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HQ総合病院麻酔科医27


※短文注意



『いやー、結構飲んだねー』


飲み会の帰り道。「送る」と言ってくれて、隣を歩くのはもちろん花巻だ。人通りの少なくなってきた住宅街を2人で歩くと、「そうだなあ」と何処か上の空で答えた花巻に、少し眉根を寄せた。


『なに?酔ってんの?』

「は?まさか」

『じゃあどうしたの?なんか上の空じゃない?』

「あー…」


何やら口篭る花巻に、眉間の皺が更に深まる。何か隠してでもいるのだろうか。
ジロリと睨むように花巻を見ていると、人差し指で頬を掻いた花巻が重そうに口を開いた。


「赤葦のこと、どう思う?」

『は?赤葦?』


なんでここで赤葦?不思議に思いながら「デキル後輩」と答えると、深いため息をついた花巻が「そうじゃなくて」と首をふった。意味がわからない。


『赤葦は後輩だけだ、それ以外になんて言えばいいのよ?』

「…や、そーゆーんじゃなくて…あー…その…男として、って意味なんだケド」

『…あー…』


なるほど。そういう意味。だから、飲みの時の様子がおかしかったのか。
気まずそうに視線を逸らす花巻に小さく笑うと、「真面目に答えろよ」唇を尖らされた。


『赤葦とは何もないよ。言ったでしょ?花巻は“特別”だって』

「それはそうだけどサ」

『なに?まだ何かあるの?』


若利といい赤葦といい、花巻の悩みの種はそんなに多いのか。苦笑いを浮かべながら首を傾げると、突然立ち止まった花巻に、慌てて自分も足を止めた。
「花巻?」と高い位置にある顔を覗き込むと、困ったように微笑んだ花巻がゆっくりとその薄い唇を開いた。


「名前のこと、信じてないわけじゃねえよ?でもさ、口約束だけじゃ拭いきれないもんもあんだよネ」

「…仕事、辞めろとか言わないよ。だからさ、」


「俺んとこに、腰落ち着かせる気ない?」


それは、つまり。言い終えたと同時に塞がれた唇。押し付けるのではなく、優しく触れるようなキスは、まるで花巻の気持ちのようだった。
ゆっくりと離れて行く花巻を見上げると、さっきと変わらず眉を下げて笑う顔に胸がきゅっと締め付けられた。


「考えてみてよ」


頬を撫でる手が優しい。花巻に優しくされると、時々無性に泣きたくなる。
喉に詰まって出てこない返事の代わりに、1つ頷いてみせると、ほっとしたように笑った花巻が「帰ろっか」と手を繋いでくれた。

2人で並ぶ帰り道。言葉のない帰路はやけに長くて、離さないように繋いだはずの手が、消えてしまいそうで怖くなった。

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