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nineth


木兎さんが苗字先輩に、キス(未遂)をしようとした翌日の放課後。顧問に呼び出された、職員室からの帰り道、早く部活へ行こうと渡り廊下へ出ると、腕に数冊の本を抱えた苗字先輩がいた。
ぼんやりと下を見て固まっている彼女に不思議に思って、その視線の先を追うと、木兎さんともう一人、顔を赤くしている女子生徒がいた。


「…気になりますか?」

『っえ?…あ、赤葦くん!?』


つい話しかけると、目を丸くした苗字がこちらを向いた。本当に気づいていなかったのか。
「な、何してるの?」と慌てて話題を逸らそうとする彼女には悪いけれど、こんなチャンスそうそうないため、もう一度「苗字先輩こそ、どうして木兎さんを見ていたんですか?」と少し意地の悪い質問をさせてもらった。
すると、みるみる赤くなった先輩は、気まずそうに顔を俯かせた。


『…ぬ、盗み見るつもりはなくて……い、言い訳がましく聞こえるかもしれないけど、たまたま通りかかったら、その…』

「木兎さんの、告白現場を見つけたと」

『うん…それで、その…誰かの告白とか見たことないから、ちょっと気になって…』


耳まで赤くして恥ずかしそうにする先輩に、なんだか申し訳なくなる。まるで責めている気持ちだ。
「別に怒ってるわけではありませんよ」と出来るだけ柔らかく言うと、何処かホッとした顔をした苗字先輩は漸く顔をあげた。


「…あの、それより、さっき“気になった”と言いましたよね?」

『え?う、うん』

「…では、1つ聞かせてください。もし、彼処で告白されているのが、木兎さんでなくとも、苗字先輩は足を止めて見ていましたか?」


我ながら、なかなかに直球な質問だ。感がいい人ならこっちの意図など簡単にバレてしまうだろうが、ここ最近の付き合いで、彼女が鈍感なことは分かっている。このくらいじゃ、分かりはしないだろう。
投げかけられた問にキョトンを目を丸くした先輩は、何かを確認するようにチラリと木兎さんたちを見たあと、難しそうに眉を寄せた。


『…どうかな……多分…止めなかったんじゃ、ないかな…』

「…理由を聞いても?」

『…木兎くんは、最近仲良くしてる人だし…友達が誰かに告白されてたら、やっぱり気になるでしょ?』


なるほど、そう来たか。
苦笑いをこぼして「いえ、そうではなくて」と付け加えると、「え?」と首を傾げられた。


「…そうですね…では、もし彼処で告白されているのが、猿杙さんだとしても、足を止めてましたか?」

『え?猿杙くん?……猿杙くんかあ…どうかなあ…そう言われると、確かに……猿杙くんや小見くんなら、止めなかったかもしれないなあ…。そもそも、人の告白している所を盗み見るのって、あんまり良いことじゃないもんね…』

「…じゃあ、どうして木兎さんだと足を止めたんだと思いますか?」


ここぞとばかりに尋ねると、呆けた顔をした後、苗字先輩は微笑ましそうに、でも(これは俺の欲目かもしれないけれど)羨ましそうに目を細めた。


『…それは、多分、…木兎くんのあの子が、お似合いだったから』

「…え」

『上から見てる限りじゃ、恋人同士が、楽しそうにお喋りしてる所って言われても、納得できちゃうくらい、あの子と木兎くんが、お似合いだったから、かな』


静かにそう答えた苗字は、また木兎さんたちへと視線を移した。それに倣うように自分もソチラを見ると、目の辺りを制服の袖で拭った女子生徒が走り去る所だった。
やっぱり、フッたのか。いやまあ、もしここでOKなんてしているものなら、マネージャーたちからフルボッコ確定だろうが。
胸を撫で下ろして苗字先輩を見れば、複雑そうな顔をした彼女がいて、少し驚いた。そんな俺に気づいたのか、目が合った先輩は困ったように笑った。


『私、最低だ』

「え?」

『あの子が、木兎くんにフラれたの分かって、ホッとした自分がいるのが分かった』

「それは、どうして…」

『え?…どうしてかな…?多分、彼女が出来ると、さすがに今までみたいに仲良く出来なくなる…から?』


そうじゃないでしょ!
そうツッコミたくなるを我慢して、代わりにため息をはかせてもらった。先輩相手にため息つくなんて失礼もいい所だが、これくらいは許して欲しい。いくら何でも、この人鈍すぎる。
不思議そうな顔をしている苗字先輩と、目を合わせると、コテんと首を傾げられた。


「…考えてみては、もらえませんか?」

『え?何を??』

「木兎さんと、さっきの方が上手く行かなかったのを見て、ホッとしたのはどうしてなのかを、です」


教えることは簡単だ。多分、あなたは嫉妬しているのではないですか、と。でも、それでは意味がないのだ。彼女が自分で気づいてくれなくては。
パチパチと数回の瞬きの後、ゆっくりと頷いてくれた苗字先輩。そんな彼女に「ありがとうございます」と言って、チラリと木兎さんを見れば、タイミングがいいのか、それとも悪いのか、バッチリ目が合ってしまった。


「おーい!あかーしー!!!」

「はいはい、聞こえてますから、そんなに大声で騒がないで下さい」

「ってあれ!?苗字もいんじゃん!!おーい!!」

『木兎くん、元気だね』


嬉しそうに顔を綻ばせて木兎さんに手を振り返す苗字先輩の顔には、“好きです”と書いていそうなのに。出来ることなら、このまま何事もなく、2人がくっついてくれますように。

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