夢小説 完結 | ナノ
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考えるーthink


部活を終えて、木兎さんの自主練にも付き合って、いざ帰ろうと着替えていると、木葉さんがふいに声をあげた。


「なんか赤葦、最近調子いいよな」

「そうですか?」

「おー、なんか目に生気がある」


それ、いつもは目が死んでるって言いたいんですか。
呆れたように木葉さんを見ると、ニヤニヤとした意地の悪い笑みを向けられた。
あ、これは聞き流すべきだ。
誘いに乗らずに着替えを再開したけれど、それでも木葉さんは更に絡んでくる。


「もしかして、コレかコレ?」

「え!?マジかよ赤葦!!」


小指をたててニヤニヤと此方を見てくる木葉さんとそんな木葉さんに乗っかる小見さん。
その仕草古いですよ。
なんて内心ツッコミながら「違います」とロッカーを閉めた。


「本当か?先輩に嘘ついてんじゃねぇだろうな?」

「は!?そういえば、この前1年の超可愛い子に告られてただろ!!あの子か!!」

「だから、彼女とかいませんから」


わあわあと騒ぐ先輩たち。
もう帰ってしまおう。
小さくため息をついて、荷物を肩にひっかけ「お疲れさまでした」部室を出ると外はもう暗くなっていたので、足早に家へ帰った。


『え、赤葦くん、彼女いないの?』


帰りの木葉さんたちとのやり取りを苗字さんに話すと「意外、」と目を丸くされた。
この奇怪とも言える夢を見るようになってからそろそろ1ヶ月が過ぎようとしている。


「そうですか?」

『うん、赤葦くんってモテそうだし。彼女の一人や二人いると思ってた』

「いえ、二人は絶対にあり得ません」


つい冷静に突っ込んでしまうと、苗字さんは面白そうにクスクスと笑った。
それに、自分の頬も緩んでしまう。
彼女と話すのは嫌いじゃない。
こうして隣に座っているだけで、やけに気持ちが落ち着くのだ。
柔かな笑い声を聴き逃さないように耳を傾けていると、満足したのか「そういえば、」苗字さんが思い出したようにこちらを向いた。


『ボクトくんは、今日はなにもなかったの?』

「…ボクトさん、ですか」


ワクワクと、まるで新しい玩具を前にしている子供のように苗字さんの目が輝いているのが分かる。
いつしか木兎さんがお気に入りになってしまった彼女が、あの人の話をする度にこんな顔をするのは珍しくない。
けれど、最近それが少し面白くない。


「今日は特に…」

『そっかー、まあそんなに毎日失敗談があるほど何かしてたら大変だもんね』


残念そうに眉を下げた苗字さん。
もう少し考えれば、何かあったかもしれない。
なにせ、木兎さんだし。
「すみません」と謝ると、「謝ることじゃないよ」何故か笑われてしまった。
そのとき、ふと木葉さんに言われた言葉を思い出した。


“なんか赤葦、最近調子いいよな”


自分ではそんなことないとは思うけれど、周りから見ると本当にそう見えるのかもしれない。
そして、そう見えるのはきっと、彼女のおかげだと思う。
目の前の笑顔をぼんやりと見つめながらそんなことを考えていると、苗字さんの姿が少しずつ薄くなっていった。


『あ、そろそろだね』

「…はい、そうですね」


「またね」と笑う苗字さん。

“また”

その響きが心地よく聞こえるのは、なぜだろうか。


「はい、また明日」


ゆっくりと一度閉じたはずの瞼を開くと、見慣れた自分の部屋の天井が見えた。
もう少し、話していたかった。
なんて考えてしまうのは、いけないことだろうか。

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