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HQ総合病院麻酔科医22


大学病院でのオペ当日。
手術室に入る際若利が何気なく「緊張しているか?」と聞いてきた。そんな女じゃないことくらいしってるくせに。「まさか」と不敵に笑ってみせると、同じく満足そうにふっと笑んだ若利は、手術室の中へ。その後ろに続くように私も中へ入ると、上から見下ろす見学者の数に思わず笑ってしまう。
さて、大学病院様の先生方に目にもの見せてやりますか。





*****





「「「『かんぱーい!』」」」


カンっとグラスで音をたてる。
美味しそうに泡を作る生ビールを1口飲むと、渇いた喉が潤される。うん、美味しい。仕事終わりの一杯だからなおさらだ。
「あー、うま」なんて言いながら、ほぼ空になろうとしているグラスをテーブルへ置くと、「お姉さーん。コイツにもう一杯ビール持ってきてー」天童が店員さんに声をかけた。気が効くな。


「相変わらずですね、苗字さん」

『まあねー。惚れ惚れするような腕でしょ?』

「自分で言いますか」


冷たく返す白布にケラケラ笑って手を伸ばすと、サラサラの髪を撫でた。む、コイツなんでこんなに髪艶あるわけ?女子かよ。
少しイラついたのでワシャワシャと乱暴に撫でれば「ちょ、なんですか!」と手を払われてしまった。残念。


「にしてもさ〜名前の手術見てた連中の顔の面白いことよ」

『ああ、あれは傑作だった。笑うの我慢して顔引き攣っちゃったよ』


「ざまあって感じだけどねー」とニヤニヤ笑いながら、残りのビールを煽れば、タイミングよく2杯目が届いた。
空になったグラスを渡すと、「ありがとうございます」と店員さんが笑ってくれた。いい店員さんだなあ。なんだか今日は気分がいい。
緩む口元をそのままにつまみに頼んだ枝豆を食べていると、「若利も来れたら良かったんだがな」と大平が苦笑いを零した。


『お偉いさん方との食事でしょ?仕方ないよねー』

「まあそれはそうだが…久々に苗字と飲みたかっただろうな。アイツ、苗字のことは特に気に入っているし」


大平の言葉に、手術後の若利の顔が思い浮かんだ。

“お前に頼んで良かった”

若利にしては随分と柔らかい表情をしていたものだから、面食らってしまい誤魔化すようにその背中を叩いてしまったのは許して欲しい。
「及川も気に入られてるけどね」「ああ、確かに」「牛島さん、あの人好きですよね」「え、うそ。そうなの?」
白布の言葉にわざと大袈裟に反応すると、「そういう意味じゃないです」と冷えた視線をもらった。白布が可愛くなくなっていく。「冗談だよ」と笑うと、向かい側から天童がニヤニヤと愉しそうに見てきた。


「実際さー、どうなわけ?」

『は?』

「だからー、若利くんと、なんかないの?」


お前もかよ天童。
わざとらしく大きなため息をついて、ジト目で睨み返すと、それでも懲りないゲスモンスターは「どうなの?」ともう一度尋ねてきた。スゲエ、うざい。


『何もないよ。若利とはそんなんじゃない』

「えー?ホントに?」

『…あんた達はどうして、人の友情を茶化そうとするわけ?』

「だってさー、名前はなんとも思ってなくても…若利くんは、分かんないデショ?」


まるで確信をつくような言い方をする天童。
まあ、言いたいことは分からなくもない。こんなふうに私と若利の中を疑われてきたのは、もはや数え切れないほどある。でも。


『ないよ』

「えー?」

『…仮に、もし、万が一、若利が私をそういう風に見ていたとしても、』

「…どれだけ仮定にしたいんですか…」

『私は、若利のことは好きにはならない』


ハッキリとそう断言してみせれば、つまらないというように唇を尖らせた天童が枝豆をつまみ上げた。
パクパクと枝豆を口の中に放り込んだ天童を横目に、話題を逸らそうと思考を巡らせると、ふと1人の顔が浮かんできた。


『…ねえ、そういえばさ、あの子…えーっと……ほら、術前カンファレンスにいた…前髪が超オンザ眉毛の…』

「ん?ああ、五色かい?」

『多分その子。大平でも天童でも白布でもいいから、あの子に私の連絡先教えといてくんない?」

「「は」」

『?なによ?』


あんぐりと口を開ける天童と白布。
二人の反応が意味が分からず眉根を寄せると、意外そうな顔をした大平が「教えていいのか?」と目を丸くさせた。え、なに。教えちゃダメなの?


「…苗字さん、あんなのがいいんすか?」

『はあ?』

「道理で若利くんに目が行かないわけだ。まさかの年下好き!」

『…ちょっと、変な勘違いやめてくれる?そんなんじゃないから』

「えー?じゃあなんで?」


…天童は、どうしてもそういう方向に話を運びたいらしい。女子かよ。


『手術のあとに、聞かれたの。“感動しました!あの、勉強にもなって!その!だから!れ、連絡先とかきいてもいいですか!?”って』

「…アイツ…」

「てか、それで教えちゃうんだネ」

『まあ、あんな真っ赤な顔でお願いされたらねー。悪い子じゃなさそうだし、いいかなって』


頼んできた際の五色くんの顔を思い出して笑っていると、苦笑いを浮かべた大平が「俺が教えとくよ」と言ってくれた。うん、どこの病院にもイイヤツはいるものだ。

そこから他愛のない話をしながら暫く盛り上がり、気づくとそろそろ日付を越そうとしている。「そろそろ切り上げよう」という大平の言葉に、デロデロになってしまった天童を白布が支えてお店の外へ。
会計を終えて出てきた大平に「いくらだった?」と尋ねたところ「気にするな。奢りだ」と返ってきたものだから、大平になら抱かれてもいいと思ってしまったのは内緒だ。
「それじゃ、覚は俺が連れて帰るよ」と白布から天童を引き取る何処までも男前な大平に手を振って別れると、「それじゃあ、私も」と帰ろうとすれば「は?」白布に睨まれてしまった。え、なに。


「…流石にこの時間に1人で返しませんよ」

『え?いやいや!平気平気。終電乗って帰るだけだし』

「…それが心配なんです。せめてタクシー拾いませんか?」

『お金勿体ないじゃん』

「…なら、やっぱり送ります」


「行きますよ」と言って歩き出してしまった白布。いや、本当に大丈夫なんだけど。
断りづらくなって、仕方なくその隣に並んで歩き出すことにした。

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