夢小説 完結 | ナノ
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seventh


『ぼ、ぼく、木兎くん!!』

「?おう、どうした?」

『あ、あの…な……な、なな夏祭り、一緒に…一緒に、行って頂けませんか!?』

「え………え、えええええええ!?ま、祭り!?お、俺と?俺と2人でってことか???」

『う、うん…』

「行く!!行きます!!行かせてください!!!!」










「それでな!!苗字から!俺を!誘ってくれたんだぞ!!!」


予想通り過ぎて、なんだか怖い。どうやら苗字先輩は俺が言ったとおり木兎さんを誘ったようだ。
デレデレと周りに花でも飛んでいそうな勢いで喜ぶ木兎さんに「良かったですね」と返すと、更にニヤケ始めた。


「木兎のくせに、女子と2人で夏祭り…」

「クソ羨ましい…」

「なっはっは!!俺ももうすぐリア充の仲間入りだぜ!!!」


腰に手を当てたまま、声を上げて笑う主将に少しため息をつく。このまま、何事もなく2人が付き合ってくれればいいが。


「…ほら、木兎さん。練習に行きますよ」

「おう!!」


声をかけて部室から出れば、スキップでもしそうな勢いで木兎さんも出てきた。今日の木兎さんは、きっと絶好調だろう。

練習が始まりしばらくすると監督も現れた。
「ちわーっす!!」「おう…木兎は随分と元気がいいな」「ふっふっふ…土曜が楽しみで仕方ないんすよー!」
監督に対しても御機嫌な笑顔を見せる木兎さん。その様子を見た監督は不思議そうに顎に手をあてた。


「…土曜…?…ああ、音駒との練習試合か」

「え、練習試合?」

「ん?なんだ言ってなかったか?今週の土曜は音駒と1日練習試合だ」


ピタリと木兎さんの笑い声がとまる。サアッも顔を青くするマネージャー2人に、額に冷や汗を浮かべる先輩たち。そんな、いや、まさか。


「…あの、ちなみに何時くらいまででしょうか…?」

「詳しい時間は決まっていないが、相手は音駒だし、場所も向こうの学校だから、こっちに帰りつくのは…大体8時頃じゃないか?」

「は…8時いいいいいいいいいいいいいいい!?」


体育館中に響いた木兎さんの声。一体どこからそんなデカイ声出してるんですか。耳を抑えて木兎さんを見ると、絶望だとでも言うように体育館の床に膝と手をついていた。
「夏祭り…苗字との夏祭り…」うわ言のようにそう呟く姿に、流石に同情してしまう。木兎さんの反応に首を傾げた監督は、どうしたんだ?というように俺を見てきた。俺は通訳ではないのですが。


「…土曜にある夏祭りに行けなくなって絶望しているんです」

「夏祭り?」

「ええ、でも、これは諦めるしかないですよ木兎さん」

「い、いやだああああああああああ!!俺は、俺は祭りに行くんだっ!!!」

「いくつですか!ワガママ言わないで下さい!」


面倒なことになってしまった。ショボくれモードだとかそんなもんじゃない。下手すれば練習試合を放棄してしまうだろう。
どうにか言いくるめられないか、と考えを巡らせていると、猿杙さんから助け舟が出された。


「まあまあ木兎。お前が練習試合ほっぽって祭りに行ったなんて知ったら、苗字は悲しむと思うぞ?」

「!?な、なに…?」

「あー、アイツ真面目だし、自分が誘ったせいだって落ち込むかもなあ」


猿杙さんに続いた小見さんの言葉に木兎さんは目に見えて動揺した。

夏祭りに行きたい!でも、苗字を悲しませたくない!

とか、考えているのだろう。本当にわかり易すぎる。


「ぬぐぐ……し、仕方ねえ…苗字を落ち込ませるわけには行かねえし……音駒だろうがなんだろうが蹴散らしてやるよ!!!」

「「おおーさすが我らがエース〜」」


マネージャー2人のほぼ棒読みのエールも功を奏したのか、木兎さんは再び笑い声を上げ始めた。良かった、なんとか納得してくれた。
気づかれないように小見さんと猿杙さんに「ありがとうございます」と小声で言うと、2人は緩く首をふってくれた。


「…けど、やっぱ苗字落ち込むかもなあ…」

「え?」

「いや、クラスメートの女子に夏祭り誘われてたとき、なんかこう…恥ずかしそうだけど嬉しそうに“他の人と約束してるから”って断ってたんだよ」

「木兎と行けるの、案外楽しみにしてたんだろうねー」

「…そう、なんですか」


なんだか物凄く悪いことをしてしまった気がする。俺が木兎さんを誘うように言わなければ、そもそもこんなことにならなかったわけだし。
視線を下げてため息を零すと、苦笑いした鷲尾さんに肩を叩かれた。


「まあそう落ち込むな、赤葦。お前のせいじゃないさ」

「…いえ、でも、俺が木兎さんを誘うように言ったので、申し訳なくて…」

「でも、これで少なくとも名前が木兎に、結構気があるって分かったわけだし、大丈夫大丈夫」


励ましてくれるようにそう言ってくれる雀田先輩。非常に有難いのだが、背中をバシバシ叩くのはやめて欲しい。
「ありがとうございます」と返して、もう一度木兎さんを見ると、いつの間にか笑うのを止めていて、どこかボーッと窓の外を見つめていた。

どうにも、上手く行かない。

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