third
「「で?」」
「だ、だから!なんもねえって!!」
部活終了後、自主練時間になるとここぞとばかりに木兎さんに詰め寄る小見さんと木葉さん。予想通り過ぎて頭が痛い。
「嘘つくなよ!」「好きなんだろー?苗字のこと」「す、好きじゃねえし!!」「またまたー」
こんな感じのやり取りが続き、木兎さんにトスをあげる予定の俺は手が空いてしまった。サーブ練に切り替えてもいいだろうか。
「ほらほら、言っちまえよ木兎」
「言えば楽になるぞー?」
「(尋問だな…)」
「だあああああ!!そうだよ!!俺は苗字が好きですよ!?何が悪いかよ!?!?」
「言質取れましたー!!」
「え!?なになに??木兎、好きな子できたの??」
木兎さんの叫び声に、片付けをしていたマネージャー2人まで集まってきた。女子はこういう話が好きだと言うけれど、どうやら本当らしい。
これは長くなると踏んで、サーブ練習に切り替えるとためにエンドラインの方へ行こうとすると、何故か腕を掴んで止められた。離して下さい木葉さん。
「苗字って名前のことだよね??木兎とじゃ全然タイプ違うし、クラスだって違うじゃん」
「どうやって知り合ったの??なんで好きになったの??もう告った??」
「…白福先輩、質問は1つ1つにしてあげて下さい。木兎さんの目が回ってます」
とりあえず早く終わらしてもらおう。
「答えて答えて」木兎さんを促す雀田先輩にため息をついていると、顔を真っ赤にした木兎さんが、言いづらそうに口を開いた。
「…前に、たまたま古典の課題すんの忘れてて…」
「たまたまじゃないですよね?」
「…そんで、課題の代わりに図書の本の整理する図書委員手伝ってやれって言われて、昼休みに図書室行ったら苗字がいた」
ポツリポツリと話し始めた木兎さん。
いつ茶化そうかとニヤニヤしていた先輩たちだったけれど、予想と違うらしい木兎さんの反応に3年生たちは段々と真剣な顔になった。
「本の整理しながら、少しずつ話すようになって、まあ…ほとんど俺の話するばっかだったけど…俺の話聞きながら、苗字、スゲエ楽しそうに笑うんだ。しかも、その顔が超可愛いんだ」
頬を緩めて話す木兎さんに、素直に驚いた。この人のこんな顔は初めて見たかもしれない。チラリと先輩たちを見ると、同じような表情で呆気にとられる先輩たちがいて、まるで自分を見ている気分になった。
「古典の先生に、もう手伝わなくていいって言われてからも、苗字に会いたくて、本の整理が終わるまでは手伝うって言って図書室通った。けど、本の整理は思ったより早く済んじまって…「ありがとう」って笑ってくれた苗字がやっぱ可愛くて…図書室に行く理由欲しさに、本、借りることにして…」
「それで今朝の本ですか」
「わ、笑いきゃ笑えよ!!」声を荒らげる木兎さんだったが、そんな言葉に反して、3年生たちは何故か涙ぐんでいた。
「笑えるか!!」
「木兎…あんた、そんなに名前のこと…」
「…俺、数秒前の俺を殴りたい…こんな純粋な木兎をからかってやろうとしてた俺を殴りたい…」
「お、お前ら、なんで泣いてんだ??」
異様な光景だ。3年生が集まって泣いているなんて、かなり異様だ。尾長がビックリしてますよ。
小さくため息をついて、先輩たちを見ていると、珍しく自信なさげな顔をした木兎さんがチラリとこちらを向いた。
「…なんて顔してるんですか」
「…あかーし…」
「別に、ショボクれる必要ないと思いますよ。少なくとも、苗字先輩は、木兎さんのこと嫌いでははさそうでしたし」
「ほ、ホントか!?」
「…まあ、この前見た限りではですけど…」
「お、俺!自分のこと話してばっかだけど!俺、嫌われてねえかな!?」
「いや、ですから、俺が見た限りでは大丈夫じゃないかと…」
「っしゃあああああ!!じゃあさじゃあさ!もう告ってもいいかな!?」
「…え、いやそれは…」
それはどうだろうか。あくまでも友人としては嫌いではなさそうに見えたのであって、告白が成功するかどうかは別だ。
言葉を詰まらせてしまうと、輝いていた目があからさまに暗くなった。ああ、やっぱり面倒くさい。だれか助け舟だしてくれ。
「まあまあ木兎。もう少し名前のこと知ってからでも遅くないって」
「うんうん」
「…けど、その間に苗字に彼氏できたらどうすんだよ!?はっ!つか、アイツ今彼氏いんのか!?!?」
「それもまだ知らねえのかよ…」
呆れる小見さんに同意だ。もし苗字先輩に彼氏がいたら告白しても無駄に終わるだけだ。そして、告白が上手く行かなければ、この人は最大級に面倒なことになるのが目に見えている。
とりあえず、無闇に突っ走るのは止めよう。
「お前ら、そろそろ自主練しろよー」今まで黙って様子を見ていた鷲尾さんの言葉に、漸く木兎さんの恋バナから解放される。
「木兎さんっ」
「おっしゃ!」
あげたトスを打って「ヘイヘイヘーイ!」なんて盛り上がる姿を見ながら、ふと先ほどの木兎さんを思い出す。
先輩たちではないけれど、後々面倒になることなども抜きにして、この人の恋が上手く行けばいいな、なんて思う自分に、ほんの少し笑ってしまった。
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