約束するーpromise
目が覚めると、カーテンの隙間から柔らかな朝日が差し込んでいて、眩しさからほんの少し目を細めた。
眩しいなあ。
日に当たるのを避けるように寝返りをうったとき、ふと隣がやけに寂しいことに気づく。
『え……け、いじ、くん…?』
人の体温をほんのり残したシーツ。
京治くん、どうして?どうしていないの?
上体を起こしてベッドから飛び降りる。まさか、本当に行ってしまったなんて。
リビングに繋がるドアを開ける手が震える。もし、もし探しても、彼がいなかったら、私はどうするんだろうか。どうしたらいいのだろうか。
薄らと瞳に張られた膜が溢れて頬を滑ったとき。
「…名前さん…?」
『っ!け……、京治くん!!!!』
勝手に扉が開いたかと思うと、開いたそこには大好きな彼がいた。
嬉しくて、安心して、思いきり彼の体に飛びつくと、切れ長の目が驚いたように丸くなった。
「…すみません、今日は休日ですし、ゆっくりさせてあげたいと思って…」
『…ううん、ごめん。でも、ビックリして…』
縋るように黒いニットのシャツを掴むと、落ち着かせようとしてくれているのか、その手を優しく包まれた。
そういえば、今何時だろうか。京治くん、まるで何処かへ行ってきたような格好だ。チラリと確認するようにベッド脇のデジタル時計を見ると、もう昼食時だ。こんな時間まで寝ていたのか。
『京治くん、何処かに出かけてたの?』
「ああ、ちょっとバイト代が入ったのでこれを…」
『…これって…』
握っていた手を離した京治くんは、ポケットの中から小さなケースを取り出した。ケースと京治くんの顔を見比べていると、「受け取って下さい」と手のひらの上に乗せられた。
開けてもいいのだろうか。京治くんを見上げて確認すると、緩く笑んだ彼が1つ頷いた。
緊張と期待で高鳴る心臓の音を聞きながらケースを開けると、中に入っていたキラリと光る銀色に今度は私が目を丸くした。
「1月分のバイト代全部費やしても、このくらいのものしか買えませんでしたが…一応、ペアリングなので」
『ペアって…』
ケースに入った指輪から顔を上げると、首元で揺れるリングを見せるように京治くんが微笑んだ。
「俺は指に付けられないんで、チェーンも買ってこっちにしておきました」
『これ、ちゃんとしたブランドのものだよね?本当に私が貰っても…』
「俺が貰って欲しいんです」
ソっと左手をとられると、右手に持っていたケースから指輪が抜き取られ、そのまま支えられていた左手の薬指にゆっくりと嵌められた。
キラキラ光るそれに乾いたはずの涙がまたこみ上げてきて、ギュッと下唇を噛むと、堪えきれなかった涙はさっき作った流れた跡をもう一度辿る。
「名前さんは、こっちに付けてて下さいね」
『…うん…付けるね、絶対……絶対外さないから…』
愛おしむように指輪に口付けると、ひんやりとした冷たさが伝わってきて、なんだか心地よく感じた。
「ありがとう」と微笑んで見せると、京治くんの整った顔が近づいてきてソっと目を閉じた。重ねられた唇がゆっくりと離されると、困ったような顔をした京治くんがいた。
「…ところで名前さん、そろそろ服を整えて貰わないと、我慢、効かなくなりそうなんですが」
『え?…あっ!』
しまった。昨日の夜、下着だけ身につけたらすぐに眠ってしまったんだった!「ごめん!!」謝りながら服を着ようとクローゼットへ向かおうとしたけれど、それを阻むように背中から包まれた。
『ちょ、え、あ、あの、京治くん?』
「時間切れです。我慢、効かなくなりました」
『え、え!?あ、あの、でも…』
「ベッド、戻りましょうか?」
引かれた腕に、全身が熱を持ったように赤くなる。
休日が、休日になりそうにないな。
押し倒してきた京治くんに、自分からキスをしてみせると、結局、夕方になるまでまともに起き上がることはできなかった。
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