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虹色


緩やかな風が吹いている。もうすぐ春だなあ。
風に靡く髪を耳にかけなおしていると、ちょうど体育館から赤い髪の男の子が出てきた。あ、あの人の名前なんだったかな。教えてもらったっけ?
うーん、と首を捻りつつ、「お疲れ様です」と声をかけると、ほんの少し目を丸くしたあと、「お疲れ様」と柔らかく微笑み返してくれた。あ、いい人。


『様子を見に来たんですけど…大丈夫ですか?床滑ったりしませんか?』

「大丈夫だよ」


笑って頷いてくれる彼に、良かったと胸を撫でおろすと、そういえばと言うように、赤髪くんが口を開いた。


「自己紹介、まだだったね。赤司征十郎、君と同い年だ。よろしく」

『よろしくお願いします』

「緑間と同じく、敬語はいらないよ」


あ、よく知ってるな。確か違う学校だった気がするけど、緑間くんと仲いいのだろうか。
「緑間くんと仲いいんだね」「中学が同じなんだよ」「へえ」
軽く会話をして、そろそろ合宿所の方へ戻ろうかなと思い始めたとき、「もしよければ、少し見ていかないかい?」と赤司くんに誘われた。
…まあ、急ぎで終わらせなければならない仕事はないし、ちょっとならいいかな。
「それじゃあちょっとだけ」と言って彼を見ると、まるで愛おしむように目を細めた赤司くんに、ちょっとだけドキッとしてしまった。

体育館の中へ入ると黒髪の美人さんと目が合った。不思議そうに私と赤司くんを交互に見た彼に、赤司くんが「見学だよ」とすかさず答える。それに納得した美人さんは、パイプ椅子を1つ出してそこに座る様に言ってくれた。優しい。紳士的だ。
ちなみにこの美人さんは実渕さんと言うらしい。
お礼を言いつつ実渕さんと他愛のない話をしていると、「名前!」と桃井さん、じゃなくて、さつきが駆け寄ってきた。


『あ、お疲れさつき』

「う、うん!あ、あの、どうしてここに…?」

『赤司くんに誘われて。少し見学してもいいかな?』

「も、もちろんだよ!!どんどん見ちゃっていいから!!」


いや、そんなに長いことは見れないけれど。
小さく苦笑いを零して「ありがとう」と笑うと、大きな桃色の瞳を嬉しそうに細めたさつきがぶんぶんと首をふった。
それから直ぐに笛が鳴り、実渕さんと赤司くんはコートの中へ。さつきは行かなくていいの?と尋ねた所、次は3on3、3対3のゲーム形式の練習らしく、さつきの仕事は今はあまりないらしい。
「なんでも答えるから、聞いてね!」と有り難いことを言ってくれた彼女に、時折質問をしながら練習を見ていると、2つあるコートのうち、片方に随分とカラフルな髪色が集まった。


『あ、赤司くんと緑間くんと、あと黄瀬くんがいる』

「…うん、そうだね…」

『うわ、あの人たち凄いね…。同じ人間とは思えないほど跳んでる…それに紫の人は背え高過ぎる…』

「…髪が、青いのが青峰大輝、紫色が紫原敦、それと、ちょっと見つけにくいけど、水色が黒子テツヤくん、皆同い年だよ」


どこか言いにくそうに教えてくれたさつき。
青峰くん、紫原くん、黒子くん。
覚えるために、何度か心の中で繰り返していると、青峰くんが凄い早さでゴールを決めた。彼に抜かれた黄瀬くんが悔しそうだ。
レベルの高過ぎる3対3に、目を奪われているとあっという間にタイマーが鳴り次のチームと交代される。コートから出たメンバーは、脇に置いてあるタオルを取ろうとしているのかこちらに向かってきて、その中の赤司くんは私たちの方へとやってきた。


「楽しんでもらえてるかな?」

『凄く!バスケって早いね。目が追いつかないよ』


特に、君たちの試合は。
凄いなあ、とタオルで汗を拭っている緑間くんたちの姿をチラリと見たとき、ふと先程教えてもらった彼らの名前が思い浮かぶ。

青峰くん、紫原くん、黒子くん、それに赤司くんと緑間くんと黄瀬くん。あ、そっか。


『黒子くん以外、名前と髪色がマッチしてるね』

「え……?」

『ふふ、凄いね。まるで、』


“虹みたいだ”


あ、まただ。またこの既視感、いや、この場合デジャブとか言うんだっけ。不思議な感覚だ。
ぼんやりしながらも、なんとなくさつきたちを見ると。


『っえ…?』


なんで、そんな顔しているの?
さつきだけじゃない。赤司くんも緑間くんも、黄瀬くんも、まだ話したことのない青峰くんも紫原くんも黒子くんも。なんで、そんな。

泣きそうな、顔するの。

苦しそうな寂しそうな顔をする彼らに呆気に取られて何も言えずにいると、どこか焦った様子の高尾くんが間に入ってきた。


「あ!あー…そうだ!苗字さん、そろそろ仕事戻らなくて平気!?」

『え…?あ…う、うん。そろそろ戻ろうかな…』


あからさまだけどこれに乗っかってここを出た方がいいだろう。チラリとカラフルな彼らを1度見て、出口へ向かうと、「あの、」控え目な声を背中に掛けられた。


『?はい?』

「…また、見に来て頂けますか?」


呼び止めたのは水色の髪の、どことなく影が薄らとしている黒子くんだった。どうしてこんなことを聞いてくるのだろうか。
ほんの少し驚きつつも「是非、」と頷くと、ホッとしたように微笑んだ黒子くんは小さく会釈をしてくれた。

ほんのりと温かくなった胸の奥の奥。
遠い昔に感じたことのあるようなこの感じは、一体何なのだろうか。

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