んな謝んなくていいって!」と慌てたように返ってきた。


〈その、別に名前に怒ってるわけじゃねぇし…〉

『ほんと?』

〈…おう〉

『ならいいんだけど…。何かあったら言ってね』

〈ああ。…じゃあ、また連絡するわ〉

『うん、またね』


そこで清志くんとの電話を切ると、今度はメールが受信された。
なんだか立て続けだなあ。
なんて思いながらメールを開くと相手は健介くんで、次の練習試合のスタメンに選ばれたらしい。
嬉しそうにガッツポーズする彼の姿が目に浮かんで、顔を綻ばしていると、日向くんが不思議そうに眉を寄せた。


「…あの、先輩って顔広いっすよね」

『え?…そうかな?確かに年下の知り合いは多いけど…』

「別に悪いことではないっすけど…。その中にはいないんすか?」

『何が?』

「先輩が、“本気”になれる“和也さん”以外の人」


ピクッと返信を打つ指がとまる。
何の気なしに聞いていたけど、そんな話をさせるなんて。
ゆっくりと顔をあげて日向くんを見ると、申し訳なさそうに眉を下げられた。


「…余計なお世話かもしれないっすけど、やっぱり俺は過去は過去だと思います。それが例え“ここ”の話じゃなくても」

『…うん、そうだね』

「忘れろなんて言いません。あんたにとって“市ノ瀬和也”がどんなに大切か、少しは分かってるつもりだ。けど…このままじゃダメっすよ」


日向くんは私に現実を突きつけるのが上手い。
いや、上手いとかそういうのじゃなくて、その件に関して、この子は私を甘やかさない。
打ち掛けのメール作成画面を見つめながら「そうだね」と返すと、日向くんが罰が悪そうに頬をかいた。


「…すみません。ホント余計なお世話っすよね」

『…ううん。本当のことだし、それに…“向こう”では皆気をつかって、誰も言ってくれなかったし』


「ありがとう」と笑って見せたけれど、日向くんはどこか満足できなそうな顔をしていた。


「…あの」

『うん?なに?』

「…いえ、なんでもありません」


日向くんの言いたいこと、本の少しだけ分かってしまった。
でも、それを聞き返す勇気はなかった。

まだ、和也さんが“一番”でいて欲しいんだ。

prev next