それから、お幸せに
「なあ月島!結婚式どうだった??美味しいもん沢山食べれた??」
結婚式への出席を終えて参加した翌日の部活。
待ってましたとばかりに日向が駆け寄ってきた。一々面倒なやつだなあ。聞こえないフリをしてストレッチを始めると、「無視すんなよ!」と今度はギャンギャン周りを纏わりつきだした。ああ、うるさい。
「別に。スーツとか着させられて疲れた」
「えー!でも美味しいものとか食べられたんだろ??」
「…味なんて、覚えてないよ」
覚えているわけがない。そんなもの気にしている暇なんてなかったし。
純白のドレスに包まれた名前姉と、同じく白のタキシードを着た兄ちゃん。
2人は、幸せそうに笑っていた。
式の最中でも、披露宴でも、何度も目を合わせて微笑む姿は、幼い頃から何度も見てきた筈なのに、今までで1番、遠くて、でも綺麗な2人だった。
式の終わりに、皆の輪から抜け出してきた名前姉が、「来てくれてありがとう」と言った。「家族になるんだから、当然でしょ」と返した僕に、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
“…せっかく僕が諦めるんだから、幸せになってよね”
“…うん。蛍もね”
差し出された手に自分の手を重ねる。握手だなんて、なんだか不思議な気分だった。
「名前ー!」呼ぶ声に引かれて、直ぐにまた輪の中へ戻って行ってしまったけれど、振り向く前に、名前姉の目元で何かが光っていたのが見えた。
黙ってしまった僕を見て首を傾げていた日向は、「日向ボケェ!ちょっとこい!!」という影山の声に、ソチラに走って行った。ぼんやりそれを見送っていると、「ツッキー、」今度は眉を下げた山口が話し掛けてきた。
「…なに?」
「…明光くんと名前さんの結婚式、どうだった?」
「…別に。さっきも日向に言ったけど、スーツとか着させられて疲れたよ。料理を味わう暇もなかったし」
「そうなの?」
「そう。…でも、…味は、覚えてないけど、でも…でも、悪く、なかったよ」
「…そっかあ。それなら、良かったねツッキー」
山口が嬉しそうに笑う。あ、コイツ気づいてたのか。案外僕は分かりやすかったのかもしれない。
自然に緩んだ口元を隠すことなく笑うと、隣にいる山口もソっと顔を綻ばせた。
さよなら、僕の、初恋。
それから。
「(お幸せに)」
END
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