after
「ヘイヘイヘーイ!俺最強おおお!!」
ああ、いつにも増してテンションが高い。
この暑いのによくそんなに元気でいられるな。
うちが当番校となった梟谷学園グループの合宿。昼休憩にも関わらず声をあげている木兎さんにげんなりしていると、「…体力底なし…」隣の月島が迷惑そうに眉を寄せた。木兎さんと黒尾さんに無理やり引っ張られて一緒に昼食をとっている彼が1番の被害者かもしれない。
「そういえば木兎、お前例の彼女とどうよ?」
「ん?おおー!じゅんちょーよ!!」
「…木兎さん、彼女とかいるんですか…?」
「おうよツッキー!俺リア充!!」
「…その呼び方やめて下さい。ていうか、木兎さんの彼女って…類は友を呼ぶ的な感じの人ですか?」
「いや、全く。むしろ正反対」
あれと一緒にされたはあまりに苗字先輩が可哀想だ。
首を振って否定すると、「ほーう」面白いものを見つけたように黒尾さんが口元をにやけさせる。ああ、面倒だ。さっさと食べてしまおう。
辛すぎず甘すぎないカレーの最後の1口を食べ終えたとき、「え!?名前!?」と聞こえてきて、思わずソチラを振り向いた。
『こ、こんにちは……』
控えめにぺこりと頭を下げる姿は確かに苗字先輩本人だ。
「え、だれ?」「どこの子?」「結構可愛いくね?」
見知らぬ彼女の登場に、他校の人たちがざわつく中、「名前!!!」と勢いよく立ち上がった木兎さんが彼女の元へと走り寄っていった。
「え!?ま、マジで見に来てくれたの!?!?」
『う、うん…やっぱり、ダメだったかな…?』
「ダメじゃねえよ!!めっちゃ嬉しいけど、でも、バレーあんま知らねえって言ってたよな??」
『……わ、私も…その…す、好きな人の好きなものを知りたいって、思った、から…』
…ああ、暑い。さっきよりも室内の温度が高くなっているきがする。主にあの2人のせいで。
ポカンとしている黒尾さんと月島を横目に、木兎さんの分のトレーを持って立ち上がろうとすると、「え、ちょ、ちょいちょい赤葦、」黒尾さんに袖を掴まれた。ああ、捕まってしまった。
「え、もしかして、あれが木兎の彼女??え、マジで??」
「そうですけど、何か問題でもありますか?」
「いや…なんつーか、イメージと違いすぎて…あんなthe優等生って感じだと思ってなかった…」
呆然とした様子で木兎さんを見る黒尾さん。それにつられるように月島が頷いたのも見逃さなかった。
「…確かに、あの2人正反対ですよ。うるさいを絵に書いたような木兎さんと、図書室で本を読むのが好きな苗字先輩ですし」
「…よくくっついたな…」
チラリと2人の様子を伺う。
どうやら差し入れを持ってきたらしい先輩は少しおどおどしながらそれを木兎さんに渡している。嬉しそうに笑ってそれを受けとった木兎さんは、普段からは想像がつかないような柔らかい笑顔を零した。
微笑ましいけれど、そろそろ周りの視線に気づくべきだ。嫉妬の炎で大変なことになっている。
「…波長が合ったんでしょうね」
「ふーん…けど、苦労したんじゃねえの、お前。木兎のやつ、恋愛なんて今までまともにしてなさそうだし」
「…そうですね…付き合う前にいきなりキスしようとしたときは、本気でぶん殴りました」
「木兎マジか」
「…けど、木兎さんの不器用さも然ることながら、苗字先輩もなかなかに恋愛下手ですし」
木兎さんに真っ直ぐにぶつかってくれた苗字先輩。もっとほかの立ち回り方だってあったかもしれないのに、彼女はただ単純に、真正面から向かってきた。そんな姿に、ああ、彼女も不器用だな、なんて思ってしまった。
「通じ合うものがあったんじゃないですか?」
「なるほどな…にしても、木兎くせに彼女もちとか腹立つな…ちょっとおちょくってくるわ」
そう言って、自分の皿を置いていったまま木兎さんたちの元へ行く黒尾さん。せめて、トレーを持って行って欲しい。
仕方なく黒尾さんの分も片付けようとすると、漸く食べ終わったのか、月島が黒尾さんの分を持って立ち上がった。
「あ、ごめん月島」
「いえ、赤葦さんに1人させるのは悪いですし」
2人で4人分のトレーを片づけていると、「意外ですね」と月島がチラリと苗字先輩を見た。
「黒尾さんと同じこと言うね。さっきも頷いてたし」
「一緒にしないで頂きたいですけど、でも、そうですね。イメージとは違いましたね」
「…まあ、俺も木兎さんが苗字先輩を好きだって聞いて、少し驚いたけど、でも」
「?でも?」
「不器用同士、似たもの同士、案外、お似合いだよ。あの2人」
ちょっかいをかける黒尾さんから苗字先輩を守るように背中に隠す木兎さん。そんな背中の後ろで恥ずかしそうにしながら微笑む先輩の姿に、思わず頬を緩めた。
「(少しでも、手伝ったかいが、あったかな)」
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