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高校2年になりました2


『短期留学…ですか?』

「そうそう。苗字は成績もいいし部活も入ってなかったよな?だからどうだろう、夏の間だけでも」


学校を終えて帰ろうとしているところを担任に呼び止められ、アメリカに短期留学をしないかと勧められた。

もちろん最初は断ることしか考えてなかった。
おじさんやおばさんに迷惑をかけるのは忍びない。
でもその時、ふと前の世界での会話を思い出した。


“アメリカ?”
“そう。いつか行こうな、二人で”
“行きたいの?アメリカに?”
“そりゃあバスケットの本場だしなぁ”


なんで今こんなこと思い出しているのだろう。

結局、断ることが出来なかった私は、申し込み用紙を受け取ってしまった。








「留学?」

『そっ』


「短期だけどね、」と眉を下げて笑ってから、拭き終えた皿を棚に直した。

あの日、担任に勧められた短期留学の話をおじさんとおばさんにした所、二人はちょっと驚いた顔をしてから笑った。
心配性な二人の事だから、てっきり断られるものだと思っていたので目を見開くと、二人は嬉しそうに笑って「名前ちゃんからそんなお願いしてくれるなんて、嬉しいわ」「行っておいで」と言ってくれた。
そんな風に言ってくれる二人にやっぱり行きません、なんて言うことは出来ず結局申し込み用紙を先生に提出したのだった。

そのため、留学をする1ヶ月間はバイトには出られないのでその話を翔一くんにすると、少し眉を下げられた。


「…大丈夫なん?」

『…私、翔一くんより一応年上だよね?』

「せやけど名前さん、目ぇ放すとすぐに消えてまいそうやし」

『なにソレ…って、あっ…』

「?どないしたん?」


翔一くんの冗談に笑ったところで、似たような事を黄瀬くんに言われたのを思い出した。
あれから部活が忙しいのか、コンビニには来ていない黄瀬くん。
虹村くんに用事もあるし、今度帝光中に行って様子を見ようかな。

「なんでもないよ」と翔一くんに笑って返すと、渋々納得して珈琲を飲んでくれた。


「ほんならしばらくは出れんの?」

『夏休みに入ってすぐに行くから…その1ヶ月はね』

「ふーん」


無表情だけれど、なんとなく分かる。
多分翔一くんは私が留学に行くのをあまり快く思ってない。

「もしかして寂しい?」「…」「あはは、ウソウs「寂しいで」…え」「名前さん居らんの寂しいわ」

…ちょっと待って
翔一くんいきなりデレてくれたんだけれど、どうしたのだろう。

嬉しくてクスクスと笑ってしまうと、その反応が気に入らないのか不満そうな声がした。


「…真面目に言っとるんやけど」

『ごめんごめん。…ふふ、嬉しいよ。そんな風に言ってくれて』


「ありがとう」とカウンター越しに頭を撫でると今度は大きくため息をつかれた。
なんだろう、地味に傷つく。

それから手を離してお土産は何がいいか、アメリカの名所はどこだとか話しているとチリンチリンと扉についている鈴がなった。


「こんにちは、名前ちゃん」

『お久しぶりです。百合さん』


入ってきたのはオーナーの奥様。
ニッコリと柔らかい笑顔をくれる百合さんに挨拶をした所、百合さんの視線が翔一くんへと移った。


「あら?もしかして名前ちゃんの恋人かしら?」

『いえいえ、違いますよ。彼は今吉翔一くんで、ここの常連さんなんです』

「どうも」


立ち上がってお辞儀をした翔一くんに百合さんもお辞儀を返した所で奥にいたオーナーが戻ってきた。


「おや?どうしたんだい?」

「忘れ物を届けに来たんですよ」


どうぞ、と百合さんはオーナーに懐中時計を渡した。

「ああ、やっぱり家に忘れたのか」「ふふ、はい。テーブルの上にありましたよ」「すまないね」「いいえ」「わざわざ来たんだ紅茶でも飲んで行きなさい」「それじゃあお言葉に甘えて」

相変わらず素敵な夫婦だなぁ。
なんだかこっちまで和んでしまう。
フフっと笑うと、ソレを不思議に思ったのか翔一くんが首を傾げた。


『なんかいいよね。理想の夫婦像だなぁ』

「ああ、そういう事ですの」

『翔一くんは彼女とかいないの?』

「…彼女が居ったら、練習が休みの日にここで珈琲飲んでるわけないやないですか」


それもそうか。
「翔一くんカッコいいのに、もったいないね」と眉を下げると翔一くんは再びため息をついた。
なんなんだろう、ホントに。


『ねぇ、なんでさっきからため息つくの?一回ため息つくとね、ティン◯ーベルが一人死んじゃうんだよ?』

「…ほんならワシは、ティ◯カーベルの大量殺人してはるわ」

『…ねぇ、真面目になんで?何か悩み事?』


ジッと翔一くんを見つめると、細い目が少しだけ開かれたかと思うと、またすぐに閉じられてしまった。


「…全然気づいてくれないんですもん」

『誰が?』

「好きな子が」


まさか翔一くんも恋愛で悩んでいるとは思わなかった。
内心驚きながらもそれを出さないように「そっか」と返すと本日三度目のため息をつかれた。


『なんで気づいてくれないんだろうね』

「多分、そういう対象に思ってないんやろ」

『えー?そうかな?』

「そうやろうなぁ。…あと…」

『?あと?』


ジッと何かを見つめる翔一くん。
「翔一くん?」と首を傾げると、スッと何処からか視線を外した翔一くんはなんでもないと首をふった。

彼の視線の先にあったのは指輪のようだったけれど、きっと気のせいだろう。
だって彼がこれを見つめる理由なんてないのだし。

ちょっとした疑問は残ったけれど、これ以上は追及してはいけないような気がした。
だから、話題を変えると翔一くんはまたいつもの彼に戻って話に乗ってくれたのだった。

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