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HQ総合病院麻酔科医13


「苗字せーんせ!」

『え?…ああ、照島くん』


リハビリ科の前を通って麻酔科の医局に戻ろうとすると、呼び止められた。随分気軽に声をかけるな。足を止めて振り向くと、ニッと笑みを浮かべた照島くんが松葉杖姿で立っていた。
「リハビリの帰り?」「っす」「頑張ってるみたいだね」「まあ、一応」
照れたように頬を掻く姿は、この前までベッドの上で見せていたものとは正反対。元気になってくれて良かった。


『そういえば、もうすぐ退院できるんだってね』

「情報早いっすね」

『茂庭先生情報だよ。嬉しそうに報告してきたからね』


つい先日の茂庭の姿を思い出しながらそう言えば、「ふーん」なんてどうでも良さそうに返した照島くん。あ、でも頬っぺたが赤くなってる。なんだ、可愛い所もあるじゃないか。
内心笑っていると、あっ、と何かを思い出したように照島くんが口を開いた。


「…先生、実は俺さ…やりたい事、ちょっとだけ出来たんだよね」

『へえ。なになに?』

「…整体師。なれねえかなって」

『整体師?』


意外な返答に目を丸くして聞き返すと、照島くんは1つ頷いてみせた。


「…リハビリしながら、こういう風に怪我したヤツを助ける仕事もいいなって考えてたら、リハビリセンターの鎌先さん、だっけ?その人が、整体師とかどうだって言ってきて」

『鎌先がねえ…。けど、整体師になるには、資格とか必要なんじゃないの?勉強大丈夫?』

「ひっでェ!これでも少しはベンキョーできるっつーの!」


「…まあ得意ではないけど」唇を尖らせた照島くんに、今度こそ声を出して笑うと恨めしそうに睨まれた。
なんだかんだ言って、やっぱりいい子だなあ。ソッと笑んで目立つ金髪に手を伸ばすと、照島くんの目が丸くなる。


『頑張れよ、青少年』

「…頑張りますよ」


ポンポンと照島くんのアタマを撫でて踵を返そうとすると、「あのさ!」今度は、廊下に響く程の大きな声で呼び止められた「どうかした?」と振り向けば、悪戯っぽく笑った照島くんが声を張り上げた。


「退院したら!先生のことデートに誘うからさ!待っててよー!」

『…ふふっ…気が向いたら、行ってあげる』


後ろ手に手を振って、今度こそ歩き出す。
良かった。彼がまた笑えるようになって。出来ることなら、あすかちゃんも彼のように元気になって欲しい。
彼女の病室に向けて歩きながら、幸せそうに赤ちゃんを抱くあすかちゃんの姿を想像する。この未来が来ることを今は願うばかりだ。

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