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高校2年になりました6


『わあ…やっぱり凄い…』


アメリカに来た私は、実はずっと見てみたいものがあった。
それは、本場のバスケットボールだ。
よく和也さんがNBAなるものの試合をテレビで見ていて、「いつか自分の目で見に行きたい」と言っていたのを思い出すと、いつの間にか辰也にお願いしてしまった。

本場のバスケが見てみたい、と。

最初は驚いた顔をした辰也も、徐々に嬉しそうな顔に変わり、それじゃあ、と辰也が以前言っていた、弟くんとの試合に連れてきてもらったのだ。


『わっ…』


目の前で決められた豪快なダンク。
けどそれを決めたのはなんと日本人の少年である。
多分、あの子が辰也の言っていた“弟”くんだと思う。
胸元に揺れるリングもあるし。
ワインレッドの髪色をした少年は、ゴールを決める度に嬉しそうに笑顔を作り、ガッツポーズをしていた。

その笑顔に、ほんの少しだけ、和也さんを思い出した。
彼も、無邪気に笑う人だったから。

ソッと指輪に触れながら試合の様子を見ていると、辰也が時折心配そうにこちらを気にしてきた。
それに大丈夫と、頑張れの意味を込めて笑顔を返すと、辰也はまるで愛しいものを見るように笑うのだ。

辰也は私を姉だと思いたくないと言っていた。
なのに、どうしてそんな顔で私を見るのか。
苦しくなる胸の痛みを隠すように、私は辰也の微笑みの意味から目をそらした。
私には、知る必要のないものなのだから。

結局試合は辰也のチームが勝利をおさめていた。
その勝利に大きく貢献した辰也は、チームメートに囲まれて嬉しそうに笑っている。
やっぱり、彼にもあんな笑顔が似合うな。
ちょっとだけホッとしながら、顔を綻ばせていると、大きな影が私を覆った。


「〜?」

『え?』


影を作ったのは、見たこともない大柄なアメリカの人。
まぁここはアメリカなわけだから、日本人なわけはないのかもしれない。
あまりに早すぎる英語が聞き取れずに、困惑していると、その人に腕を捕まれた。
ちょっと待って。これって危ない?


『っ、は、放して下さいっ』


焦って日本語でそう言うと、まるで嘲笑うように男はニヤニヤと笑みを浮かべた。
キッと睨んではみるものの、相手はまるで意に介していなく、そのまま引っ張られそうになる。
どうしよう、やっぱり辰也を呼ぼうか。
そう思って息を吸ったとき、「Hey!」と私と男の間に誰かが割って入ってきた。


『(あ、この子…)』

「 What is being done?」


目の前に立っている大きな背中の正体は、辰也の弟くんだった。

流暢な英語で男と会話する彼を、ほぅっと見つめていると、イライラとした様子で男が去っていった。
あ、助けてくれたのか。
お礼を言おうとしていると、「名前!!」と走り寄ってきた辰也に抱き締められた。


「っごめんよ!俺が気をつけていなかったから…」

『や、それは全然…来たいって言ったのは私なんだし…』

「名前…」


心配そうに見てくる辰也に苦笑いをする。
これでも一応年上なんだけどな。
抱き締められた状態で、辰也の弟くんを見ると、弟くんは驚いた顔をしていた。


『あの、ありがとう。助けてくれて』

「えっ、…いや、別に…辰也の知り合いだって聞いてたから…」


照れ臭そうにほんのり赤くなった頬を掻く弟くん。
うん、可愛い子だ。
ふふっと笑ってからもう一度お礼を言うと、辰也もようやく私を放してくれた。


「俺からも礼を言うよ。ありがとな、タイガ」

「だから、別にいいってっ」


タイガくんというのか。
辰也の言葉に更に顔を赤くさせたタイガくんに、思わず笑ってしまっていると、キョトンとした目で二人が見てきた。
ヤバい、二人とも可愛い。


『えっと…私は、苗字名前って言います』

「え、あ、ああ。俺は、火神大我だ」

「タイガは、前に俺が話した弟だよ」


辰也の言葉に内心、やっぱり。と思いながらも、「ああ、君が」と笑ってから手を差し出すと、大我くんは私と手を見比べてから、ゆっくりとその手を握ってくれた。


『よろしくね、大我くん』

「ああ、よろしく」


少しだけ柔らかい笑みを浮かべる大我くん。
どうやら、警戒心は消えたらしい。
良かった、と思いながら大我くんに笑いかけると、辰也によって手を離させられた。なんで。
チラリと辰也を見ると、別にいつもと変わりなくニッコリも微笑み返された。


「タイガ、名前はお前より3つも上なんだよ」

「えっ!!!」

『…どうせ年上には見えませんよー』


ちょっと意地悪で拗ねてみせると、

「タイガ、名前を傷つけたね?」「えっ、いや、そんなつもりじゃ…」「ほら、謝って」「う…と、す、すみません、です」

なんだろう。大我くん、凄い可愛い。
もう少し怒ったふりをしてもいいけれど、耐えきれずに辰也と二人で肩を揺らすと、大我くんはキョトンとしてよく分かっていなかった。
アメリカにも天使はいたのか。


『ふふ、ごめんごめん。怒ってないから気にしないでね』

「ほ、本当か!?…です」

『…その敬語はとっても可愛いんだけど、無理して使わなくていいよ』


「辰也も呼び捨てだし、敬語も使わないしね」と辰也を見ると、肩をすくめていた。
そんな私たちを見た大我くんも、それじゃあとおかしな敬語はやめるらしい。
でも、可愛かったから、ちょっと残念だ。


「大我も今から一緒に来るかい?」

「は?どっか行くのか?」

「名前を、アレックスにも紹介しようかなって」


“アレックス”
これは初めて聞く名前だ。
誰なんだろう、と二人の会話を聞いていると、大我くんが心底面倒そうに眉を寄せた。


「…それ、大丈夫かよ?」

「だからお前も連れて行くんだろ?」


ニッコリと有無を言わせない笑顔を見せた辰也に、大我くんは諦めたように息をはいてから「Ok」ととても発音よく返事をした。

それから、辰也と大我くんが荷物をまとめると、二人の間に挟まれて、その“アレックス”さんという人に会いに行くことになった。
途中、大我くんにどんな人なのか聞いたところ、
「…気を付けろよ。マジで」
とやけに真剣に言われたため、頷くことしか出来なかった。
どうしよう、ちょっと不安になってきた。









「アレーックス!!」


移動したのは、さっきとはまた違うストリートバスケット場だった。
そこに着くなり、大きな声でお目当ての人を呼ぶ辰也にちょっと驚いた。


「What?」

『っ!?』


辰也の声によって現れたのは、なんと金髪美女だった。
この人がアレックスさん?
気を付けろよ、なんて言うから、もっと怖そうな人を想像していたので拍子抜けしてしまう。
ホッと肩の力を抜いて、アレックスさんを見ると、辰也と話していたいた彼女と目があった。


『H,Hello』

「!!!What a cute girl!!」

『え?』


とりあえず挨拶をしたところ、凄い勢いでアレックスさんが近づいてきた。
すると、手を掴まれて顔を近付けられる。
こ、これもスキンシップなのだろうか。
されるがままになっていると、「「アレックス!」」と咎めるように声をあげた辰也と大我くんがアレックスさんを引き剥がした。


「何してんだよ!誰彼構わずそんなことすんなって言ってんだろ!!」

「失礼な!私がするのは女子供だけだ!!」


あ、アレックスさん日本語凄い上手。
ポカーンと大我くんとアレックスさんのやり取りを見ていると、辰也が苦笑いしてきた。


「アレックスはちょっとスキンシップが激しい所があってね。ごめんよ」

『あ、いや、それはいいんだけど…アレックスさんて日本語がペラペラだね』

「おう!大学で専攻してたからな!」


私の言葉に反応したアレックスさんはニッと笑って答えてくれた。
これは大変ありがたい。
いくら、それなりに喋れると言っても、やっぱり日本語での会話の方が助かる。


「アレクサンドラ=ガルシアだ」

『苗字名前です。よろしくお願いします』


頭を下げてみせると、アレックスさんの目が輝いた。


「名前は、ヤマトナデシコだな!!」

『え?…そ、それはどうでしょう…?』


なはは、と声をあげて笑うアレックスさん。
とても気のいい人だなぁ。
そんな彼女につられて笑っていると、辰也が嬉しそうに笑っているのに気づいた。


『?どうかした?』

「…いや、嬉しくね。アレックスなら名前を気に入ると思ってたよ」


「仲良くなれそうで何よりだ」と笑う辰也に、大我くんも笑っていた。
辰也の話を聞いていて少し心配だったけど、やっぱり、兄弟というだけあって仲がいい。
微笑ましくなって、そんな二人を見ていると、アレックスさんの手が肩にのせられた。


「名前はなんでアメリカに?」

『短期留学で来ました』

「なら、すぐに帰っちまうのか?」

『あと2週間は居ますよ』

「そうか…。それまで、辰也と大我と仲良くな」

『…はい』


日本に帰るまでの間、できる限りここでの生活を楽しもう。
ねぇ、和也さん。
あなたより先にアメリカに来てしまった私を、あなたは怒りますか?
もし、この世界にあなたがいるのなら…あなたもこの地を訪れているの?

ギュッと握りしめた指輪。
それは少しだけ冷たかった。


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